貼り付けられた写真
「ふぁああああ……」
【エオリア諸島サリーナ島 ベルッチ家】
フランソワーズ・ベルッチ。略してフランは、室内をぐるりと見渡した。非常に見覚えのある造りをしていたから。
石を積んで作られた古めかしい構造の農家である。そこかしこに近代化の痕跡は認められたが。電灯。壁のスイッチ。エアコン。テレビ。ガラス製のテーブル。端末の充電器。コンセント。などなど。
だが、それでも室内はフランにとってどこか懐かしさを感じられた。今はもうない、故郷の家の作りとそっくりだったから。
壁に目をやると、張り付けてあるのはたくさんの写真だった。農場。島の商店。港。家族が写っているのであろうものが多い。
そして、異様な生物たち。
枝角を伸ばし、シカに似た頭部を備え、作業着を着て金髪の小さな女の子の隣に立っている獣人。毛に覆われた
フランは、この生き物が知性強化動物と呼ばれる種族であることを知っていた。故郷には。神々の世界には存在しなかった超生命体。
「不思議ですわぁ……」
「全くだ」
呟きに相槌を打ったのは、隣のソファに腰かける女性。
彼女も、写真に負けず劣らず不可思議な容姿だった。シンプルなズボンとシャツを身に着けた彼女の手は節くれだっており、鉤爪が備わっている。それと鋭い眼つきの鳥相が合わされば、見た人間は十人中十人が神々だというだろう。実のところそれは正しくない。彼女が首からぶらされているIDカードにはっきりと記載されているように、彼女は人間。それも人類側神格であった。神格名"ウルリクムミ"。フランの保護者。そのひとりである。
二人とも、門を開いたメンバーだった。それがここにいるのは、フランが招かれたからだ。ウルリクムミは付き添いである。今は各方面で忙しい燈火たちと別行動をする形で、ふたりはここに赴いたのだった。
のんびり室内を見ていると、扉が開いた。入ってきたのは盆を抱えた老いた女性。フランの縁者らしい。父の母に当たる人物だとか。要するに祖母である。恐らく。
「ごめんなさいねえ。お待たせしちゃって」
「いえ……見ていると面白かったですし」
祖母の名はアニタ・ベルッチ。たしかに父やフランと姓は同じだが、実感がなかった。
「知性強化動物がいっぱいですのね」
「そうねえ。話すと長くなるけど、うちの娘がひとり育てたのがきっかけで、たくさんうちに来るようになったの」
「ほええ」
アニタが視線を向けているのは、作業服を着たシカに似る獣人とその隣。十二、三歳くらいの金髪の女の子の写真。
「そこに写っているのはモニカよ。あなたの伯母にあたるのかしらね。隣にいるのはリスカム。世界で四番目の知性強化動物。私たちの大切な家族よ」
アニタはテーブルに食器を並べると、丁寧に紅茶を淹れていく。
「みんな、ジュリオが生きてるなんて諦めていた。船が沈んで戦死したって聞いていたから。向こうで去年まで生きていただなんて、想像を超えていたと言ってもいいの。だから、あなたのことを知ってとっても驚いたわ」
「……」
「さ。フランちゃん。私に、ジュリオがどんな様子で暮らしていたのかを教えてくれる?」
「は、はい」
フランは頷くと、問われた内容について答えるべく頭を捻り始めた。
アニタは、それをずっと聞いていた。
―――西暦二〇五二年。ジュルイ・ベルッチが亡くなった翌年の出来事。
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