第80話 初級中位ダンジョンでも負ける心配は無い。




 初級中位ダンジョンはパーティで挑む事が前提にされた構造になっている。


 罠だってあるし、敵の強さも数も増えてくる。

 ボスは同LV帯ではソロで勝てるレベルではなく、最低でも回復役は組まないと削り倒されてしまう。


 しかし、それでも初級には変わりなく、パーティをしっかり組めばわりと簡単に攻略できる難易度に設定されている。

 15層まであり、多くの役割を持ったモンスターが登場する事もあって、初級中位ショッチューで一度躓く人は少なくない。だが…、


「そっち行ったわよ! エステル!」


「お任せください。はっ!『ロングスラスト』!」


 エステルの両手槍がスキルを伴って痛烈なダメージを与え、ソードゴブリンはあっと言う間に消滅した。


「っと。『ソニックソード』」


「ゴブッ!?」


 俺も負けじとゴブを狩る。

 初級中位ショッチューならレベルの上限も上がるため俺も戦闘に参加している。


「終わったかしら?」


 最後の一体はシエラが『シールドバッシュ』を綺麗に決めて戦闘は終了した。


 残心。一度辺りを確認して一息つく。


「お疲れ。だいぶ良い感じになってきた気がするな」


 現在月曜日、朝から〈野草の草原ダンジョン〉に〈エデン〉のフルメンバーで攻略しに来ていた。


 そして見ての通り、躓く要素が皆無なほどの完勝。

 ラナが「また回復出来ない」ってボヤくほどだった。

 そのためラナには指示出し役を新たに任命させてもらった。


 俺は戦闘に忙しいからって頼んだら意気揚々とその役目を引き受けてくれたのだが、「あっち」「こっち」を多用するので今のところ実用性はほとんど無い。

 いや、パーティの空気を良くするのには役に立っているかもしれないな。ラナの声は力強く可愛くて、なんかやる気を起こさせる。

 エステルなんて顕著で、ラナから名前を呼ばれただけで嬉々として動いている。


 まあ、指示出しについては追々教えよう。ラナに習得出来るかは分からないが。



 さて新パーティとしての動きは悪くない。

 今までタンクのシエラとアタッカーのエステルで回していたところに両方が出来る俺が新たに加わったため安定感が段違いだ。

 シエラも、俺の動きとか最初は目で追っていたもののすぐに信用に足ると判断したのか、俺にも役割を任せてくれるようになった。


 現在ではシエラがタゲを取って、あぶれた奴をエステルが、二体以上なら俺も参加して狩り、ラナとハンナを守る。という役割が定着しつつあった。

 俺がタンクをするとシエラがあぶれるため自然とアタッカーに入る形になったな。


 シエラのタンクとしての安定感はとても良いので、これは中級ダンジョンでモンスター構成が6体に増えるまでは崩れる事は無いと判断した。


「よし、次はボス部屋に向かおうか。今の連携なら負けは無いからな」


「そうね! 早く行きましょ!」


職業ジョブLV17ですが大丈夫でしょうか?」


「私たちは高位職よ? SUPが高いのだからレベルが多少低くても能力値では問題ないわ」


「わ、私は応援だけになります。皆さん頑張ってください」


 活躍の機会が今のところボスだけのラナが、ボスと聞いて嬉々として先を急かそうとする。


 しかしエステルはLVが低い事が不安のようだ。確かにボスへ挑むならLV20が適正だ。


 だが、シエラの言うとおり、高位職はSUPが段違いで高い。適正LVというのは低位職に合わせている数値なのでLV17もあれば高位職は余裕で攻略可能だろう。

 それに武装がオーバースペックすぎる。

 たとえレアボスをツモっても負ける心配は無い。ソロでも勝てたからな。


 15層に降りて救済場所セーフティエリアで一度休憩した後、俺たちはボス部屋へ突入した。今度はハンナも一緒だ。

 話した結果「一人だけ攻略者の証を持っていないのはかわいそうじゃない!」とラナが言った鶴の一声で決まった形だ。俺としても異存は無い。〈『ゲスト』の腕輪〉も外させている。


「ラナ様ありがとうございます」


「べ、別に感謝される事じゃないわ。ハンナも〈エデン〉の仲間なのだから当然よ」


 今まで高貴なメンバーに気後れしていたハンナもラナに心を開き始めていたし、ラナも照れつつハンナと仲良くしたい様子で良い感じだ。


 心温まる美少女たちの会話にほっこりして、いざボスへ挑む。




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