第121話 細かい話はいい。とにかく最強育成論だ!




 勇者付きの執事。

 そんな言葉聞いた事も無いぞ。

 しかもだ、


「え? 今日から付き人やるのか」


「はい。可能でしたら、その予定です」


 その後の面接は問題ありまくりながらも終了した。

 セレスタンは何故か残り、メイドさんと従者さんの二人は先に帰っていった。

 ちなみに3人とも〈エデン〉がEランクに上がった暁には加入することが決定した。

 これでメンバーは12人。(内数名が内定)


 最強のギルドに着々と近づいてきていると感じる。

 それ自体は大変良い事である。しかしだ、

 まずは目下の問題を解決したい。


「なんで残ったのかなぁと思ったらそういうことか。………、いや、一瞬納得しかけたけどやっぱりわかんないわ。順序立てて説明してくれない?」


 国王の命令で勇者の付き人になるらしいセレスタン。

 だが、ラナの説明では正直事態を全く飲み込めない。説明プリーズ!


「実は、ぼくもよく分かっていないのです」


「ほう?」


 聞いてみると【バトラー】の職業ジョブを獲得出来たのが今期の1年生でセレスタンだけだったために選ばれたようだ。無論、性格面やその他諸々も問題無しと考慮済みである。


 一昨日突然実家の方から呼び出され、なんやかんやと言ううちに王命が書かれた書類を見せられ、いつの間にそうなったのか王女様と面会する事となり、最後はギルド〈エデン〉に所属する事になったらしい。今ココ。


 見事に流されまくってるなセレスタン。本当に濁流だくりゅうに意思関係なく揉みくちゃにされる流木のような見事さだ。


 しかし、そうなるとセレスタンは好きで俺の付き人に付いたわけじゃないのか?

 そう聞いてみると、


「いえ。ぼくは【バトラー】に就くため、いつか高貴な主人に付けるように切磋琢磨し、日々邁進まいしんしてきました。伝説の【勇者】に付けるとはこれ以上名誉な事そうはありません。ぼくは【勇者】の付き人になれた事、心から嬉しく思っています」


「お、おう。そうなのか」


 恥ずかしげも無い言葉に俺は少し面食らう。うん、まあこういうのも有りじゃないかな?

 一応〈エデン〉のメンバーは身分差なんて関係ない同等の仲間だ。としているが、上下関係はある。ラナとエステルとかな。

 それが俺にも該当がいとうされただけに過ぎないんだろう。その辺は問題ない。


 問題なのは…………あれ? 特に無さそうか?


 王命で執事が付く。一見なんか大変な事のように思えるが、よくよく考えてみたら問題なんて無いように思えた。クエストも発生していない。そこにどんな思想があるのか知らないが、【バトラー】が付いて不利益になるような事なんて無かった。むしろウェルカムである。

 ということで、


「まあ、いっか。改めてよろしくなセレスタン」


「はい。こちらこそよろしく願います。それと」


「なんだ?」


「呼び方はゼフィルス様、でも構いませんか?」


「……いいんじゃん?」


 俺が様付けか。そんな大それたことはまだやっていないんだが。まあいい。いつかは言われるだろうからな。それが少し早まっただけの事だ。ふはは。

 俺は頷いて了承する。


「話は纏まったようね!」


 今まで珍しくおとなしく待っていたラナが、話が無事纏まったとみていつもの調子で立ち上がった。

 俺はラナを労う事にする。


「よくおとなしく待っていられたな。良い子だ。頭撫でてやろうか?」


「子ども扱いしないでよ! 私王女よ! 王女子ども扱いするな! でもどうしてもと言うなら撫でても良いわよ」


 冗談で言ったら頭を差し出された。何このツンデレ、可愛いんだけど。


 優秀なカテゴリー持ちを3人も連れてきたのだ。何か礼をしないととは思っていたのでとりあえず頭を撫でてやる。〈銀のティアラ〉が微妙に邪魔だ。


「ふ、ふぁ……。も、もう良いわよ。十分だわ。これ以上されたら食事が喉を通らなくなりそうだもの」


 緊張でもしていたのか?


「驚きました。ゼフィルス様とラナ殿下はとても仲がよろしいのですね」


 セレスタンがその様子をマジマジと見つめニコリと笑顔で言ってきた。その笑顔からは驚いた様子は見えないが、ポーカーフェイス上手いなセレスタン。

 でも、普通なら驚くよな。俺もラナの行動にはいつも驚かされっぱなしだ。


「そうね! 【聖女】と【勇者】はとても仲良しよ。これ、最重要だから、しっかり憶えておきなさいセレスタン!」


「かしこまりましたラナ殿下」


 何か二人だけに通じ合った事柄が話し合われているのは気のせいだろうか?

 多分気のせいだろう。




「あとセレスタンに聞きたいんだが、【バトラー】はどこまで育ってる?」


 これ、重要。聞かずにはいられない最重要項目さいじゅうようこうもく


「はい。現在【バトラーLV2】ですね。SPはそれぞれ『宮廷作法』『ティー生産』『ストレートパンチ』のスキルに2ずつ、『毒味』に1を振っています」


「あ~、なるほど。そう育てちゃったか」


 『宮廷作法』はパッシブスキルでDEX上昇効果、カルアの『素早さブースト』のDEX版だな。生産職にならないならあまり上げる意味は無いが、『ティー生産』がバリバリの生産スキルだ。〈紅茶〉や〈ロイヤルミルクティー〉といった〈ティー〉系の料理アイテムを作製するスキルである。


 料理アイテムは【調理師】系のグループが専門生産職業ジョブにあたるが、実は〈ティー〉系の料理アイテムだけは【執事】や【メイド】の方が専門になる。

 しかし、やはり生産特化職とは比べものにならず、〈ティー〉系は他の料理アイテムと比べて効力はかなり落ちる。そのため俺はゲーム時代『ティー生産』や『宮廷作法』はあまり育てた事は無かった。


 しかし、ここはリアル。

 もしかしたら味に非常に良い効力をもたらしている可能性がなきにしもあらず。

 SPは振ったら戻せない。なら敢えてこのまま育てさせちゃうというのも有りかもしれないな。あと今度ごちそうしてもらおう。


 次の『ストレートパンチ』は【闘士】系の職業ジョブが多く持っているスキルだ。

 腰の入った良いパンチが繰り出せる。単体攻撃スキルだな。


 最後の『毒味』は、自分が料理アイテムを使う時の効力を底上げする能力だ。何故毒味で料理アイテムの効力が上がるのかは知らない。


 その他、ステータスも口頭こうとうで聞かせてもらったのだが……、俺としては少しいまいちというものだった。特に今後の未来像、【バトラー】をどう育成していきたいかも聞いてみたが、セレスタンは【バトラー】に就いて日が浅く、今は【バトラー】という職業ジョブについて勉強している最中だという。


 それを聞いた途端、口角がニヤリと上がった。

 それはちょうど良い! 俺が教えてやる!


 【バトラー】っていうのはな、耀く場所がポイントなんだ。

 そこを押さえておかなければ、どう育てればいいかなんて分かるはず無い。

 何しろ【姫騎士】のように色々な到達点のある職業ジョブなのだ。


 俺の【勇者】や、ラナの【聖女】は戦闘でこそ耀く。

 では【バトラー】はどうか?


 それを、今から伝授してやろう。


「実はセレスタン、【バトラー】の最高の育成論があるんだが、興味は無いか?」


 俺はそう言ってさっき書いた【バトラー】の最高育成論メモをヒラリと見せた。




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