xSS-x-04 閑話、司の心情
私――
私が不老不死を求めるのは、その過去があったから。友から授かった命を絶対に失わないため、研究を重ね続けた。その甲斐もあって、錬成術であれば私は誰にも負けないと自信を持てるようになった。あの『異端者』にも負けやしないだろう。
――『異端者』。名前は
初めて顔を合わせたのは高校一年生の春。前々から『異端者』と蔑まれる彼には(研究対象として)興味があったのだが、直接対面したのは入学式の時だった。
新たな青春の始まりにテンションを上げるクラスメイトの中、彼だけはポツンと自分の席に座り、やる気なさそうにボーっと窓外の景色を眺めていた。周りの生徒たちも、広まっていた噂のせいで接し方が分からなかったようだった。
色々妙な噂があっても『
それだというのに、彼の反応は衝撃だった。ものすごくどうでも良さげに、『そうか』と一言呟いただけだったのだから。クールぶっているとかではないのは見れば分かった。理想の女性像を極めていた私にとって、こんな塩対応をする人は初めてだったから、驚きが大きかった。今でも鮮明に思い出せるほど。
それから毎日、私は彼へ声をかけ続けた。パイプを持ちたいという打算的な気持ちもあったが、美少女の私に対して興味を全く持たない彼の反応が悔しかったという理由が大きかった。意外にも私は結構負けず嫌いらしいことを、ここで初めて自覚した。
最初こそ無視されることも多かったけれど、徐々に軽い挨拶くらいは交わせるようになり、最終的に世間話をできるようになった。とても嬉しかった。これほどまでに努力して誰かと仲良くなったのは初めての経験だった。それに彼との会話は心が躍った。ところどころに彼の怜悧さが窺え、充実した雑談を楽しめた。
そして、高校二年生に上がってからすぐ。運命の日がやってくる。
私は即座に彼女へ近づいた。彼女は伊藤一総と常に行動を共にするというからだ。彼女に仕かけを施せば、彼に関する秘密が握れると踏んだのだ。
結果は予想通り。いや、予想以上だった。
『勇者殺し』に圧勝できる力量を持ち、果てや【
生体に関して極めた私が不老不死を目指すのに足りない要素は、魂の知識だった。だから、より一層彼について調べ上げることにした。
その成果として判明したのは、彼が不老不死だということ。正確には、不老不死だと
私はすぐに行動を起こし、彼と偽装恋人の関係になった。
あとは少しずつ関係を深めていき、彼から情報を仕入れるだけ。
そう考えていたのに、私は彼を甘く見ていたらしい。こちらの思惑はバレバレだったのだ。挙句、私の生涯の悲願を諦めろと言われる始末。周りが見えなくなるほど怒りを覚えたのは、友を失って以来だったと思う。
その後、テロ組織に襲われたり何なりとあったわけだが、その過程で一つの事実に気がついてしまった。
どうやら、私は伊藤一総のことを憎からず想っているらしい。他人と打算的なつき合いしかしてこなかった私が、だ。
とはいえ、その事実は割とすんなりと受け止められた。私が元男だとか、彼が不老不死であるとか、そういうことは関係ない。私の心が彼を欲しているのだ。彼の人柄を認めているのだ。それを否定することはできない。
今、その気持ちは淡いもので、過激な衝動には駆られない。しかし、自分のことだから分かる。この情動はそのうち、どうしようもないくらいに膨れ上がるだろう。
だから、そうなる前に環境を整えなくてはいけない。今の彼は恋人を作りたくないと言っているらしいし、彼を慕う女性が――将来的に慕うことになりそうな女性が複数名存在する。落ち着いて行動をできるうちに、それらの問題を解消するべきだ。
前者の解決は言うほど難しくない。彼に覚悟を持たせれば良い。過去に何があったかは知らないが、彼は強い人間だ。トラウマくらい乗り越えられるだろう。私や周りの人間だって協力を惜しまないのだから。
後者については、これといって対処しようとは考えていない。むしろ、迎え入れる気満々である。どうにも、私は好いた者が何人と交際しようとも、自身を蔑ろにされなければ気にならない性質のようだ。現代の価値観からいってかなり歪んでいるとは自覚している。それでも、彼を慕う女性を全て受け入れた方が、彼や私たちにとって最善の結果を導ける気がした。根拠のない、ただの勘だけれど。
そうと決まれば、やることは決まっている。私自身のアピールと、彼への好意がハッキリしている
さーて、これから何人の同志が生まれるかは予想できないけれど、私は私のできることを努力していこうと思う。君のハーレムは私が作ってあげるから、期待して待っててね、一総くん。
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