挫かれる意志
「人類が、我々の戦う意志をくじこうとしているのは確かです。これは良い兆候です。少なくとも、その手間をかける程度には我々を生かしておくことに意味を見出しているでしょうから」
【
「古来より新たなテクノロジーは、戦争において人命を節約する。という期待を持たれては打ち砕かれてきました。高性能爆薬。機関銃。航空機が出現すれば空爆が敵国民の戦う意思を挫くだろうと想像され、しかしそうはならなかった。戦争を遂行するのが創意工夫する知的存在である以上、新技術には必ず対抗手段が発見されて来たからです」
兵官ジア・ガーは会議の場を見渡した。並んでいるのは十一枚の映像とひとりの実体。鳥相を備える者もいれば、ヒトの顔を持つ者もいる。あるいはブラックアウトした映像も。神々。いずれも強大な力を持つ大神である。ブラックアウトしたものは、宇宙からの通信が遮断されているためだ。彼らに対し、ジア・ガーは助言するためにここに立っているのだった。
「人類。国連軍の配備する知性強化動物も、その意味では全く対抗不可能な存在ではありませんでした。極めて強力ではありますが、少なくとも眷属で撃破することが可能です。現時点では。その性能がどんどん向上し、最新型の第四世代型に至っては撃破に四十から、場合によっては八十の眷属が必要。ということを除けば。参考までに、眷属一体の建造コストはおおよそ人類製神格の一割程度と考えられています。そしてそのコストはどんどん上昇している。宇宙からの補給路が絶たれているためです。素体である人間はまだ地上で調達することが叶いますが、戦闘に投入可能な健康で若い男女は枯渇しつつある状態です。今後この製造コストは跳ね上がっていくことでしょう。そして問題はそれだけではありません」
気が重い。ジア・ガーの報告は後どれだけ戦った後に敗北するか。というものであって、勝利するための方法ではないからだ。
「地上の経済は既に瀕死の状態です。もちろん通貨が機能を停止し、民間の流通が消滅していても機械や人員などは存在しています。戦時経済の構築によってそれらがすべて物理的に磨り潰されるまでは機能させ続けることができるでしょう。我々より規模の小さい地球人類の経済も相当な負荷がかかっているはずですが、それでも軍事的脅威に晒されていない以上は無視できる程度のものに過ぎないはずです。彼らは我々との戦争に勝利するという固い決意をもって団結しています」
実際に前線で戦っていたジア・ガーにはそれがわかる。かつて直接言葉を交わした幾人の捕虜からも。人類の世界で生まれたというあの同族の若者の言葉からもそれが理解できた。
「人類のテクノロジーは進歩し続けています。安全な後背地で、莫大な
そして、人類は少なくともまだ、最終的な勝利を得られてはいません。我々の戦いには、人類に負担を強いるという点では意味があるのです。
ですから、皆さまには今一度考えていただきたい。何が我々にとっての勝利なのかを。軍事力で劣る我々が、人類に対して何をできるのかを。人類が、我々に対して何を求め、どこまでなら妥協でき、何をもって矛を収めることができるのかを」
この場に揃った大神たち皆がもう、理解しているはずだった。ジア・ガーの主君、ソ・ウルナを始めとして。この認識を共有させるまで、長い時間がかかった。末端まではまだだとしても。人類は、可能であれば統制可能な形で神々を下したいはずなのだ。その方がスムーズに、同胞の救助という目的と種族の安全保障の双方が実現できるのだから。
ジア・ガーの。いや、この会議を主催した主君ソ・ウルナの目的とは、人類との和平交渉の本格化であった。もちろん容易な事ではない。しかし十一年前ほどではない。敗北が時間の問題となりつつある今に至っては。
ようやく、この場のような会議で議題として出せる程度にはなったのだ。
ソ・ウルナがこちらに視線を合わす。頷く。自らの出番が終わったと理解したジア・ガーは一礼するとその場より退出。
後に残された大神たちは、人類との和平交渉についての議論を開始した。
―――西暦二〇六三年。大神と地球生まれの少年神が邂逅してから六年、樹海大戦終結の四年前の出来事。
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