おおむね予想通り

「やれやれ。おおむね予想通りとなりましたよ」


【イギリス サンドハースト王立陸軍士官学校 校長室】


「さしずめ21世紀のダグラス・マッカーサーってところか」

フランシスは資料を手にして呟いた。そこに記されているのは先ごろ起こったという事件のあらましである。

士官学校に付き物の事件。すなわち上級生による下級生へのいじめだった。それも普通なら死に至る水準の。

「うちはウェストポイントではないんですがね」

苦虫を嚙み潰したような表情で、対面に座るエリック・ローマクス少将は答える。問題は彼の管轄下で起きたのだ。気持ちの良いものではない。

ちなみに前世紀初頭、ダグラス・マッカーサーはウェストポイント陸軍士官学校に入学し、やはり壮絶ないじめを受けている。それによって同期生が死亡したほどだったが、彼は最後までいじめを主導した上級生の名を明かさなかったことで全校生徒からの尊敬を集めたという。もちろんこの黙秘も、現在の価値観では許される行動ではない。

「被害者は例の生徒。まあ予想はできた事です。注意してはいましたが、当人が忍耐強かった。それで大ごとになるまで露見しなかったのです」

「沸騰した熱湯をぶっかける。割れたガラスの上をスライディングさせる。バットで後頭部をぶん殴る。エトセトラエトセトラ。控えめに言っても拷問だなこりゃ。常人なら死んでるんじゃないか」

「そうなる前に救急班を呼ぶ羽目になりましたよ。幸い後遺症はないようですが」

被害者はフランシスの言う通り常人ではない。神々の一員。常人より強靭な肉体を持つ、グ=ラスが被害を受けたのだった。神々との戦争中、それも士官学校でのことである。憎悪が向けられるのは容易に想像がついた。

「そいつは不幸中の幸いだったな。

で、主犯4名は判明し、放校処分か」

「その主犯のひとりが問題でしてね。私の部下が彼を指導したのですが、上から物言いがつきました。さる有力者の子息でして」

「……この流れで物言いをつけて来たと?」

「ええ。

それでご相談なのですが」

「その有力者を何とかしろ、か」

「はい。お願いできますでしょうか。私も部下を守らねばならない立場でして」

「……いいだろう。こっちでねじ込んでおく。そいつの名前は?」

ロースマスは、その名を告げた。

「では、よろしくお願いします」

「任せろ。こっちも最初に無茶を頼んだ身だからな」

立ち上がるとフランシスは、そのまま去っていった。




―――西暦二〇五四年一月。史上二度目の世界間戦争の最中、神々のひとりが人類の士官学校に入った翌年の出来事。

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