第67話 ジャングルダンジョン再び。連携もろもろ練習だ




 夜になって〈初心者ダンジョン〉に行っていた三人が帰ってきた。

 ギルド部屋で聞くと、全員ちゃんと合格を貰えたらしく(知ってた)今の時間までLV上げに潜っていたらしい。そのおかげで、


「どう、LV10よ! もっと褒め称えなさいよ!」


 ラナが腕を組んで胸を反らし、堂々と宣言する。

 3人ともLV10に至ったようだ。これで明日からは初級下位ショッカーに挑めるな! ちなみにラナのことはすでに何度も褒めているが、まだまだ褒めてもらいたいらしい。

 なんて贅沢! でも分かっちゃう!


「はいはいLV10おめでとう。何度も言ってるだろうに。しかし、これで初級下位ダンジョンの挑戦条件が満たせたな」


「はい。ゼフィルス殿の示されたとおりおこなって参りました。ラナ様も喜んでおられます」


「確かに効率的よね。その日に何度も周回してLV10まで上げるって。明日からは初級下位ダンジョンへ潜れるし。なんで1日一回しかダンジョンに潜れないと思っていたのかしら?」


 エステルが胸を張って報告し、シエラが今日の事を振り返って首をかしげた。

 シエラの言うとおり、この世界の学生は何故か高速周回をしない。ダンジョンから出たら終わり。という考え方が定着している。(公式裏技戦術は知られていないので普通の周回の意)


 そのおかげでレベル上げも遅く、ダンジョンでレベル上げをするより訓練した方が良いとまで言うやからもいる。話題の筋肉パーティとか、周回もしてないのにこれほど早く初級下位ダンジョンに台頭してきたのは間違いなくそれが理由だろう。ダビデフ教官に訓練漬けにされていたに違いない。


「明日から初級下位ショッカーへ挑むから、各自準備しておくように。何を用意すれば良いのか分からなければ俺が教えてやる」


 ちなみに俺も付いて行く予定だ。

 俺がサポートすればそれだけ早く初級中位ショッチューへ至れるからな。

 単純に彼女たちが追いついてくるまで俺が待っていられない、というのも無きにしもあらず。


「では教えてくれるかしら」


「ご教授願います」


「エステル、任せたわよ!」


「ラナも分からないなら来い。全員基礎から教えてやる」


 さすがは王族貴族の娘たち。授業も受けていないのにダンジョンの潜り方なんて分かるはず無かったので、俺が一から叩き込む事にした。特にラナ。

 シエラとエステルは戦闘能力は高いが、やはりダンジョンとなると少し違うみたいだ。


 ハンナも一緒になって〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉から色々取り出して俺の補助をしてくれた。比較的仲の良いシエラなんかはハンナに色々と質問していて、ハンナもつっかえながらそれに答えている。ハンナもうまくやっていけそうだな。

 

 その間俺はエステルの質問に一個一個答えつつ実演していった。

 ラナは、初めての事だらけなのか四苦八苦していて覚えが悪い。

 でもやろうとする意思と意欲はあるようなので応援したい。がんばれ。




 翌日。


 やっと本格的にダンジョンの攻略が始まろうとしていた。

 俺たちギルド〈エデン〉のメンバー5人、フルメンバーで初級下位ショッカーの一つ〈熱帯の森林ジャングルダンジョン〉へ向かう。


 今回は途中参加した3人のレベル上げが主だ。

 素材はあまり取り過ぎても嵩張かさばるだけで取り分はあまり良くないから今回は抑えるつもり。稼げないならスルーするのも重要だ。初級中位ショッチューの方が稼げるしな。稼ぐことが目的ならそっちでやった方がいい。


「ということで、3人にはLV15を目指してもらうぞ!」


「「「おー!!」」」

「おー」


 目標を宣言すると、全員が「おー」で返す。

 ラナとエステル、それにハンナの返事が良い。なんでハンナまで返事しているんだ? 君はこの中で一番レベル高いだろ?

 まあいい。モチベーションは非常に重要、テンションも良い感じだ。ラナは素で、エステルはラナに併せてって感じだな。

 シエラはクールにジト目である。次は合わせてもらうからな?


