【サイコンなんかするんじゃなかった…】

2月3日・雪


あいつの家から家出したアタシは、新しい居場所がみつかるまでの間、広電宮島口駅の近くにあるマンスリーアパートで暮らしている知人の部屋に滞在することにした。


アタシは、あいつの家とキンリンでトラブルを起こして逃げたけん、引き返すことはできん…


その日の夜、アタシは知人と一緒に的場町(まとばちょう)の居酒屋さんへ行った。


テーブルの上には、冷酒のロックとおつまみ5点が置かれていた…


ユーセンのスピーカーから、中島みゆきさんの作詞作曲の歌で『空と君とのあいだに…』が流れていた…


アタシは知人に『あいつの父親と長兄さんと次兄さんとドカバキの大ゲンカを起こして、家中で暴れまわって飛び出した…』とはぶてた声で言うたあと、くすんくすんと泣いた。


アタシの言葉を聞いた知人は、大きくため息をついてからいうた。


「あんたはどこのどこまでドアホやろね…ハタンすることを分かっているのに、なんでお見合いの話を受けたのよ?」

「くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…」

「あんたは生まれた時から恋愛・結婚の資格なんか生まれた時からなかったのよ…せやけん嫁ぎ先でもめ事ばかり起こしたのよ…」


アタシは、冷酒をひとくちのんでから知人に言うた。


「そうよ…アタシは…こまい時カギっ子だった…せやけん、いつもひとりぼっちやった…男とトラブったことも…それが起因しているかも…くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…」

「せやね…」


アタシは、灰皿に置かれている吸いかけのメンソールを手に取ってから言うた。


「食事はいつもコンビニの弁当かサンドイッチばかり…オカンはいつもあつかましい口調で『きちんと栄養バランスを摂りなさい!!主食主菜副菜とお汁(おつい)で、出された食事を食べなさい!!』と言うた…言いだしっぺのオカンは、家にお客様が来たときにてんやものばかりを頼む…たまには子供においしい料理を作ってよ…っていよんのに…くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…」


くすんくすんと泣いているアタシは、メンソールをいっぷくくゆらせて、灰皿にたばこを押しつけながら言うた。


「そう言うことやさかいに、学校の給食がまずかった…いただきますと言うときには冷めていた…あなな給食を食べてもおいしくないねん…何よ…何が出された食事を食べなさいよ!!ふざけるな!!」


アタシの言葉を聞いた知人は、アタシに言うた。


「まりなの言うとおりね…まりなの両親はそうとうフザケとるわ…子供にコンビニの弁当かサンドイッチばかりを与えるなんて、ホンマにサイテーな親ね…まりなの両親は図体(ずうたい)ばかりでかいわりに、精神面はボロいのよ…あんたは、ボロい両親の家に生まれたさかいに…こななやさぐれ女になったのよ。」

「ええ、その通りよ…アタシは、やさぐれ女で生きるしか他はないのよ。」


アタシは、冷酒のロックをひとくちのんでから知人に言うた。


「ガッコーに行っても、親しい友人はひとりもおらんかった…勉強でけん、授業中に教室をぬけて校内をウロつく…高校の時、ファイナンシャルプランナーの講座の講師の先生ともめて…試験の答案用紙にひどい落書きをした…付属の大学も、福祉関係の仕事しかないからと言って断った…大学って、何しに行くところ?」

「大学なんて行かんでもええ…高校卒業の証書だけあったらそれでええ…」

「そうね…それと…結婚は誰のためにするのよ?」

「せやね…と言うよりも、うちらみたいなやさぐれ女に結婚なんて猫に小判や…せやのに、なんであんたはお見合いを断らんかったん?」

「断ろうにも…断れん理由があったんよ。」


アタシは、おつまみのエビチリのエビをつまんで、口の中にいれてモグモグと食べた。


友人はアタシに『それはなんで?』と聞いたけん、アタシはこう答えた。


「山口の湯田温泉でコンパニオンのバイトをしていた…その時、おしゃくの相手をしていた男性客の金品がなくなった…アタシが盗んだって旅館側が言うたのよ…せやけん、アタシが弁済をすることになった…あいつの父親が、ロト7でキャリーオーバー分を当てた…それをCさんがあいつの父親に頼んだのよ…」

「使い道がなかったら、ユウヅウしてほしいと…Cさんがダンナの父親に言うたのね…」

「せや…けれど、その当選金は新築の家を建てるための土地を買うのに充てるおカネだったのよ…それをキャンセルしてほしいとCさんが言うた…アタシは人の家のカネでトラブった分の弁済を…」

「お願いしたと言うのね。」

「そうよ…アタシは人の家の夢をワヤクチャにした悪い女よ!!」


アタシは、涙をポロポロとこぼしながら自分のことをせめ続けた。

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