第58話 俺はちゃんと〈ダン活〉の常識内で動いているぞ




 ボスドロップをすべて回収し終わったが、さすがはレアボス。

 通常のボスドロップでも良い物をいくつか落としていった。

 特に、貴重な錬金素材〈エンペラーゴブリンの王冠〉をゲットできたのはラッキーだったぜ。これはハンナ行きだな。

 ハンナも喜んでくれた。


 今回、ボス周回はしなかった。

 日が伸びてきたとはいえもう16時を過ぎている。

 エステルたちとの約束もあるし、ギルドの設営もしたい。

 というわけで、名残惜しいが帰還することにした。


「悪いな、ハンナはダンジョン攻略の証取れてなかったのに」


「ううん、大丈夫だよ?」


 ダンジョン攻略の証はボス勝利者にしか与えられない。途中で戦闘不能になったり、パーティメンバーだけどボス戦未参加だった場合証は与えられないのだ。

 つまりハンナはせっかく初級中位ショッチューをクリアしたのに証をもらえていなかった。


 普通なら悔しがるところだが、ハンナは俺におんぶに抱っこでここまで来られたからと言ってあまり気にしていない様子だ。

 まあ、また来る予定だからその時はハンナも連れて来ようと思う。


 ハンナがあまり気にしない様子なので、俺は〈天空の鎧〉の胸の部分に初級中位ダンジョン〈野草の草原ダンジョン〉攻略者の証を付けた。


 これで証は4つになった。

 初級下位ダンジョンの証が3つ、そして初級中位ダンジョンの証が1つ。


 胸に光る四つの証、なかなかいい感じじゃないか?


「うん、かっこいいねゼフィルス君」


「おう、ありがとよ」


 ハンナからも好評だ。


 軽く身だしなみを整えて『オーラヒール』でHPを全快にする。


「ふう。今日もお疲れ」


「お疲れ様~」


 ハンナとお互いを労いながらピンク色に光る転移陣に乗った。


 少しの浮遊感のあと、一面が変わり、俺たちは初ダンに帰還した。



 ザワッ。


「え? 何?」


 帰還した瞬間その場にいた上級生たちがざわめき、周囲から注目が集まる。

 突然のことにハンナがおろおろ縮こまり、そのまま俺の背に隠れた。


「ああ、コレだろ原因は」


 後ろに隠れるハンナに見えるように〈野草の草原ダンジョン〉の証を指差した。


 また一段とざわめきが場に響く。



「おい、あいつって」


「今〈草原〉から出てきたよな? え、一年生だろ?」


「おい胸のところ、証付けてやがるぞ!?」


「マジかよ!?」


「俺〈草原〉クリアまで3ヶ月掛かった…」


「まだ初ダンをうろついている奴らは皆そんなもんだろ」


「くそ、下級生まで俺らを抜いていくのか!」


「待て待て、【勇者】君の後ろの子、証付けてなかったぞ!」


「え、それじゃ【勇者】がソロでボスをやったって事か?」


「【勇者】ってそんなに強いのかよ!?」


 耳を澄ませば周りからそんな話し声が聞こえる。

 このままここにいたら面倒なことになりそうだ。


「ハンナ行くぞ。ビビッてないで背を伸ばせ、堂々としてろ」


「ええ、でもぉ」


「ダンジョンに居た時の逞しいハンナはどこに行ったんだ?」


「た、逞しくなんてないよ。私はか弱いの」


 確かにステータスはか弱いけどさ。


 指摘したらこっちでも面倒になりそうだったのでそこで話を終わらせる。

 肩で風を切りながら堂々と胸を張って歩き出すと、周りからの注目はそのままだが話しかけてくる奴は現れなかった。

 ハンナも後ろから鎧に触れて、ビビリながらも付いてくる。


「男の上級生ばっかりで、怖かったぁ」


 初ダンを抜けると途端にハンナからため息が洩れた。


 ちなみに未だ初ダンをうろついている上級生は落ちこぼれの類だ。劣等生のモブは男子学生、これゲームではお約束。ついでに言うと女の子ならヒロインになるのもお約束だ。残念ながら見たところ女の子はいなかったが。


 確かに男ばっかりのところでいきなり注目を集めたら、ロリっ子のハンナは怖かっただろうな。

 軽くハンナの頭を撫でて慰めてやる。…意外に髪が多いな、ポフッとした。


「う、あ、ありがと」


「お、おう」


 頬を少し赤らめて上目遣いのハンナに少しだけ動揺した。


 手を離すと「あ」っと寂しそうに声を出すのも胸に来る。

 ハンナ、いつの間にそんな技術わざ身につけたんだ?




 移動すること数分、俺たちはとある場所に来ていた。

 部屋看板に〈ギルド申請受付所〉と書かれている。


「来たわね!」


「あ、ゼフィルス殿。こんにちは」


 中に入ると、仁王立ちする王女とその隣で一礼するエステルの姿があった。


「悪い、待たせたか?」


「遅かったわよ! 私を待たせるとはいい度胸してるじゃない」


「ラナ様、5分も待っていなかったですよ」


 相変わらずのわがままな王女っぷりだが、表情は輝かんばかりに笑顔だった。

 たしなめるエステルも苦笑しているが、雰囲気は柔らかい。


 二人とも今日を楽しみにしていたようだ。


「昨日はなんだか生返事だったから改めて聞こう。王女様も俺のギルドに入るって事で良いんだよな?」


「仕方ないから入ってあげるわ! ――それに【勇者】がリーダー、【聖女】が支えるって鉄板だし」


 何故か偉そうに宣言する王女。後半は小声で聞きとれなかったが何を言っていたのだろうか?



 まあ、聞きたいことは確認できたので後ろのハンナを紹介しようかと思ったところ、奥にシエラの姿を捉えた。




 王女様やハンナたちに少し待っていてもらい、こちらを凝視したまま固まっているシエラの下へ向かう。


「よう。調子はどうだ?」


「そうね。おかげさまで、なんとか受け入れられたかしら。感謝しているわ」


「そりゃあ良かった」


 口調はいつも通りだが緊張しているのか動こうとしないシエラの手を取ってみんなの下へ向かう。


「あ、ちょっと。手…」


「動かないシエラが悪い」


「だって……。ねぇ、もしかしなくてもラナ殿下とエステル騎士って」


「知り合いだったか? ギルドメンバーだ。昨日シエラが帰った後誘った」


「……やっぱり、非常識だわ、あなた」


 失敬な。俺はちゃんと〈ダン活〉の常識内で動いているぞ?





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