第60話 ギルド創立記念パーティ。〈幸猫様〉の幸運を




 自己紹介の後はギルド創立の申請だ。


 ここ〈ギルド申請受付所〉に全員集まってもらったのはそういうこと。

 ギルドを創立する場合、3つの条件を満たしているか。

 その確認と、誰が所属しているのか本人確認が求められる。


 全員に申請書を書いてもらい受付に申請、あとは生徒手帳をスキャンして終了だ。


「ギルド名はどうなされますか?」


 受付を担当してくれた若い女性の職員が聞いてくる。

 その問いの答えはすでに決まっていた。


「《エデン》」


 迷わず即答する。

 俺にとってのリアル〈ダン活〉を表した的確な表現。

 夢が叶い、唐突に訪れた俺にとっての楽園。


 これ以上の言葉は無いだろう。


「確認します。〈エデン〉でよろしいですね?」


 受付嬢が俺たち5人全員へ問いかける。


「〈エデン〉、良いセンスね! 悪くないわ」


「はい。異存はありません」


「私もいいわ。ちょっと気に入ったし」


「うん。良いと思うよ」


 4人とも好感触だった。

 王女がごねるかと思ってダメだった時用に第二第三の候補も用意しておいたが、一番の候補が通ってよかったぜ。昨日必死に考えた甲斐があった。


「かしこまりました。これでギルド創立の申請は完了です。Fランクギルド〈エデン〉の創立、心からお祝いいたします」


 俺たちはその祝福を笑顔で受け取った。


 こうして俺たちのギルド〈エデン〉が正式に受理され、創立されたのだった。




 ギルド部屋の鍵に加え注意事項とギルド承認の書類を受け取って申請が無事完了すると、待ちきれないといった様子で王女様が言った。


「ねぇ、今からギルド部屋見に行きましょうよ!」


「そうだな。せっかく皆揃ってるんだし、見に行くか!」


 それは俺たち全員の希望だったので、そのままギルド部屋に向かうことになった。

 エステルが目的地を聞いてきたので書類にあった部屋番を共に確認する。


「ゼフィルス殿、ギルド部屋はどこにあるのですか?」


「ああ。お! ギルド舎A棟の5階みたいだ」


 VIP待遇だな。まあ王女他色々と優遇すべき人材が多いせいだろう。

 何しろこの学園にはギルドが1000以上もあるからな。


 そのためFランクギルドのためだけにギルド舎という建物が5棟も立ち並んでいたりする。

 A塔というのはその中でも重要な人物に与えられる部屋だ。最上階はVIP待遇でゲーム時代2周目以降のクエスト中でないと入れなかったが、リアルではこういうところも違うのな。


 ギルド舎A棟に向かうため一度外に出ると、俄かに周囲がざわめいたのを感じる。

 また注目を集めてしまったな。


 学生たちの視線は〈天空シリーズ〉を装備した俺、後ろに続いている〈白銀のティアラ〉を煌かせる王女、その王女を守護するように並ぶエステル。〈王家の盾〉として有名な家の令嬢シエラに注がれていた。

