男子会
明希と約束した時間にファストフード店へ。
「先に2階で席を確保している」と明希から連絡を貰ったので、注文をして商品を受け取ってから2階へ上がった。
辺りを見回すと、すぐに明希の姿が目に入った。
「ごめん、待たせた」
テーブルにトレイを置いてから明希に謝る。
「いや、こっちこそ帰ってきたばっかりで悪いな」
「実家から戻っただけだから、そんなに気にしなくていいよ」
久しぶりの挨拶を交わし、俺は席に着く。
すると、明希は本題ではなく雑談から入ってきた。
「帰省はどうだった?」
「どうって言われてもな…」
話そうと思えば俺にとって濃すぎる内容を話せるが、イジられること間違いなしなので止めておく。
「まあ、普通だったよ」
「遊佐さんも一緒で“普通だった”は嘘だろ」
明希は、さっそくニヤニヤした顔をしている。
いや、そんなことよりも…。
「…どうしてサチが一緒だったって知ってるんだよ」
「ん?香菜が言ってた」
槙野か…。
ということは、倖楓が特に考えず槙野に話したのだろう。
それが明希に伝わるというのは考えるまでもなかった。
「で、どうだったんだ?」
「…だから、普通だったって」
「悠斗」
「…なに?」
「遊佐さんのことになると、本当に嘘が下手になるな」
「うるさい」
俺は明希を睨んだが、笑いを堪える必死なやつに効果は全く無かった。
「相談があるんじゃなかったっけ?無いなら帰る」
「悪かった悪かった!」
帰ろうと席を立った俺を、明希が必死に止める。
半分冗談だったので、俺はすぐに座り直した。
「でも気になるだろ?高校に入ってからの悠斗の変わり様はものすごく早かったから、ちょっと見ない間に大進展してるかもって思ったんだよ」
「そんな期待されても困る」
「じゃあ、何も無かったのか?」
「ノーコメント」
「それ、自白してるのと変わらないぞ?」
自分でもまだ消化しきれてないのに、誰かに話すなんて絶対にない。
これ以上は勘弁してほしい。
「相談があるってことで俺は呼び出されたんじゃなかったっけ…?」
「…悪い。話し辛くてな、別の話題で場を温めてからにしようかと思ったんだ」
「まあいいよ。それで、相談って?」
「…その、香菜とのことなんだけどな」
どこか歯切れが悪い感じの明希。
相談内容については予想がついていたので大したリアクションもせず、黙って続きを待った。
「こないだ部活の合宿があったんだけどな」
「言ってたね」
たしか、バスケ部男女合同で2泊3日の合宿だと聞いた覚えがある。
なんで合同なのか、とかの細かい理由は知らない。
「それでな…、ついに同学年のやつから告白されたんだ」
普通なら「マジか!」とか「誰!?」みたいな食いつき方をするのだろうが、明希がモテることなんて高校に入る前から知っているし、中学の時だって定期的に告白されていた。
なので、むしろそれくらいで何を相談したいのかと疑問が浮かぶ。
「もしかして、諦め悪い系?前もちょっと苦労してたもんな」
諦め悪い系とは、言葉の通りで告白を断られてもめげず、逆にアピールが過剰になっていくタイプのことだ。
中学の時はアピールがある度に、明希は気が無いという態度を取っていたのだが、槙野の機嫌が悪くなるという二次災害が巻き起こり苦労していた。
「あ、そうじゃなくてだな」
「ん?」
「俺じゃない。香菜が告白されたんだ」
それを聞いた瞬間、手に取っていたポテトをトレイの上に落してしまった。
「…マジか」
「マジなんだよ」
槙野は確かに顔は整ってるし性格も明るい部類で、誰かから好意を持たれるということも意外ではない。
ただ、中学の頃は入学当初から明希の近くにいたことで、他の男子から告白されるということは俺が知る限りでは無かった。
それが、ついに高校に入って告白する男子が出てきたのだから一大事だ。
「もしかして槙野、オッケーしちゃったの?」
「いや、断ったみたいだ」
「そうだよな、ビックリした」
落ち着いて考えれば、槙野が明希以外を受け入れるなんて想像も出来ない。
しかし、そうなるとますます相談の内容が見えなくなってきた。
「それでな、相談って言うのは…」
「うん」
「俺、香菜に告白をしようと思うんだ」
前置きが長かったが、そこに辿り着くのは納得だ。
というか、やっとその気になったのかと言いたい。
「いいと思うよ。気が早いけど、おめでとう」
「いや、待て待て!軽い!」
「えぇ…」
そんなことを言われても、散々近くで2人の空気感を見てきたというか、見せられてきた人間としては消化試合みたいなものだ。
もっと気持ちを込めろと言う方が難しい。
「いざ告白しようと決めるとな、色々と悩みが出てくるんだよ」
「例えば?」
「どこで告白するとか、どう誘うとか…」
「今更?」
「そりゃあ、改まって気持ちを伝えるんだからちゃんと考えないとダメだろ?」
言われてみれば、そう思える。
「たしかに…」
「だろ?」
「そういえばさ、今までは何で告白してこなかったわけ?」
明希に何か思う所があって告白していなかったのはわかっていたが、理由までは知らない。
今まで聞いてこなかったのは、自分から首を突っ込むべきではないと俺が判断していたからだが、相談された今なら問題ないだろう。
「その、自慢ってわけじゃなくてだな。俺さ、中学の時から女子から告白されること結構あっただろ?」
「そうだね。先輩、後輩、同い年と網羅してた」
ここまでモテるのを見ていると、いっそ清々しい。
俺はべつにモテたくもないので羨ましくも妬ましくも感じなかった。
むしろ苦労してるところも見ているので同情することもあるくらいだ。
「で、その中には香菜の友達とか同じ部活の人とかもいたわけで…」
その度に槙野が裏で荒れてたな…。
「そんな中で香菜と付き合ったら、あいつが孤立したり悪目立ちしたりするんじゃないかと思ってたんだ」
「…なるほど」
そういうことが無いとは言えなかった。
人なんてすぐに変わる。
それは、俺が一番よくわかってることだ。
「それに、言葉にしてなくてもお互いのことをどう想ってるか伝わってたし、しばらくは今のままでいいだろうって思ってたんだ」
「でも、変わったんだ?」
「香菜が告白されたの知った時、急に焦りを覚えたんだ。もしも香菜が他の誰かと付き合ったらって考えたら、ジっとしてられなくなった」
明希の言葉を聞いて、自分だったらどうだろうと考える。
倖楓が俺以外の誰かを選んだとしたら…。
考えたことが無いわけじゃない。
だが、今の方が何倍も嫌だと感じる自分がいた。
「だから、いろいろ決めるのに意見を聞かせて欲しいんだ」
「………」
「悠斗?」
「え?」
「大丈夫か?」
少し考え込んでしまって、明希に心配されてしまった。
「ごめん、大丈夫。俺の出来る範囲で手伝うよ」
「そっか、助かる!」
こうして、明希と槙野が付き合うための作戦を練る手伝いをすることになった。
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