第31話 贈り物
夕飯にはワンダーが獲ったヤギ肉を出した。
沖縄料理ではヤギ汁が有名だけど、今晩はスパイスを利かせた串焼きにして提供だ。
ヤギの肉は独特の臭みがあって苦手な人も多いのだけど、ルルゴア帝国では広く親しまれているらしく、みんな喜んで食べていた。
俺は食べたことはないのだけどヤギ刺しも美味しいらしい。
赤身やモモ肉を刺身にして食べるそうだが、中でも睾丸の刺身は特に美味いと聞いたことがある……。
モンテ・クリス島には病院なんてものはないので万が一を考えて刺身は食べなかったけど、対策が整えば試してみてもいいな。
いや、キャンタマを輪切りにする勇気はないんだけどね……。
包丁を入れた瞬間に自分のモノが縮み上がってしまいそうだ……。
ロッテ・グラム様たちは夕食を食べながら明日のミーティングをしていた。
「明日はとりあえず準備作業ですな」
「うん。地形を把握して防衛体制を整える」
いきなりダンジョンに入るわけではなさそうだ。
まずは入口の周りに防御柵などを設置してから封印を解くような話をしていた。
それはそうか。
扉を開けた途端にモンスターたちが流れ出てくることだって考えられるもんな。
てっきり皆でダンジョンに入っていくのかと思ったよ。
「祠の大きさは報告通りでした。準備に時間はかからないでしょう」
「堀と注水にかかる時間は?」
「土魔法を使えるものが51人、水魔法を使えるものも46人おります。二日あれば終わる作業ですよ」
例の遺跡の周囲を掘って、中に水を注入する計画みたいだ。
こうしておけばモンスターは自由に出てこられない。
例え祠の外に出てきたとしても包囲してこれを防御する計画だった。
堀を作るのは土魔法、注水は水魔法で行うらしい。
「よし。二日以内で終わらせてしまおう。質問のあるものは?」
グラム様は普段は寡黙だけど、仕事の時は端的な言葉を選んで話していた。
背が低くて巨乳というだけでもポイントが高いのに、仕事ぶりも恰好がいいじゃないか!
「コーヒーのお替りはいかがですか?」
「うん………………もらおう……」
俺に対しては相変わらず視線を逸らして、碌に口もきいてくれないけどね。
夜も更けて宿泊客はロッジの個室へと引き上げていった。
俺は岩屋の扉をしっかりと閉めて、外にはイワオ、中にはゴクウとワンダーたちを配備しておく。
グラム様やレインさんとなら一晩の関係を楽しんでもいいんだけど、俺に卑猥な言葉を投げかけてきた兵士たちは怖かったのだ。
ポーン♪
ソーセージ作製終了まで00:00:00
ソーセージが完成しました。出現場所を指定してください。
たくさんあったヤギ肉は夕飯だけでは食べきれなかったので、これを素材にしてソーセージを作った。
さっそく明日の朝食のスクランブルエッグにそえて提供しよう。
嬉しいことに今は食材だけは潤っている。
ロッテ・グラム様が宿泊に際して小麦粉を10キロ、乾燥トウモロコシを5キロ、バターを1キロ、卵を20個もくれた他、カゴに入ったニワトリを六羽も分けてくれたのだ。
明日はコユキの家畜小屋にニワトリたちのスペースも作らないといけないな。
イワオとゴクウに頑張ってもらうか。
グラム様には何かお返しをしたいのだけど何がいいかな?
甘いものがお好きみたいだからケーキのようなものもいいけど……。
そこで俺はグラム様の部屋にあった帆船の模型のことを思い出した。
きっとあれはグラム様の趣味なのだろう。
だったら俺にも作れるいいものがある。
俺は創造魔法をセットして灯りを消す。
早く朝が来ないかな。
俺のプレゼントを見てグラム様が喜んでくれるといいけど。
すこしワクワクしながらも一日の疲れがでて眠気はすぐにやってきた。
早朝からゴクウたちに朝食の指示をだした。
コーヒーを淹れ、野菜のピクルスを作り、パンを温め、スクランブルエッグを作りつつソーセージをグリルしていく。
寄生虫が怖いので生野菜を使うサラダはなしだ。
魔法で作り出したレタスならサラダにできるのだけど、どうやって手に入れたかを探られると非常に困ってしまうのだ。
「おはようございます!」
爽やかな笑顔で宿泊客を迎えていく。
朝からきちっと制服を着た人、だらしなくシャツをはだけたままの人、同じ士官でも性格は様々だった。
そんな中で副官のダイアン・レインさんは見た目通りキッチリとした服装で、髪の毛もカッチリと結い上げて食堂にやってきた。
こんなにキッチリカッチリとしたレインさんが脱ぐと目出度い末広がりのお胸様を持っているなんて……。
世界は新鮮な驚きに満ちているな!
