第126話 オークションは売専だ。買うなんてとんでもない




 朝からなんやかんやあって時刻はすでに10時。


 今日は日曜日だ。

 そして日曜日と言えば、〈ダン活〉で週に一度、オークションが開催される日でもある。


 オークション会場となるのは学園のC道と飲食店が立ち並ぶエリアの一角、極普通の見た目のお店で行われている。

 なんとなくイメージするコンサートホールのような劇場で札を立ててビッドし競り落とすシングルオークション形式、ではない。

 その方が異世界的ではあるが、〈ダン活〉はゲーム。効率重視のネットオークション形式が主に採用されていた。

 まあシングルの方も進めばあるんだが、Fランクには参加出来ない。主にミールの金額的な意味で。


 店には無数の商品が羅列され、その横には古代アーティファクト端末が設置されている。

 これを使い自分の欲しい商品に金額をビッドし、あとは日曜日の終わりを待つばかり。

 落札できていればその商品を購入できる。というどこにでもありそうな形式だ。

 ちなみにオートビッド自動入札機能もちゃんとついているのでそこそこ便利だったりする。


 俺はゲームの時、オークションはほぼ売専だった。


 オークションに出品されたアイテム、非常にお高い金額になる。

 買うとなると定価の何倍もミールが飛んでいくのだ、とてもじゃないが気軽に手を出せるものではなかった。


 手を出すには最低でも【商人】系のキャラを抱えていて、それなりの儲けを出していなければならない。じゃないと簡単に破産する。恐ろしいところなのだオークション。

 たまにここでしか手に入らない商品が出品されるから恐ろしい。アレが出るたび何度悲鳴とミールが飛んだか…。


 また、オークションは非常にレア度の高い商品が販売される。

 それ故にオークションはドロップし損ねた物の入手先として〈ダン活〉プレイヤーはよく利用していた。


 〈上級転職チケット〉や〈扉の鍵〉もここで入手が可能だ。お高いけどな。


 〈ダン活〉は、普通のゲームではストーリーを進めている途中に手に入るような、所謂『大事な物』もボスドロップで入手する仕様だった。その特性上、ドロップが辛いとのがすことがままある。

 それにボス周回をする時間が無くて厳しいというユーザーへ向けて、このオークションでそういう激レアアイテムは入手出来る仕様になっていた。

 要は救済処置だ。お高いけどな。


 まあ、ここにたより切りになると破産するのである程度は自分で頑張って入手しなければならない。もしくは厳選が必要だ。


 ここまでは買いについての説明。


 しかしオークションは、売る分には何倍もの値段で売れるため非常に重宝する場所だ。


 ここで一つ制限があり、なんでも無制限に出品できるものではない。各ギルドランクに応じて毎週の出品数が決まっているのだ。

 ちなみにFギルドなら1品。そこからランクが1つ上がるごとに出品できる数が1品ずつ増えていく。


 オークション側としても、価値の低いものが多く出品されるより、高ランクギルドが出品する目玉的商品が多く欲しい、ということだろう。Fランクの素材とかほとんど売れないからな。

 オークションに〈クマアリクイの大毛皮〉とか置かれていても、ちょっと困る。

 だって学園の売店でもたまに売ってるし。定価だけど。




 ということで本日はオークションだ。

 ギルドに集まった俺たち〈エデン〉のメンバーは計6人。俺、ハンナ、シエラ、ラナ、ルル、セレスタンだ。エステルはリカとカルアと共に初級ダンジョンに向かうらしいのでこの人数で〈オークション会場〉通称:オク場に入店した。


 ちなみに通称名のオク場は〈ダン活〉プレイヤーの間でも読み方が分かれる。

 天上という意味を籠めてオク場屋上と読むプレイヤーもいれば、虫歯という意味を籠めてオク場奥歯と言うプレイヤーもいた。オークションの闇が見えるようだ。痛い痛い。


「ここがオークション会場? なんだか思っていたのと違うわ。もっとこう、札を上げたりは無いの? これじゃ普通のお店じゃない」


 予想通り、ラナはシングルオークションを想像していたらしい。


「こうでもしないとダンジョンの攻略が滞っちゃうからなぁ」


 オークション会場は日曜日限定オープン、出品物も朝十時までに持込なので当日まで何が出品されるか分からない。

 プラス、普通の入札式ならダンジョンに行って、もし欲しいものを逃したらと考えると張り付く人が現れるだろう。当然ダンジョン攻略は停滞する。

 それを防ぐために入札はオートビッド自動入札機能が採用された。と開発陣が説明していたのを思い出す。


 オートビッド自動入札機能は最初に入札しておけば他の入札があったとしても自動で自分の記入入札額まで最低額で上書き入札してくれる機能だ。入札額を超えられたからと言って上書きする必要が無いので、朝入力したらオークションに張り付かずにダンジョンへ行ける。


