I
先生は藍の世界史担当だった。藍が中学校から苦手だった社会を、先生はその教え方で革命的に変えたのだった。先生の教え方は、本人が余談と言ってはいるものの、歴史の中の事件と事件を繋ぐ大事な過程の話を交えた方法だった。それが藍に抜群に合ったのだ。藍は今では世界史のみならず、それを含めた全教科でクラス一位、学年一位だ。藍のお陰で、クラスの平均点はぐっと上がり、藍のクラスは学年で一番だった。藍のお陰といっても過言ではなかった。
藍は先生との授業で個別授業を展開する。藍は知っていた。先生が質問をしても誰も手をあげないことを。藍は知っていた。受験が近づいてきた今となったら、クラスの皆が定期試験で手を抜き始めることを。だから藍はその逆をついて、皆の平常点や試験の点が落ちることを利用して、高い点数を取り続けられるように努力した。私は日和見なんかしない。そこは本当に私と先生だけの舞台だった。藍と先生だけが登場人物で、他の生徒は彼らを輝かせる裏の役だった。彼らは必要な部外者だった。誰も邪魔は出来なかった。授業とは関係ない基本知識のマイナーな部分や時事問題でさえも藍は答えることが出来た。誰もが藍の秀逸さに感嘆していた。藍は指定校推薦で大学が決まっていたが、決して手を抜かなかった。逆に以前より高い点数を取られるようにしていた。
私は先生の試験では満点を取れるように努力していたが、それは最後の試験まで叶わなかった。先生は試験を作ることが上手だったから。器用に受験で出そうな問題をいくつも散りばめて、皆を困惑させていた。私はそれに必死に食らいついて、いつも応えようとしていた。だから、最後の試験を返却するその日、先生は私だけに「よく頑張った」と言って下さった。クラスの皆に不思議そうに見つめられていたのを私は一礼しながら皆の視線が自分に向いていることを知っていた。そして同時に、自意識過剰なまでにその大きなプレッシャーを享受して、それに押しつぶされそうだった。それらは藍の凄さを表すもので、藍を少しずつ深く確実に、本人の知らないうちに蝕んでいくものだった。
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