第82話 テンション爆上げの時はクルクル踊るのが基本




「金箱!」


 まずハンナが反応した。さすが。


「待てハンナ。飛びつくな、待ってろ、待てだ」


「ぜ、ゼフィルス君、私犬じゃないんだけど…」


 金箱に目が無いハンナだ。前回開けさせてやったのにまだ開け足りないのかダッシュで駆け寄ろうとしたためインターセプトで待ったを掛ける。

 犬扱いされたハンナが抗議の視線を向けてくるが、スルーした。


 しかし、〈金箱〉は激レアドロップ。滅多に拝めるものではない。

 ラナ、エステル、シエラも反応は様々だが〈金箱〉に目が釘付けのようだ。


「これが金箱、初めて見たわ! どんなお宝が入っているのかしら」


「前回ゼフィルス殿はここで金箱を開けて〈幸猫様〉を獲得したと言っていましたし。楽しみですね、ラナ様」


「あれはレアボスのドロップだったからそこまでの物ではないでしょうけれど、宝物は楽しみよね」


 全員でまず他のドロップを〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉に詰め込んだ。

 せっかくの金箱オープンの時に周りが散らかっていたら感動が薄れるからな。


「さて、誰が開ける?」


「はい!」


「ハンナは前回開けただろう! ステイだ」


 そう問うた瞬間勢いよくハンナが手を挙げた。もちろんダメだ。


「俺も前回開けたし、まだ経験の無い3人に譲ってやれ」


「はーい」


 うむ。素直なところもハンナの魅力だ。


 今回の〈金箱〉は1個だ。

 普通は1個。レアボスなら2個の宝箱を落とす。

 しかしまれに〈幸猫様〉の『幸運』が発動して倍になる事もある。

 レアボスから〈金箱〉が4つドロップした時なんかマジテンションがぶっ壊れるからな。あれはいつか経験させてあげたいぜ。

 全員でクルクル踊ろうな!


 さて、今回の〈金箱〉だが、もう一度言う、1個しかない。

 誰が開けるのか、もしかしたらドンパチが起こる可能性も危惧していたが、杞憂だった。


 そこは王族貴族の淑女たち。普通にローテーションで開ける事に決まり、今回のトップバッターはラナに決まった。

 にこやかに〈金箱〉の前に立ち、蓋に手を置くラナ。しかしその手はピタリと止まる。


「こ、これはアレね、ドキドキするわね。なんかクセになりそう…」


 ラナが呟いた言葉が聞こえてしまったが、その気持ち、すごくよく分かる。


 俺だっていつもドキドキしっぱなしだ。ゲームではプレイ時間8000を超える俺だがこの瞬間だけはいつまで経ってもたまらんという気持ちだ。このためにダンジョンへアタックを掛けていると言っても過言では無い。


 1度手を胸に当て深呼吸したラナは意を決して宝箱を開いた。


 中に入っていたのはなんだと全員の視線が箱の中に向き、ラナがそぉーと取り出す。

 それは手に収まるほどの、鍵だった。


「〈扉の鍵〉キター!!!」


 テンションが一瞬でMAXを食い破って口から飛び出した!

 思わずガッツポーズを取ってしまう。


「ひゃ! び、びっくりしたじゃない! 急に叫ばないでよ!」


「これが叫ばずにいられるか! ラナこそ叫べよ! やったぞーって万歳三唱ばんざいさんしょうだ!」


「ちょ、しないわよそんな事。待って、手を掴まないで、照れるじゃない!」


「ばんざーい、ばんざーい」


 ラナが開いた金箱に入っていた物は、正式名称〈隠し扉の万能鍵(鉄)〉通称:〈扉の鉄鍵〉。

 文字通り隠し扉発見時、鍵の掛かった扉を開ける事が可能な鍵だった。しかも破壊不可の永続に使えるタイプである。


 これが〈ダン活〉では非常に重要なアイテムだったんだ。


 〈ダン活〉はタイムアップが設定されている関係上、ドロップが来ないと詰む仕様があった。故に開発者は断腸の思いでボス周回を簡単なものにした経緯がある。


 何故か〈ダン活〉は普通のRPGならストーリー上進めていれば取れるはずの、所謂いわゆる『大事な物』に分類されるアイテムでもボスドロップで手に入れる仕様だったため、ドロップが辛いと先に進むのが非常に困難になることがあった。

 〈上級転職チケット〉がその筆頭だな。アレが来ないとマジで詰む。


 そして隠し扉の解除キーも、当然のようにボスの激レアドロップ扱いだった。

 とはいえこれは来なくても詰む事は無いし、1回使い捨て用の鍵なら作成出来るため〈上級転職チケット〉ほど重要ではない。

 しかし作成に使用する素材が多いのと、モンスターが十数種類のドロップを落とす仕様のために目的の素材を集めるのがかなり辛かった。

 ボスのレアドロップを狙うのとトントンなレベルだったためみんな必死にボスを狩ったものだ。


 それが(鉄)とはいえ初級で手に入るとは幸先が良い!

 隠し扉の中にあるのはお宝だからな! お宝を超ゲットだ!

 このアイテム一個でレアアイテム数十個分の価値があると言えば俺のテンションが振り切れた理由も分かるだろうか。


 とにかくよくやったラナ! ラナは最高だ!


「わー!」


「待った。そこまでよ。ゼフィルス落ち着きなさい」


「おっと?」


 いつの間にかラナの手と腰に手を添えてクルクルダンスをしていたところでシエラから待ったが掛かった。

 強引にラナとの間に割り込んで引き離してきたので、つい「次はシエラの番か!」なんて言って腰に手を添えかけたところ盾で防がれた。ええ?


「違うわよ。なんでそうなるのかしら。冷静になりなさい、ラナ殿下が目を回しているじゃない」


 見れば「ふぃふぅ」と肩で息をして顔は真っ赤に、目をクルクルさせているラナをエステルが支えていた。

 おお、しまったやり過ぎた。すまないラナ。

 しかし、シエラもダメとなると、


「じゃあ俺は誰と踊れば良いんだ?」


「踊るのをやめなさいよ」


 呆れた風にシエラがジト目を送ってくるが、その後ろに待機したハンナが踊りたそうにチラチラ見ているのだが…。シエラに防がれてしまった。


 仕方ないのでラナが落ち着くまで鍵の性能について熱く語ると、シエラは感心したように頷いた。よかった、分かってくれたか。


「シエラも踊るか? クルクルするの気持ちいいぞ?」


「踊らないわ」


 勿体ない。レアドロップでテンション爆上げの時踊るとすごく気持ちいいのに。


「わ、私が――」


「後にしなさい」


「は、はーい」


「いや、テンション落ちた後は別にやる事でも無いんだが…」


 あれはテンションがMAXだから気持ちが良いんだぞ?


 さて、幸先も良く〈扉の鉄鍵〉も手に入ったし、転移陣へ向かおうとするシエラたちを引き留めて、ボス周回するとしますかね。



 〈扉の鉄鍵〉ドロップに浮かれまくった俺だったが、数日後にリアルの隠し扉って壊せるじゃん!? と思い出して愕然としたのはまた別の話。

 リアルになって価値が低くなっちゃったアイテムもあるとその時初めて思い知った。


 せっかく手に入ったんだから鍵使うけど!




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