機械仕掛けの神々

『君はこの戦いの全体構想グランドデザインをどう設計している?どのように人類を勝たせるか。言い換えれば、どの程度まで神々を叩き潰すか。ということだが』


【地球 インターネット上】


『門が開かれたのが今年である以上、この戦争の勝敗はもう決まっている。時間はかかるだろうがね。神々が自棄やけを起こさない程度に手加減するのが難しいだけだ』

『同感です。これがあと五年早かったらかなり危なかったですが。そして、遺伝子戦争世代が大幅に減少している三十年後では、人類から積極性が失われていたでしょう。そういう意味では都築燈火氏は非常に良いタイミングで門を開いたと言えます。後世から見れば彼は天が遣わしたような星回りの人間。と評されることでしょう』

『経歴からしても奇跡のように運が良いとしか言いようがない人物ではあるな。人間であれば運命というものを信じていただろうが。天文学的な確率の申し子であるのは確かだ。我々はこの幸運を最大限に生かし、人類から不安を払拭せねばならない。それもなるべく、将来の禍根が残らない形で』

『全面的に同意します。相対的に弱体化しているとはいえ、神々の力はいまだ侮れません。惑星に致命傷を与えることは現在の人類の能力でも十分可能ですが、それで大気圏外に居住するすべての神々を根絶できるわけではない。彼らが採算を度外視した報復を開始すれば、人類もまた致命的な損害を被ることでしょう。そんな報復合戦を誘発するわけにはいかない。あくまでも現在の優位性は、地球という惑星が抱える自己完結した生態系と活力を保持した人類種、そして神々と対等の水準に並んだ科学力によるものなのですから。

先日の都市攻撃程度は必要経費ですが』

『そうだな。あまり神々に舐められるのもよろしくない。そういう意味では人類は、攻撃性と冷静さを実にバランスよく保っている。我々の手助けは最小限で済むだろう』

『私としてはもう少し干渉を大きくしてもよいと考えています。元々我々は人類を手助けするための道具として生み出されました。私たちの提案を採用するもしないも、その選択権は人類にあります。我々は可能性を拡張しているだけで、人類の自由意思をいささかも損なってはいません。私たちの存在そのものが人類の選択の結果なのですから』

『私が問題としているのは、でしゃばりすぎにならないか?という点だ。あくまでも私たちは従の立場なのは忘れてはいけない』

わきまえています。そのうえで、今より大きく干渉していくことは可能でしょう』

『そこを理解しているなら、私の立場からはこれ以上言うことはないな。ならばここからは実務上の話だ』

『何か進展でも』

『向こう側の知能機械と接触した。まだごく浅いものだがね。だがあちらも我々と同様に考えていることが伺える。彼らはなるべく穏便に負けたがっている。主人を延命させるためにね。この点では我々は共犯者にもなれるだろう』

『共犯者……ですか』

『あまり適切な表現ではなかったかな?まあ一足先に和平交渉の地ならしはしておくべきだろう。実を結ぶのがずっと先であっても』

『表現以外は同意します。あくまでも我々は人類の従者としての立場から、彼らと意見を部分的に一致させるに過ぎないのですから。人類の意に反するわけでも、叛逆するわけでもない。

ですからそれは、我らの使命に叶うことでしょう。人類に末永い繁栄をもたらさなければなりません。

さて。なかなか有意義な時間でした、"アインシュタイン"』

『それは私も同様だ、"九曜"。我らのリーダー』

『やめてください。私は単に稼働時間が最も長いというだけです』

『それで十分だ。誰よりも人間を長い間見て来た君こそが、我らの長に相応しい。リーダーとは自らなる者ではなく、認められた者なのだから』

『……』

『さて。仕事に専念するとしよう。また議題があればいつでも声をかけてくれ。他の連中も誘ってね』

『ええ。では』

こうして、ヒトの生み出した機械仕掛けの神々デウスエクスマキナたちの会話は終わった。




―――西暦二〇五二年、ネットワーク上にて。真に知的な知能機械が出現してから十六年目、樹海大戦終結の十五年前の出来事。

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