 ハンナは俺の陰に隠れて視線をカットしている。


「おい、あれって」


「なんだあの豪華なメンバーは!」


「王女ラナ様に噂の【勇者】。才女エステル騎士に盾家のシエラ伯女まで」


「最後の一人は…、見えないな」


「ああ、だがあの豪華メンバーに引けを取らない人物に違いないだろう」


「もしかしてパーティ組んだのか?」


「いや、あの建物は〈ギルド申請受付所〉が入っていたはずだ」


「じゃ、じゃあギルドの申請をしてきたって言うのか、まだ一年生だぞ!?」


「【勇者】の胸にある証を見てみろ。〈草原〉の証を付けてる」


「な! もう初級中位ショッチューをクリアしたのかよ!?」


 聞こえた内容からすると、なるほど。

 どうやら女性陣もかなり有名だったらしい。むしろ俺より注目されている気さえする。

 そしてハンナのお株が急上昇していた。ガンバレとしか言えない。


「うっとうしいわね…」


 シエラが大量の視線に辟易していたが、王女とエステルは気にしていないようだ。

 単に慣れているのかもしれない。



 注目にさらされながらA棟にたどり着くと、野次馬たちはどこかにすっ飛んでいった。

 俺たちがギルド舎に入った理由なんて考えられるのは一つしかない。

 きっと俺たちがギルドを創立したという噂は今日中に学園中へ広まりつくすだろう。


「ふわぁ、やっとついたぁ」


 俺たちのギルド部屋に着くと、ハンナが力の抜ける声を出す。

 鍵を取り出すと、カチャリと開けて中に入った。

 Fランクギルドのギルド部屋は普通殺風景なものだ。10個の椅子と机しか置いてない。

 しかしVIPの部屋は多少の明るい壁紙や少しだけゴージャス感のある白い机と椅子が設置してあった。うん、VIPとはいえ所詮はFランクだ。殺風景なのは変わりないな。


 ハンナがふらふらと椅子のひとつに座ってぐてーと伸びた。


「あら、ハンナ大丈夫?」


「シエラ様ぁ、こたえましたぁ」


「もう。シエラって呼び捨てにしていいって言っているのに」


「そんなこと出来ませんよぉ」


 ハンナが戦々恐々と「私、やっぱりとんでもないギルドに入ったんじゃ……」と呟いて震え、シエラがそれを慰めている。

 まあ、慣れろ。今更ハンナを逃がすわけないから慣れてもらうしかない。


 王女とエステルは、何も無い部屋が珍しいのかキョロキョロ部屋を歩き回っていた。


「ねえ、この部屋で何するのよ?」


 改めて何もないことが確認できたのか、王女がキョトンとしながらエステルを連れてやってきた。さっきまでわくわく顔で突入していたのに、いざ殺風景な部屋を見たら肩透かしを食らったらしい。


「そうだな。まずすべきことは、こいつを飾ることだろうな」


 そう言って〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉から取り出したのは、神棚と我ら〈ダン活〉プレイヤーの御神体、〈幸猫様〉だ。


「白猫のぬいぐるみ?」


「か、可愛いですね」


 お、エステルはどうやらぬいぐるみがお好きらしい。覚えておこう。

 だが〈幸猫様〉は御神体なので触らせてやるわけにはいかないぞ。


 本来黒板がある位置に神棚を取り付けると、その中央に〈幸猫様〉を配置した。

 瞬間、薄橙色のグロウな光をしたエフェクトが溢れ室内を満たした。


「わ、何これ!?」


「……綺麗ですね」


 突然の現象に王女が驚いた声をあげ、エステルの目が輝いた。

 ハンナも一時的に涙を引っ込めると部屋を見渡し、シエラも突然のことに目を見開いている。


「〈幸猫様〉〈幸猫様〉、どうか俺たちに『幸運』をお与えくださいませ」


 拍手を二回打って深々と祈る。

 すると、俺のステータスには無事『幸運』のスキルが生えていた。


「よっし!」


 これが〈幸猫様〉のお力だ。

 正式名称〈幸運を運ぶ猫〉はギルド設置型アイテムだ。ギルド部屋に飾ることでそのギルドに所属する全員にスキルを与える効力がある。


 他にもギルド設置型アイテムは多くあるのだが、今はコレしか持っていない上にFランクギルドには一個が上限なので他には配置することが出来ない。



 王女、ハンナ、シエラにもステータスを確認させて無事『幸運』が生えていることを確認した後は、机を並べて再び〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉から豪華な料理を取り出した。


 豪華料理はすべてハンナの手作り製。

 ハンナの料理は絶品なので姫職組も満足してくれるだろう。間違いない。

 昨日と今日の朝のうちにこうなることを見越してハンナに作ってもらっていたのだ。


 ギルド部屋いっぱいに広がるグロウな光が良い雰囲気を醸し出している。

 こんな中でパーティが出来たら最高だろう? ギルド創立記念だ、さあ祝賀会の始まりだ!



「さて、皆飲み物は持ったか?」


「とっくに持ったわ!」


 俺がギルドマスターなので音頭は俺の担当だ。全員がコップを持ったのを確認する。

 長話もなんなので手短でいいだろう。


「では、これからよろしく頼む! ギルド《エデン》に、乾杯!」


「「「「乾杯(です)!」」」」


 慎ましやかな乾杯が行われると皆がそれぞれグラスを傾けた。


 リアル〈ダン活〉を始めて三週間弱。やっと目標だったギルドが作れた。

 

 本当の〈ダン活〉の面白さは、ギルドを作ってからが本番だ!

 これからも、このリアル〈ダン活〉の世界を楽しみつくしてやる!



 ―――リアル〈ダン活〉、ギルド創立まで達成。


 第一章 -完-



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