朝っぱらからイケないギャップ萌えで悶々とするアホな俺。
「どうした男将?」
怪訝そうに声をかけられて心臓が口から飛び出しそうになってしまった。
「いえ……この島がこんなに賑やかなのは久しぶりなので嬉しくて……」
本当のことは口に出せない。
「朝食を食べ終えたら15分後に出発する」
短く命令を告げてからグラム様は朝食を食べ始めた。
ハムハムと食べる姿が小動物を思い起こさせて可愛い。
ひまわりの種をあげたくなるような可愛さだ。
今日は入口の周りに堀を建設するんだよな。
どんなふうにするのか俺も興味がある。
見学させてもらえないか頼んでみよう。
「グラム様、作業現場を見学してもよろしいですか?」
「……なぜ?」
「興味があるからです。建造物とかが作られる過程って楽しいじゃないですか。自分はそういうのを見るのが結構好きなんですよ」
グラム様は珍獣でも見るように俺のことを見つめてくる。
「変わっているな……」
この世界の男はそういうことに興味を示さないのか?
「ダメなようでしたら近づかないようにしますが……」
「……好きにしなさい」
お許しが出たぞ。
仕事はゴクウたちに任せて俺は建設現場に行くとしよう。
魔法を使った建築なんて初めて見るから楽しみだ。
おやつと飲み物を忘れないようにしないとな。
朝食が終わるとグラム様たちは早速現場へと赴くことになった。
「いってらっしゃい! 後片付けが終わったらすぐに見学にうかがいまーす!」
元気よく手を振って見送る。
やっぱり宿屋のお見送りは大切だよね。
「う、うん……」
頬を染めるグラム様に、俺の最高の笑顔が届いたはずだ。
ほっぺがつってしまうほどの笑顔だったからね!
さて、みんなに指示を出さないと。
「ゴクウ1号は朝ご飯の片づけ。2号と3号はベッドメイクと掃除を始めて。4号と5号はお風呂場の掃除。6号はトイレ掃除だよ」
ゴクウたちはすぐに仕事にとりかかった。
文句ひとつ言わずにやってくれるので本当にありがたい。
ポーン♪
フィギュア×15 作製終了まで00:00:00
フィギュア×15 が完成しました。出現場所を指定してください。
おっ!
グラム様のプレゼントが出来上がったようだ。
俺のゴーレム作製で作った超小型のフィギュアができたぞ。
いっとくけどエロい造形じゃないからなっ!
これは帆船模型の乗組員として飾ってもらうためのフィギュアなのだ。
船長服を着たグラム様や船員服を着た俺のフィギュアもある。
もっとも男が船に乗るのは禁忌とされているから、模型船でも俺は乗せてもらえないかもしれないけどね。
望遠鏡や六分儀など、航海に必須の小物も充実させたぞ。
これを見たらグラム様も喜んでくれるかな?
なれない南の無人島で心細い思いをしているだろうから、優しくしてあげないとね。
俺はただのヘタレじゃないぞ。
スケベで優しいヘタレなのだ!
そうだ、今のうちにお風呂に入ってしまうか。
この時間なら将兵はみんなダンジョンの入口に集まっているから誰もいない。
見られるのも好きだけど、周囲の目を気にせずにのんびりと入るのも悪くないもんな。
「イワオー、お風呂の準備をしといてー」
今日のデザートに出すプリンの準備をしながら叫んでおく。
プリンは簡単で大人数分が焼けるから便利だ。
ボールに卵と砂糖を入れてよく混ぜる。
そこに温めたヤギ乳を流し込んでさらに混ぜ、カラメルを張った型に流し込んでオーブンで焼くだけで出来てしまうのだ。
火加減は難しいんだけどね。
本当はバニラビーンズやお酒(ラムやオレンジリキュール)を入れるとさらに美味しいんだけど今はない。
バニラの木がどっかに生えていないかなぁ?
バニラアイスも食べたいし魔法で錬成してみるか。
士官たちの誰かに頼めば喜んで氷冷魔法でアイスクリームを冷やしてくれそうだもんね。
本当に料理が趣味でよかったよ。
プリンをオーブンに入れる頃にはお風呂の用意ができていた。
さ~て、綺麗にしてからダンジョンへ向かうとしますか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます