間章

ご機嫌なレミー

 よお、今日はちょっといいのを頼もうかな。いや、実はめでたいことがあってね。俺のことじゃないんだが……。

 せっかくだから、あんたも聞いてけよ。この喜びを共有してぇんだ。いいだろ?


 俺は<勇者協会>に勤めてるんだが――なに、下っ端さ。同期のほうが出世してる。

 で、なんだっけ。そう。


 あんた、勇者協会の中で一番強いパーティは何だと思う?

 やっぱり<スターエース>か? わかるぜ。全員バケモノみてぇに強ぇもんなぁ。


 だがな、まだあんまり注目されてない、イチオシの注目株がいるんだよ。


 その名も<ゼータ>だ!!



 ……何だい、その目は。さては、名前で「Z」なんて最低のランクつけられてる、なんて思ったな? チ、チ、チ。甘いぜ。こいつらがいかにすげぇかって話を、今からしてやる。


 まず何よりリーダーが素晴らしいってのを言っておきてぇな!

 何がいいって?


 可愛いのさ!!



 だから、そんな目で見るなって。

 おっと、ちょうど酒が来ちまった。……ぷは~。これ、ホントに高いやつ? あんまり違いがわからねぇな……まあいいや。


 どこまで話したっけ? そう! 可愛いんだよなぁ、エステルちゃん。ああ、エステル・マスターズってんだ、リーダーの名前。

 気づいたかい? あの史上最強の勇者、エリック・マスターズの妹なのさ。


 つっても喧嘩はからっきし……というか、虫も殺せないほど優しい子なんだよ。元々うちの課の新人でね、仕事も、まあ、お世辞にもデキるとは言えないが……とにかく、頑張り屋なんだ。


 オーランド・ドナートって同僚がいてよ。さっき言った俺の同期で課長やってるの。


 こっちはもう仕事の鬼でよ、デキる奴なんだが……あの野郎、ろくすっぽ説明もしねぇでエステルちゃんにリーダー振っちまったの。あいつはいつも言葉が足りねぇ! だからモテねぇんだよ。しょうがねぇよなぁ。



 <ゼータ>ってのはちと特殊……というか、はっきり言ってヤベェ連中の寄せ集めなんだよな。元のパーティにいられなくなったけど、実力があるから職員の監視下で活動が認められてたんだ。


 その中でも特にヤベェのがな、ゼクっつーんだが……なんと、仲間を皆殺しにしたって奴さ。とにかくおっかねぇんだ。俺は近寄りたくねぇ!


 とはいえ、エステルちゃんは仕事上付き合わなきゃいけねぇだろ。

 あの野郎な、なんとSランク級のブラックドラゴンを1人で倒したらしいんだよ。そのバケモノぶりにドン引きしちまったんだろうな、随分しょげてたぜ、あの子。


 でもな、エステルちゃんはそんな中でもくじけなかったワケだ。


 次に出勤したときゃ、そりゃあもう晴れ晴れとした笑顔でよ。天使ってのはきっとあんなふうに輝いて見えるんだろうなぁ……。



 で、エステルちゃんは手堅く「誰が一番頼りになるか」って聞いてきたんだ。

 そこでオーランドが紹介したのがスレイン・リード、あの中じゃ一番まともで一番不憫な奴さ。


 由緒正しい騎士の出で、真面目な性格なんだが、運が悪い。最初に入ったパーティが、なんつーかそのー……うちの会長の息子んとこでな。あんまりデカイ声で言えねぇんだが、やりたい放題というか……あれな事情で、追い出されちまった。


 でも、なーんか俺はいけ好かねぇんだよな、あいつ。気障ったらしくてよぉ。ゴブリン退治のクエストやったらしいんだが、エステルちゃん、目がハートになってたしな。たぶらかしやがって、あの野郎。



 そうそう! すんげぇ美人もいるんだよ、あのパーティは!

 ロゼール・プレヴェールっつー激マブのハーフエルフさ。金髪で、色白で、なんといってもこう、ボンッ! なんだよ。わかるだろぉ? へへへへっ。


 ロゼールのいるパーティは長生きできねぇってもっぱら噂なんだが、きっと彼女を巡って争いが絶えなかったんだろうな。……あれ? 前は<アルコ・イリス>だっけ? まあ、女の子たちにしかわからない深い事情があるのさ。


 噂ってのは独り歩きするもんよ。今度は確か、オークと戦ったんだっけ。魔術で城丸ごと凍らせたってんだが、さすがに誇張だよなぁ。


 もちろんエステルちゃんとも女の子どうし仲良くやってるみたいだぜ。パーティがバラバラになる心配なんてないさ。あの子がリーダーやってる限りはな。



 ああ、もちろんイカレた奴もいる。さっき言ったゼクとは別の方向のヤバさだ。


 モーリス・パラディール、通称マリオ。またの名を「"殺し屋"マリオネット」。

 ……いや、さすがに本物の殺し屋じゃねぇだろうさ。だが、そんなあだ名がぴったりの奴でよ。


 いつもにこにこ笑顔を浮かべててな、誰にでも「友達になろう」って握手を求めるんだ。それと同じ笑顔で敵を殺る。魔道具の糸を使ってな。


 奴が向かったのは魔人が出るってぇ村でよ。魔人のクソッタレが村人たちを手駒にしやがって……助からなかったんだと。だが、マリオの野郎は顔色1つ変えずにそいつらを始末していったらしい。胸糞悪い話だぜ。


 そんなんでも仲間として認めちまうってんだから、エステルちゃんの心の広さは宇宙一だよなぁ。



 そういや、まともなのがもう1人いたな。

 ヤーラっつーちびっ子でよ、本名はヤロスラーフ・イロフスキーだったか。あのパーティじゃ一番年少だが、しっかりした優等生だな。錬金術師としての腕も一流らしい。


 そんな天才少年がなんだってあんなチンピラパーティにいたのか、勇者協会の七不思議だな。

 なんつったかな、やたら長い名前で……いいや、<ナントカナントカエクスカリバー>で。ゼクの後輩なんだ。だから俺は近寄りたくない。惜しいことに、綺麗な色黒の姉ちゃんもいるんだけどよ……。


 あんときゃ、ちょうど帝都で祭りがあったんだっけ。裏でクソッタレ人身売買グループが暗躍してたらしくてな、そのちびっ子とエステルちゃんが巻き込まれちまって。で……仲間たちが助けに行ったんだ。牢屋ぶち壊してな。大騒ぎにならなくてよかったな、あれ。



 そんなクセの強すぎる連中だがな、エステルちゃんの手にかかりゃあハンパねぇ力を発揮してくれるのさ。


 何より、あの<スターエース>にも認められた合同作戦! こいつ抜きに<ゼータ>は語れないぜ!


 魔人が魔物の軍勢引き連れて廃村を陣取ったのさ。どえれぇ数でよ。複数パーティ合同で討伐に向かったんだ。そこに我らが<ゼータ>も参加したってワケ。


 敵は大物の見本市よ。ミノタウロス、ワイバーン、ジャイアント……そいつら全部ぶっ倒して、魔人も仕留めたんだ! 壊滅しかけた本陣も立て直したってんだから、大活躍だぜ!



 だが、やっぱり正式なパーティとして認可されるにはちょいとした壁があってな。「仲間殺し」のゼクだよ。要するに殺人犯だもんなぁ。


 おまけにあの野郎、仲間のスレインに手ぇかけて逃亡したって一時騒ぎになってな。あんたも見たかい? 指名手配になってたんだけど。


 結局、あれはゼクが魔人だってでっち上げられて、仲間殺しのほうも実は正当防衛だったってことになった。真相は俺もわかんねぇ。



 ともかく、こうしてめでたく<ゼータ>は成立したわけだ! 今頃、俺が紹介した店で結成祝いをやってるだろうぜ。俺ぁ邪魔したくねぇからな、今日はこっちの店に来たんだ。あんた、ラッキーだったな。このレミーさんのありがたい話が聞けたんだから。


 よお、マスター。今度はいつものやつ、くれよ。飲み慣れたやつが一番だよな、やっぱり。


 ……ああ、どうも。


 せっかくだ。今日の良き日に、あんたも付き合えよ。



 <ゼータ>の今後の活躍を祈って、乾杯!

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