 おかげで〈ダン活〉プレイヤーは時間を効率的に使うことが出来たのだった。

 欲を言えば数日とおしでダンジョンに潜りたいので〈学生手帳スマホ〉にオークション機能を付けてほしかったが。そうすれば簡単に…いや、これはわがままだな。



 しかし、いざ現実化リアルにしてみると、オートビッド自動入札は確かにちょっと味気ない感じがしなくもない。


 俺も札を上げて落札してみたかった。まあ、俺たちもいつかはシングルオークションに参加しよう。まだ〈エデン〉にはそれだけのミールは無い。破産する。


「ゼフィルス君、これってこの値段で合っているの? 桁が一つ間違っているように見える気がするけど?」


 ハンナが一つの商品の前で首をかしげそのまま俺に聞いてくる。


「合ってるぞ。オークションはそんな感じに値段がふくれやすい。その分珍しいレア素材やドロップ、創作品なんかが並んでいるんだ」


「ほへぇ。私の錬金した品も乗せられる?」


「ま、それはかなり先の話だけどな。上級ダンジョン素材を使ったアイテムなら売れるんじゃないか?」


「上級ダンジョン素材か~」


 品の値段を再度見て、分かりやすく目がミールになるハンナ。

 だけどハンナが作ったとしてこの額全部もらえるわけじゃないからな? 今度から資金運用について新ルールも追加するし。後で教えておいてやろう。


「ゼフィルス様、出品が完了いたしました」


「ご苦労さんセレスタン。助かる」


 セレスタンは一足先にここに来て出品を済ませておいてくれた。

 見ればディスプレイケースに〈大きな魔宝石・トパーズ〉が飾られるところだった。

 最初の出品金額は10万ミールから、これは通常価格の10分の1にあたる金額だな。

 さて、あとはどこまで伸びるか、だ。最低でも100万ミールは超えてほしい。


「はわ! 愛!」


 そう思って眺めていたら何やらルルが突然叫んでテテテという効果音付きでディスプレイケースへ走った。何事だ?

 そしてルルは俺たち〈エデン〉の出品物の前で立ち止まる。まさか、〈大きな魔宝石・トパーズ〉がルルの琴線きんせんに触れたのだろうか? そういえば現物は見せた事が無かった気がするぞ? なんだ、もしかして欲しかったのか?


「このぬいぐるみさんからは、愛が伝わってきます!」


 違った。〈大きな魔宝石・トパーズ〉の下に可愛らしいぬいぐるみがあったらしい、ルルはそっちのとりこだった。

 ってまたぬいぐるみか! さすが自称ぬいぐるみ愛好家。


 ちなみになんとなく分かってきたが、彼女の言う〈愛〉というのは「可愛い」とか「愛でる」の略語りゃくごのようだ。普通に愛という意味で使う時もあるみたいだが。見極めには経験値が足りない。


「ゼフィルスお兄様! これ、欲しいです! 愛します! ください!」


「ん? ってそれ…はっ!?」


「どうしたのゼフィルス君?」


 ルルが指さすペアのぬいぐるみを見て思わず言葉が詰まった。

 そんな俺をハンナが心配そうに声を掛けてくる。


 そういえばここはオク場、普通のぬいぐるみなんて置いてあるはず無かったのだ。

 ルルが見つけた愛が伝わってくるぬいぐるみ、愛なんてとんでもない。


 それは2つのぬいぐるみが抱き合っている姿をしており、片や天使の輪が頭に付き背中に天使の翼を付けたぬいぐるみ。片やコウモリの翼を頭と背中に付けたぬいぐるみ。

 「人種」カテゴリー、「天使」と「悪魔」を出現させるためのキーアイテム。


 〈天魔のぬいぐるみ〉だった。




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