第48話 シエラ勧誘中!タンクの中でも最高峰の〈姫職〉




「あなた、結構強引なのね」


「時と場合と人による」


「そう」


 なんとなくそれっきり会話が切れて、そのまま人気の無いラウンジまでやってきた。

 ラウンジにはいくつも個室があって防音完備。打ち合わせやギルドの会談などに使われている。

 その一室を借りて入室すると、俺はシエラに向き直り単刀直入に聞いた。


「俺にシエラの職業ジョブ取得の手助けをさせてくれ。その代わり無事に取得成功した場合は俺の作るギルドに入ってほしい」


「……一つ聞かせて、なんでそこまでするの? 私とあなたはあまり接点なんて無かったはずよね、理由が分からないわ」


「ウチのギルド、現在メンバー募集中だから?」


「なんで疑問形なのよ。別にそれは私じゃなくても良いでしょ、ということよ」


「そうだなぁ。呆れずに聞いてほしいんだが」


「呆れることを言うのね」


「まあな。シエラを選んだ理由は、「見た目」と「職業ジョブ」だ。なお、俺の独断と偏見による」


「…………。ごめんなさい。ちょっとよく分からなかったわ」


 一度は真剣に俺のセリフを噛み砕こうとして、出来なくてシエラはギブアップした。

 まあ、しょうが無い。


「そうだな。まず「見た目」だ。シエラは文句なしの美少女。俺の口からうっかりキザったらしいセリフが漏れるくらいに美少女だ。故に合格」


「はぁぁぁ……」


 この時点でシエラは大きくため息を吐いた。

 張っていた気が一瞬で漏れ出てしまった感じだ。


 冗談だと思われたのか? 「見た目」はかなり重要だぞ? モチベーション的な意味で。

 誰だって人気なキャラ、格好いいキャラの方がモチベーションが上がる。

 ゲームなんてキャラのスチルでなんぼの世界だ。


「次に職業ジョブ。俺は戦闘職をすべて高位職で揃えたいと思ってる」


「……それは無理じゃないかしら? 高位職なんてほんの一握りよ。それに高位職を取得した人は多くが高ランクギルドに持っていかれるわ」


「じゃあシエラも高位職を取得したら高ランクギルドに入るのか? なら話はここまでになるが」


「…………」


 あくまでこれは勧誘だ。慈善事業じゃない。そうほのめかす。


「【盾姫】だろ?」


「!!」


「はは、やっぱりか」


 シエラが取得したいと考えている職業ジョブを言い当てると、美しい顔を驚愕に染めた。

 おおう。この顔だけでも見る価値あるぜ。


「どうしてそれを知っているの? その職業ジョブに就けたのは歴史を見てもたった一人だけ。私の曾祖母だけよ」


 へぇ! それは初情報だ!

 ゲームの〈ダン活〉には確かに【盾姫】に就けた人物は歴史を見てもただ一人だけという情報はあった。しかし「伯爵家の娘だった」という僅かな情報だけでそれ以上のヒントは無く、俺らプレイヤーはそこから導かれる【盾姫】の発現条件について推理しなければならなかった。

 結果、ああでも無いこうでも無いと悩んだのち、他のジョブの発現条件を照らし合わせて似た感じの条件を試しまくった事で絞り込むことが出来たのである。


 つまり、そもそも発現条件を全然熟知していないこの世界では不可能、ということだな。


 まさかあの話にあった伯爵家の娘がシエラの曾お祖母ちゃんの事だったとは。

 また俺のデータベースに新たな一ページが記されたぜ。


 しかし、あの情報ってどこで手に入れたんだっけか? たしか最強の盾使いがいたとかなんとか……。ああ、〈最強の【盾姫】の遺品〉ってクエストだ。別に忘れていたわけではないぞ。


「俺のギルドに入るなら教えてやる。ちなみに、【盾姫】の条件は知ってるぞ」


「なんですって!」


「俺は【勇者】の条件を知っているんだぜ? 別に今更不思議じゃないだろう?」


「いいえ。違和感だらけなのだけど」


 あり? まあいい。

 ちょっとうかつに話しすぎたかも知れないが、シエラと話してみて、無駄に情報を広めようってやつじゃない気がするし、多分大丈夫だろう。


 さて、今の俺の爆弾情報でシエラの気持ちは明らかに前向きになっている。

 話を聞くに【盾姫】になることを悲願と思っていた節がある。そしてそれが叶う情報を前にして、シエラは食いつかずにはいられないだろう。


 とはいえ、成功率は五分五分かなぁと俺は考えている。



 これはゲーム的な話になるが、〈ダン活〉には名声値という名のギルド貢献度があった。

 初期は0で、ギルドを結成し、クエストやイベントをクリアしたりして学園での貢献度を上げると名声値が上昇していく。所謂いわゆる有名になっていく訳だ、ギルドが。


 名声値は「人種」をスカウトするのに必要な数値で、これが一定以上ないと強力な職業ジョブに就ける「人種」をスカウト出来ない仕様だった。


 そして伯爵家令嬢は「伯爵」「姫」の人種カテゴリーに分類される。

 「姫」は王侯貴族の令嬢に付与されているカテゴリーで、「姫」をスカウトしたければ名声値150という非常に高い数値が必要だった。ちなみに「伯爵」だけなら名声値30だ。

 これは、どんなに早く攻略していたとしても半年は掛かる数値だった。


 シエラは〈白の羽根飾りシンボルマーク〉を持っていることから「伯爵」「姫」のカテゴリーを持っていると分かる。

 そのため、ギルドもまだ作ってない名声値0の俺の誘いにはたして乗ってくれるのか、これはその見極めのための実験でもあった。


 ここはリアル〈ダン活〉だ。ゲームでは出来なかった事もリアルでは出来るようになった事は多い。

 なら、これもひょっとしたらと、もし上手くいけば、名声値を無視して初期から姫職パーティを作ることすら可能になるかもしれない。


 「姫」がこれほどまでに名声値(またはスカウト値とも言う)が高い理由は単純で、非常に強力な職業ジョブを獲得しやすいからだ。

 俺たちプレイヤーは〈姫職〉と呼んでいたグループだ。就ける下級職が軒並み高の中以上で占められていると言えばそのレベルの高さが分かるだろうか?


 【盾姫】もそんな〈姫職〉の一つ、タンクの中では最高峰の職業だ。

 ランクは文句なく下級職で高の上。

 つまり俺の【勇者】とほぼ同格の職業ジョブである。


 俺がシエラを強引に誘ったのもこれが理由だ。【盾姫】は今後の攻略で絶対に欲しい。


 はたしてシエラの答えは。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る