第103話 ボス戦。〈筋肉殺し〉の〈デブブ〉現る!
午後4時、いつもよりだいぶ時間を掛けて15層へ到着した。
シエラは結局本調子には程遠いものの、それなりに慣れてきた様子だ。今では『ガードスタンス』での被弾率がかなり下がっている。ゴーストとの戦闘の仕方を自分なりに見つめなおすことが出来てきているようだった。
「ボス、行けそうか?」
「当然でしょ、と言いたいけれど。今回ばかりはあなたに頼るしかないわね」
「おう。任せておけって」
〈幽霊の洞窟ダンジョン〉のボスは〈デブブゴース〉。通称:〈デブブ〉。
『分裂』と『融合』を使うデブの幽霊だ。腹が三段になっている。
しかし、見た目に反しその実力は中々に強く、また〈筋肉殺し〉の異名まで持っている。
その肥え太った〈デブブ〉は口から〈チビゴースト〉を生み出し、〈チビゴースト〉で物量攻撃を仕掛けてくる。
ただ〈デブブ〉は〈チビ〉を生み出せば生み出すほど身体が縮み、HPが減少していく仕様だ。そして最大で32体もの〈チビゴースト〉を『分裂』してくる。
厄介なのは〈チビゴースト〉は倒せないと一定時間で力を蓄え、〈デブブ〉に食べられてしまい、〈デブブ〉の身体とHPが回復してしまう『融合』をしてくるところだ。
【筋肉戦士】では
とにかく物量で攻めてくるタイプなので、いくら被弾率が落ちてきたとはいえ本調子ではないシエラでは荷が重い。
大量の幽霊に囲まれるのだからもしかしたらコンディションが低下して無抵抗でボコボコにされる可能性すらある。
今回ばかりは俺も手伝うとシエラと話をつけた。
〈デブブゴース〉の攻略法は簡単に言えば、〈チビ〉を削り、本体を殴り倒す、である。
〈デブブゴース〉は本体を攻撃されると〈チビゴースト〉のヘイトを大量に稼いでしまうので遠距離魔法アタッカーなどは注意が必要だ。紙装甲だと本体に攻撃した瞬間チビに群がられてあっという間に戦闘不能になってしまう。
故に攻撃するタイミングが非常に重要だ。〈チビゴースト〉が居ない隙を突かなければいけない。
事前に全員に攻略法を通達しておく。
「本体への攻撃は合図があるまで絶対に避けろよ? 特にラナとハンナはHP紙なんだからな」
「うん。気をつけるね」
「分かってるわ! 合図があるまではチビどもを狙えばいいのね!」
「あとエステルはRESもHPも高いからチビの数が少なくなったら本体攻撃しちゃってもいいからな。その時はラナ」
「回復ね、任せて頂戴!」
「了解しました。またチビゴーストが出されたら
「良し。みんなちゃんと理解しているようだな」
作戦会議も終え、いよいよボス戦開始だ。
「じゃ、行こうか」
「ケケケケケケケッ!!!」
門を潜ったところで部屋の奥に鎮座する、風船のように膨らんだ紫色の巨大な物体から笑い声が発せられる。
あれがこのダンジョンのボス。〈デブブゴース〉である。
「よし。まずは〈チビ〉が出てくる前に先制攻撃だ。ハンナ、ラナ!」
「『ファイヤーボール』!」
「『光の刃』! 『光の柱』!」
本体をリスク無く攻撃できる貴重な機会。始まりの洗礼だ。
ハンナとラナの遠距離攻撃は練習の甲斐あり寸分の狂いなくボスに着弾、HPを削った。
『光の柱』は地面から立ち上るエリア攻撃だ。『光の刃』より威力は少ないがその分範囲攻撃となっている。
「グケケケケケッ!! ボボボボボボボボ!!」
笑い声が途絶え、とうとう〈チビゴースト〉が出荷される。数は最初なので8体だ。
口から〈チビ〉が出されるたび、その分本体の〈デブブ〉が少し小さくなる。
「『ガードスタンス』!」
シエラの全体挑発が飛ぶ。
これで本体に稼いでいたラナとハンナのヘイトもシエラが上回った形だ。
「『シャインライトニング』!」
「『プレシャススラスト』!」
シエラに群がるチビゴーストの前に割り込んで俺は範囲攻撃を放った。
チビはHPが少ないので簡単に全損して消滅していく。
今回一度の攻撃で6体も仕留めた。
後に続くエステルが残り2体を串刺しにして消滅させる。
おお、やるなぁ。あえてチビゴーストを直線で結び、スラストでまとめて串刺し攻撃する高等技術だ。戦闘中だとこれがなかなか上手く決まらないんだよなぁ。
エステルもだいぶ槍に慣れてきた様子だ。
「『ファイヤーボール』!」
「『獅子の加護』! 『聖魔の加護』! 『光の刃!』 『光の柱』!」
チビゴーストが消えたため、本体を攻撃するチャンスだ。
遠距離からハンナとラナの攻撃がまたデブブを削る。
