第137話 学園ニュース確認。これ報道して良いの?




 いやぁ。この世界の住民すげえな!

 〈ダン活〉プレイヤー以上の熱気を感じる。

 少し見直した。


 また、納得もできた。

 おそらく、あの人たちはずっとくすぶっていたのだろう。

 研究成果がなかなか出ずにいきどおりも感じていたはずだ。

 ゲーム時代も同じような事があった。最後の3職の発現方法がどうしても判明せず掲示板が荒れに荒れ、そして判明した瞬間スレが4分で埋まるカオス空間になった事がある。もう誰が何を書いているのか読めもしていないはずなのに超盛り上がった。アレと同じだろう。


 今までの鬱憤と好奇心と達成感、充実感、その他諸々の感情が超大爆発したんだ。


 ダンジョンからの帰り道。

 先ほどの初ダンの光景を思い出してそう考える。


 この世界の住人はモンスターを相手にする場合、その多くが職業ジョブの恩恵を受けてからだ。だって生身でモンスターの攻撃を受けたら大変だし。

 それ故にモンスターを倒す系の条件がクリア出来ず、高位職に至る人物は少なかった。


 そこで俺がヒントをリーク。

 モンスターを倒した人が高位職に至りやすいということを婉曲させて伝えておいた。


 あれから数日。それなりの日数が経っているのは研究所でも生身の学生にモンスターを相手にさせて良いのかと協議したのだろう。というか学園ニュースにそう書いてあった。

 速報で「ピコン」と音を鳴らした学生手帳。何気なにげにあのギルドバトル以来の自己主張だ。それほど大事になっているという事だろう。




 のちに確認した学園ニュースには今の初ダンの騒ぎが画像付きで流れていた。バッチリ目がイッちゃった白衣の連中も映っていたぞ。これ、報道して良いの?

 軽くニュースを流し読みして今までの研究所の苦労話なんかは飛ばし、モンスターを倒す事が高位職発現の条件だったのだと報道陣へ涙ながらに語る研究所職員たちのコメントを読む。

 所長、大事な記者会見、部下に取られていますよ。イッちゃった目をしている場合じゃありませんよ。




 うむ。あの狂乱は少し予想外だったが、ちゃんと発現条件は見つけられたようで何よりだ。

 後はこの研究所の頑張りにより、この世界にも多くの職業ジョブ発現条件が広まっていくだろう。頑張って1021職見つけてくれよな。【勇者】ルートは無理だろうけど。


 彼らの行く末に幸あれ。




 研究員たちが正しい道へ進む事を願っていると隣から王女が食いかかってきた。


「ちょっと、いつまで肩を寄せているつもりよ! いい加減に離しなさいよ、恥ずかしいじゃない!」


「わ、私はもうちょっとこのままでも…」


「おっと?」


 気がつけば口から手を離し、ラナとハンナの肩に手を置いて寄せて歩いていた。

 完全にハーレム王状態だった。シエラはジトっとした目で見つめている。

 ちなみにあまり力は込めていないのでいつでも脱出は出来たはずだが…。


 このまま寮の方へ向かっても良いのだが、ラナが顔を真っ赤にしているので解放する。


「まったく、いきなり口塞がれて、何事かと思ったわ! そういうのはもっとこう、背中に壁とかが必要でしょ!」


「壁ドンしてやれと?」


 ラナは恋物語が好きだと少し前に教えてもらったが、また何かの本の影響だろうか?

 まあ、やれと言われたらやるよ? やる?


「い、今はダメよ。ダンジョン帰りだもの。そういうのはまた今度にしなさい!」


 あ、冗談じゃなかったのか。


「ラナ様、今度も何もありません。はしたないですよ。さあ、今日はもう戻りましょう」


 ラナがエステルにたしなめられて、それを皮切りに解散することになった。

 ラナ、エステル、シエラが貴族舎の方へ去っていくのを見送る。


「じゃ、じゃあねゼフィルス君。また明日」


「おう。ハンナ。また明日」


 ハンナは女子寮なので〈姫職〉組とは別方向だ。


 そちらも手を振って見送り、俺は一人マリー先輩の下へ向かう。





「兄さん聞いたか? 今の一年生たちのエリートエクスプロージョン。とうとう研究所の方が高位職の条件を発見したそうや! これは兄さんもうかうかしてられへんなぁ」


「ああ。そうだな。良い事だ」


「あ、良い事なんや」


 ニヤニヤしながら学生手帳を片手にからかって来たマリー先輩が俺の一言で目をパチクリさせた。

 ま、そのために情報をリークしたからな! 高位職の同級生ドンと来いだ!


「これで良い感じの職業ジョブに就いた奴を引き抜けるからな」


「さすがSランク目指しているギルドマスターは言う事が違うわぁ。うちのギルマスにも見習ってほしいなぁ」


 俺の言い分にマリー先輩がケラケラ笑う。


 ニュースによれば、現在初ダンでは話を聞きつけた上級生の勧誘合戦が再び勃発しているらしい。

 しかし、研究員たちが鉄壁のガードで学生たちを守り…、いや連れ去り、手が出せないような事が書かれていた。荒れているなぁ。


 引き抜けるのは当分先になりそうだ。でも楽しみだなぁ。どんな人たちがいるだろうか。


「今日も買い取りか?」


「おうよ。今回は初の初級上位ショッコーにチャレンジしてきたぜ。〈孤島の花畑〉を探索してきたから少し奥の部屋使わせてもらってもいいか? 中身の仕分けがまだなんだ」


「なんや、またとんでもなく多そうやなぁ」


「ああ。マリー先輩から買った〈優しいスコップ〉が大活躍だったぜ」


「うちのせいやった! 狙い通りや!」


 ま、今回は〈小狼の浅森ダンジョン〉の時より少ないさ。ボス周回も全然してないし、採取した素材の半分以上はハンナ行きだしな。

 勝手知ったるになりつつある奥の部屋で〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉から次々仕分けして取り出していき、阿吽あうんの呼吸でマリー先輩が買い取り用〈空間収納鞄アイテムバッグ〉に詰めていく。

 千を軽く超す素材があったけどほぼ採取系だ、俺とマリー先輩に掛かれば30分と掛からない。


「まいど~」


「じゃ、それは買い取りで頼むな。あとマリー先輩、明日朝一番でまた『能玉化のうぎょくか』と、あと『レシピ解読』を頼みたいんだが、いけるか?」


「任せてや。あの子も明日はおるし、『レシピ解読』も出来るで」


 あの子とは髪がボサボサだった眠たげな先輩の事だろう。

 見た目はちょっと酷かったがスキル『能玉化のうぎょくか』は脅威のLV10だ。実績もあるし信用出来る。

 明日早速ハンナとラナを連れてこよう。


 前回の事もあるし、どんな〈魔能玉まのうぎょく〉が出来上がるのか。

 それに〈小狼の浅森ダンジョン〉でラナが引き当ててから放置していたレシピも気になる。


 楽しみだなぁ。




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