 LV15というのは初級中位ショッチューの入場に必要なレベルだ。

 最低LV15から潜れ、ボスではLV35までレベル上げが可能になるのが初級中位ショッチューだ。その他に「3つの初級下位ショッカーをクリアする」という条件もある。


 初級中位ショッチューはパーティでの攻略が前提になるダンジョンのため、今は攻略を自粛し、彼女たちのレベル上げの補助を優先することにした。

 というわけで、今日は5人フルメンバーでダンジョンに挑む。

 俺が補助する事で効率というものを学び取り、素早い攻略とレベル上げのやり方を掴んでほしいと思う。


 初ダンは平日の朝ということもあってガランとしており誰も居ない。

 ちょっと気合い入れるために声を出すのも問題ない。


「じゃ、出発!」


 先導するように〈熱帯の森林ジャングルダンジョン〉に入ると、ラナ、エステル、シエラ、ハンナの順に門を潜った。

 やっとパーティが本格的に始動したんだなと感じるぜ。






 門を潜って数日前にも訪れたジャングル一帯を見渡す。

 釣られるようにしてラナ、エステル、シエラ、ハンナも興味深そうに見ている。

 ハンナは一度来た事はあったが、今回〈優しいスコップ〉を片手に持っている。レベルは初級下位ここでは上がらないのでハンナは採集が担当だ。つまり採取ポイントを探している。


「ほんと、ダンジョンって不思議よね。一瞬で別世界じゃない」


「ラナ様、いつモンスターに襲われるか分かりません。気を抜かない方が良いかと」


「安心しろって、一層では道を歩いている時しか出ないから。立ち止まっていれば襲われる事は無いぜ」


 感嘆の声を上げるラナにエステルが注意を促すが、いつも気を張り続けていると疲れてしまう。なのでどういう時警戒するのか、どういうときなら気を抜いて良いのか。その辺も教えていく。


「それも調べたの?」


「いや、こんなの調べるまでも無いっつうか…。まあ、そうだな。シエラはしっかり警戒すべき所は伝授してやるから」


「………分かったわ」


 【盾姫】でパーティの要になるシエラは先頭を進まなければならない以上、モンスターや罠の類いに一層警戒が必要だ。

 今回は罠も無いし、警戒は歩いている時上だけ見ていれば良いので簡単だ。そうシエラに教えていく。



 道なりに進んでいくと早速アリクイ型モンスター〈クイール〉がぬっと上から落ちてきた。

 その前にシエラは発見出来ていたので焦らず前へ出て盾を構えた。


「『挑発』!」


 シエラがヘイトを稼ぐと、〈クイール〉がシエラに狙いを定める。

 シエラがタゲを取った事を確認し、ラナが防御力バフの魔法を使う。


「支援するわ『守護の加護』!」


 タリスマンを両手で持ち祈りを捧げると、俺も含めた全員にバフが掛かった。

 続いてエステルが前に出る。


 その手に持っているのは、見た目大剣に見間違うような長い両刃の槍だ。


 〈クイール〉がシエラの盾に弾かれて怯んだところにすかさず側面からスキルを使って斬りかかる。


「『ロングスラスト』!」


 エステルから放たれた突きが〈クイール〉に大きく刺さり、そのままエフェクトに包まれて消えていく。


 『ロングスラスト』は威力と、かなり射程が伸びる、突・斬撃の特性を持つスキルだ。

 エステルには斬撃系の『スラッシュ』ではなく突・斬撃系の『スラスト』を中心に伸ばさせている。


「良い感じだな。イメージはかなり出来ているか」


「ええ。でもまだモンスターの歯ごたえが無くって、手応えが薄いわね」


 連携を褒めると、少し不満そうにシエラが言う。

 ラナも俺の隣で面白くなさそうな表情だ。


「私なんて【聖女】なのにまだ回復魔法を使った事も無いわ。別に怪我をしろと言うわけじゃないけど、活躍の機会がまだ一度も無いのよ」


 今一番活躍しているのは間違いなくエステルだろうからな。逆に居ても居なくても変わらないのがラナだ。


「まあ、そうだろうな。だが今はまだ練習と慣らし期間だし、もう少しの辛抱だ。次の二層からは複数体モンスターが現れるようになるから、少しずつ難しくなっていくぞ?」


「楽しみね」


 ラナは活躍の機会が欲しいだけだなきっと。




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