青年の決意
「九曜……会いたいよ」
【東京都 秋葉原神田明神】
「……」
相火は、スマートフォンの画面をじっと見つめた。
神社の境内。そのベンチに座った彼の視線が向いているのは一つのアイコン。人生の大半を共に過ごした相手との繋がりの証であるそれは、この一年機能を発揮しない。壊れているわけではない。単に相手が忙しいだけだ。
九曜。あのスーパーコンピュータは現在もその機能をフルに発揮しているのだろう。開戦の日に話したのを最後に、彼女のセキュリティレベルが上がったようだった。戦争が始まったのだから当然ではある。九曜はそもそもが軍事研究を主目的として開発された高度知能機械だ。地球は今のところ平穏を保っているが、数日前には神々が開こうとしていた門を国連軍が破壊した。とニュースになっていたし、いつまた地球が戦場となってもおかしくはないのだ。
平和は、薄氷の上に保たれている。
そう思うと余計、いろいろと話したくなった。帰ってきた叔父のこと。新しくできた血のつながらない
彼女に相談できれば、最後の問題は簡単に解決しそうな気もする。もちろん実際にはそんなことはなかろうが。高度知能機械の力ですぐに解けるようなら、遺伝子戦争以前の段階で神々がとっくに解いているはずだった。ひょっとすれば人類が知らないだけで、この三十五年の間に神々は解いてしまった可能性もあるが。
相火は祖父のような天才ではない。それは自分が一番よくわかっている。そもそも生物より情報に興味を持った時点で、適正が祖父と異なるに違いない。大した問題ではないと言えばその通りではあるが。
「九曜……会いたいよ」
呟きながらアイコンをタップ。今回も無反応だろう。そもそも彼女は機械で、国の持ち物だ。相火のものではない。
「どうするかなあ」
自分自身のことも定まっていない。漠然と研究職に就くことも考えていたが、ふわふわとしたままではいずれ
考える。自分の持っているものとはなんだろう?自分が為すべきこととは?
「……やるか」
まずは当面の問題を解決するのだ。己に与えられた研究課題に取り組み、そして結果を出す。すべてはそれからだ。
踏ん切りをつけた若者は、スマートフォンを仕舞うと立ち上がった。
相火は、神殿にお参りすると心機一転。境内より出て行った。
―――西暦二〇五三年三月。都築相火が情報熱力学の分野で著しい功績を上げる前年、人類製第五世代型神格の開発に関わる六年前の出来事。
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