少し見ない間に
どれだけ並んだだろうか。
ようやく3人分の注文を受け取り、倖楓とレンが待つテーブルへ運ぶ。
俺は昼食を運びながら、変なのが寄って来てないか以上に、あの2人だけで会話が上手く出来ているのかということに不安を覚えていた。
信じていないわけではないが、どうしても心配にはなってしまう。
そんな俺の目に、驚きの光景が入って来た。
倖楓とレンが、和気あいあいとした雰囲気で会話している。
俺は驚きのあまり、その場で立ち止まって目の前の光景を眺めていると、2人がこっちに気が付いた。
「ゆーくん、そんなところで立ち止まってどうしたの?」
「お腹空いちゃったから早くー」
「あ、ああ、ごめん」
俺は正気を取り戻してテーブルに昼食を置き、2人に尋ねる。
「すごい楽しそうだったけど、何の話してたの?」
すると、2人はお互いの顔を見合ってから俺を見て、
「「内緒!」」
息ぴったりでそう言われた。
ちょっと見ない間にここまで変化するのか。
ていうか、それが出来るなら最初からしてほしかった、と呆れてしまう。
何にしても、仲良くなったのは良いことだ。
「まあ、いいか」
俺達は、今までで一番良い空気感で昼食をとった。
そして、食休みに談笑をしていると、この後の予定について話題になる。
「私は希望を聞いてもらってスライダー回れたし、2人の希望に合わせるよ」
「んー、サチは?」
「そうだなー、流れるプールとかでゆったり遊ぶのは?」
「あー、ビーチボールとか売ってたっけ」
「私は異議なし!」
「じゃあ、そうしようか」
俺達は倖楓の提案通りに流れるプールでゆっくりしながら、たまにビーチボールで遊んだりして時間が過ぎて行った。
「そろそろ帰るか」
まだ暗くなるような時間ではないが、帰り支度などを考えるとあまり長居は出来ない。
「そうだね」
倖楓は俺の言葉にすぐ同意したのだが、レンが何か言いづらそうにしていた。
「レン?」
「あのさ、最後にもう1回だけ滑りたいなー、なんて…」
滑るということはもちろん、ウォータースライダーのことだろう。
よっぽど好きらしい。
久しぶりに会った幼馴染の頼みだ、断る理由もない。
だが…。
「俺はいいけど…」
俺はそう言って倖楓の顔を見る。
すると、倖楓は固まっていた。
やはり何度滑っても、苦手なものは苦手らしい。
俺がどうするべきかと頭を悩ませていると、先にレンが動いて、倖楓の手を取った。
「倖楓ちゃん、私と一緒に滑ろう?」
「えっ!?」
倖楓の顔が引きつっている。
ていうか今、倖楓のこと名前で呼ばなかったか?
「お願い!…ね?」
「で、でも…」
「“友達”としてお願い!」
「香蓮ちゃん、ずるいよー」
倖楓もレンのことを名前で呼んでいる。
しかも友達というワードまで出てきた。
本当に少しの時間でここまで劇的に変化するものなのかと、改めて驚いてしまう。
結局、倖楓はレンの懇願を断れずに再び絶叫を上げるのだった。
最後のウォータースライダーも滑り終え、俺達は更衣室へ向かった。
俺はいち早く支度を終えて、ロビーにあるソファに座って待っていた。
すると、ようやく後ろから声がかけられる。
「「お待たせ―」」
またまた息ぴったりだ。
振り返ると、倖楓とレンが並んで立っている。
「よし、帰ろうか」
俺はソファから立ち上がる。
すると、倖楓がどこかを眺めて止まっていた。
「サチ?」
何を見ているのかと同じ方向へ目を向けると、そこにはアイスの自販機が置いてあった。
たしかにプール終わりにアイスというのは定番かもしれない。
「食べて帰る?」
倖楓にそう声をかけると、倖楓の顔がパッと明るくなる。
「うん!」
続けて、レンにも確認する。
「レンも食べる?」
「もちろん!」
俺達は自販機の前へ。
「何にする?」
「「チョコミント!」」
綺麗にハモった。
仲良くなったというのもあるのだろうが、そもそもこの2人は似た者同士だったのかもしれない。
俺はチョコミントを2回購入し、順番に手渡す。
「ゆーくん、お金後で渡すね」
「あ、私も」
「いいよ、今日は俺が出したい気分だから気にしないで」
「ゆーくんがそう言うなら、お言葉に甘えようかな」
「じゃあ、味わって食べるね」
本当は2人が仲良くなって嬉しくなった、なんて口には出さない。
俺達はアイスを食べ終えてから外に出て、帰りのバスに乗り込んだ。
駅でバスを降りてからはあっという間で、気が付けばあの公園に着いていた。
明日はもう帰るだけなので、レンとはまたしばらく離れることになる。
俺が別れの言葉を口にしようとしたその時―――。
パンっと、俺の真横から音が響いた。
驚いて横を見ると、倖楓が手を合わせている。
「私、先に戻ってるから、少し2人で話したら?」
「え?」
倖楓の予想外の提案に驚いた。
「私も子どもじゃないんだから、もう道だってわかるよ?それに、まだ日も落ちてないんだから心配しないで」
たしかにレンと話す時間が出来るのはありがたいが、倖楓を1人で帰すと言うのもすぐに納得は出来ない。
でも、レンに言われた『過保護』という言葉を思い出して、倖楓の提案を受け入れることにした。
「わかった、気をつけてな」
「うん」
「倖楓ちゃん、ありがとう!またね」
「こちらこそ、ありがとう!またね、香蓮ちゃん」
俺とレンは、先に帰る倖楓の背中を見届けてからベンチに向かった。
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