さらにラナの攻撃力と魔法力上昇のバフが全体に飛んだ。
「ゲ! ケケケケケケ! ボボボボボボボボボボボボボボボボ!」
次は倍の16体だ。〈チビゴースト〉がまた出荷される。
「『ガードスタンス!』」
「『シャインライトニング』!」
「『プレシャススラスト』!」
先ほどと同じループで、引き寄せ、範囲、串刺しの順に消滅させるが今回は数が多く5体が残った。クールタイムが解けるまでは再度攻撃は出来ない。
「「「「「ケケケケケケ!」」」」」
すべてのチビがシエラの下に向かい、一部
「あう」
「『ソニックソード』!」
やはりゴーストを前にするとシエラの反応は若干鈍くなり、火の玉の一つが直撃する。
俺は
「『回復の祈り』!」
ラナの回復がシエラを包んだ。一瞬でシエラのHPが全回復する。
元々シエラは硬いのでそんなダメージを負っていないが、継続回復は出来るときに付与しておいた方がいい。
その後、チビもまた倒し終わり、3ステップ目。
今度は24体。この辺から少しきつくなってくる。
取りこぼしが無いよう処理していかないと、ボスに回復されてしまうからな。
しかし、その考えは杞憂だったようだ。元々中級ダンジョンで通用する装備に身を包んでいるメンバーが大半なパーティ。殲滅力がかなり高く次々チビを屠っていく。
特にラナがチビ相手に無双中だ。『光の刃』と『光の柱』、二種類の攻撃方法を持っているため殲滅速度が段違いだ。しかも『光の柱』はエリア範囲魔法。しかも少し長く残るタイプなのでシエラの前に設置発動しておけば挑発に吸い寄せられた〈チビ〉が勝手にエリアに入って消滅していく。強っ!
「ゲゲッ!? ボボボボボ―――――ッ!!!」
あっと言う間に4ステップ目だ。最大数32体の出荷がされる。ボスのHPはもう半分近くまで減っていた。ここからが本番だな。
俺もタンクに加わる。
「『アピール』!」
「『挑発』!」
シエラも『ガードスタンス』から『挑発』に切り替える。さすがに不調のシエラに32体を受け持つのは不可能だ。
俺が前に出て、シエラは後衛を守る。
「『シャインライトニング』!」
範囲攻撃で俺に向かってきた〈チビゴースト〉を一掃だ。
こっちに向かってきてくれるので巻き込みやすい。今のだけで13体も倒した。うひゃ、一掃するの気持ちいい!
「『光の柱』!」
「『ファイヤーボール』!」
シエラの方に向かった〈チビ〉はラナとハンナに任せよう。
俺とエステルはそのまま本体へ向かう。
次の〈チビ〉を補充される前に、〈チビ〉が少なくなったところを一気に叩く。
「『
「『プレシャススラスト』!」
「グッゲェェェェーッ!!?」
STRが150を超える俺とエステルの一撃が刺さった。こりゃ相当なダメージが入ったな。
シエラたちのところに向かっていたチビたちが慌てたように戻ってくる。
「『レギオンスラスト』!」
「『シャインライトニング』!」
「『光の柱』!」
「ゲゲェェェェ!?」
集まってきた〈チビゴースト〉をさらに範囲攻撃で殲滅。
ついでに俺はボスの側面に回り込んで〈チビ〉もろとも〈デブブ〉も攻撃の範囲内に入れる小技でさらにダメージを稼いだ。
「ゲゲゲゲ――ッ!! ボボボボボボ―――――ッ!!」
最後の抵抗とばかりに〈チビゴースト〉が上限いっぱいまで補充される。
〈デブブ〉はすっかり痩せ細ってしまった。三段腹は見る影も無い。
もう、あと数撃入れれば勝てるだろう。
「シエラ! 『ガードスタンス』を頼む!」
「『ガードスタンス』!」
シエラの全体挑発がボス部屋いっぱいに広がった。
チビたちが我先にとシエラの方へ向かいボスががら空きになる。
「今だ、叩き込むぞ! 『ソニックソード』!」
「『プレシャススラスト』! 『ロングスラスト』!」
「『光の刃』!」
「『ファイヤーボール』!」
地味に『
シエラに向かっていた〈チビゴースト〉たちは本体が連続攻撃にさらされて慌ててUターンを決めて戻ってきたが、時すでに遅し。チェックメイトだ。
「ゲケケッケッ…ケ………」
シュルシュルと風船から空気が抜けるように小さくなっていく〈デブブ〉が膨大なエフェクトと共に消え去った。
同時に〈デブブ〉の一部だった〈チビ〉たちもエフェクトをまき散らして消える。
残されたのは大量のドロップと、金色に耀く宝箱だった。
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