第69話 再来の〈クマアリクイ〉好感度上げの好機到来?




「あれがボス。なんだか強そうね」


 救済場所セーフティエリアにたどり着いたあと、ラナが初めて見るボスの感想を言った。


「ですが、なんと言うか、可愛い見た目をしています」


「道中見た〈クイール〉ね。それを大きくしたものかしら?」


 エステルは可愛い系のぬいぐるみが好きなのか?

 確かにここのボスは割と可愛い見た目をしている。見た目だけだが。だってボスだし。


 シエラもボスについてはよく知らないようで俺に問うてくるので答える。


「見た目にだまされない方がいいぞ。なんと言ってもボスだしな。動きは1層の〈クイール〉と比べ物にならないぜ。ちなみに名前は〈クマアリクイ〉な」


「………くまなの? アリクイなの?」


「あ、それ私も同じ質問しました」


 まあ、疑問に思うよな。

 シエラが珍しくきょとんとし、ハンナがそれ分かりますと言わんばかりに手を伸ばす。

 シエラは訳が分からないままハンナと手を合わせた。ナカーマということだろうか?


「アリクイだ。だが動きはクマだな」


「どっちよそれ!」


 知らねぇよ。


 俺だって知りたいくらいだったが、開発陣はこの質問に最後まで答えなかったんだ。きっとなんにも考えていなかったに違いない。


 ラナが突っかかってきたのをスルーして休憩の準備を始めることにした。

 エステルはこういう時のやり方は熟知しているようでテキパキと手伝ってくれるのが印象的だった。やっぱり騎士といえば野営みたいなことは慣れているのかね。

 俺もさすがに本格的なことは分からないので、むしろ俺がエステルのお手伝いをしている形になってしまった。勉強になるなぁ。


 〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉から取り出した軽食を食べて英気を養った後、万全の状態でボスに挑む事となった。


「今度こそ活躍してやるわよ!」


「ラナ殿下の支援回復、頼りにしています」


「まっかせなさい!」


 今までまったく活躍の機会がなかったラナが燃えている。

 シエラも苦笑しながらそれを応援していた。

 しかし、本当に活躍の機会があるのかは微妙なところだ。


 こっそりシエラとその場を離れてラナに聞こえないよう相談する。


「本当ならボス前にタンクとヒーラーで回復や支援のやり取りを打ち合わせしておくものだが、まだ早いか?」


「そうね。ラナ殿下もまだ回復魔法を使ったことすらないのに色々言われても分からなくなってしまうと思うわ」


「なら、今回は回復魔法を練習させるだけに留めようか。シエラもさすがにボス相手ならダメージ入るだろ」


「盾で防げばほとんどHPは減らないと思うけど、たとえ盾が無くてもそこまで変わらないんじゃないかしら…」


「そうだなぁ。俺もそう思う」


 装備が強いって本来なら歓迎のはずなんだけど、回復魔法を使わなくちゃいけないとなると面倒だよな。脱いで怪我しろって言うわけにもいかないし。俺だって嫌だ。


 だけど、肩透かし食らったラナのことを考えると、これまためんどくさいことになりそうなんだよな。


「ま、LV20までの辛抱だって言ってなんとかしてみる。LV20で二段目が開放されれば攻撃魔法『光の刃』や『光の柱』を取れるからな。活躍の機会が増えるはずだ」


「わかったわ。ラナ殿下にはそれまで我慢してもらいましょう」


 ラナの活躍は当分先になりそうだ。





 多少の緊張感を秘めてボスへ挑む。

 まずシエラから門を潜ると〈クマアリクイ〉がシエラに注目した。


 ヘイトはまず一番に門を潜った奴に向くため、まずシエラから最初に入ったわけだ。


 何もしなければそのままシエラに向かっていくので、タンクがヘイトを稼ぎ始めるまで他はまずは傍観するのがセオリーだ。

 だったのだが、緊張ゆえか焦っちゃった奴が一人。


「『守護の加護』!」


 ラナだ。

 防御力がアップするバフが5人全員を包むと同時に、〈クマアリクイ〉の向きがギュインとラナへ変わる。


「ガァァァ!」


「ひゃ!」


 四足で駆け出した〈クマアリクイ〉の迫力にラナが悲鳴を上げる。


 あちゃー。最初はシエラが『挑発』使うまで傍観だと言っておいたのに。やっちまったな。

 遠距離攻撃が無いボスなので、遠くからヘイトを稼がれると突進してくるんだ。


 クマ並みの突進。すごい迫力だ。見た目アリクイだけど。


 ラナをやらせるわけにはいかないので庇うようにポジションに着く。


「ぜ、ゼフィルスぅ」


 後ろに庇われたラナの好感度が上がった気がした。


 うむ。女の子を庇うシチュエーション。これ、なかなか悪くない!

 あれ? いつの間にか俺の見せ場になってるじゃん。

 今〈クマアリクイ〉をケチョンケチョンにしたら最高にかっこいいかもしれない。いや、かっこいいに違いない!


 いや待て、今は三人のボス戦だ。俺は指導役。指導役なんだ。

 進んで手を出すわけにはいかない。…いかないが。

 でも少しくらいなら手を出しても良いよな?


 心の中の葛藤に早々に決着をつけて〈天空の盾〉を構える。

 新しく取ったスキル『ディフェンス』を使って防御勝ちを狙い、そこから一気に叩きのめす計画を練っていると、


 横から影が滑り込んできた。


「『カバーシールド』!」


 男顔負けの度胸で〈クマアリクイ〉との間に割り込んできたのはシエラだった。

 そのまま突進を正面から受けると、パッシブスキル『流盾技』に任せて突進を逸らす。

 見事な受け流しだった。


「ガァァ!?」


 〈クマアリクイ〉は勢いのまま体勢を崩してすっ転んだ。ダウンだ!


 あれ? 俺の出番は?




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