閑話4 幼少期(4) ~魔法の修練と精霊たち~

 俺が魔法を学び始めたのは武術と同じ3歳のころ。


 この世界では、万物は、火、風、水、土の4要素からなると信じられていた。後の元素という概念の萌芽である。


 4要素には序列があり、火→風→水→土の順で尊いものと考えられていた。簡単に言うと、高いところにあるものほど尊いという感覚らしい。

 例えば食物にも4属性があてはめられ、貴い果実などの火属性の食物は貴族が好んで食していた。


 当然に、魔法もこの4要素があり、これを元素(エレメント)魔法という。

 ホーエンバーデン城には、次の4人の魔導士がいた。

●魔導士長:火・風:マルクス・アドラー

●魔導士:風:ショーン・リュディガー

●魔導士:水:ブルクハルト・フロシャウアー

●魔導士:土:ペッツ・ユーベルヴェーク

 最も尊いとされる火属性を含む2属性が使えるマルクスが魔導士長だ。


 2属性使えるデュオは数百人に1人、3属性のトゥリブスは数千人に1人、4属性のクアトルは数万人に1人のレアな存在なので当然と言えよう。ちなみに帝都にいる宮廷魔導士長はクアトルとの噂である。


 以上の4要素とは別系統として、光と闇の魔法がある。

 光魔法は神聖属性の魔法で治癒魔法が主であるが攻撃魔法もあるという。

 闇魔法は暗黒属性の魔法であるが、悪魔や悪い妖精が使う魔法として教会によって使用が禁じられており、表立っては使えない状況だった。ただ、裏の世界では使い手がいないわけではないらしい。


 魔法を学ぶに当たり、まずはどの属性の適性があるか魔導士長がテストすることになった。

 まずは、火の魔石を手渡される。

「この魔石に魔力を込めてみてくだされ。適性があれば光るなりの反応があるはずです」

「どうやってやるの?」

「感覚は人それぞれですが、体を巡るエネルギーを1点に集中して放出するイメージですかな」

「抽象的でよくわからないな。とにかくやるだけやってみよう」


 気(プラーナ)なら感覚はわかるのだが…

 気とは違う体を巡るエネルギーを探すべく、俺は体の中に感覚を集中してみる…。何か熱いものを感じる。これか?

 熱いものを集中させ指でつまんだ魔石に放出することをイメージする。

 すると…。


 魔石が激しい光を発し、火炎放射器のように激しい炎を放った。

「熱っ!」俺は反射的に魔石を放り投げた。

「おおっ。フリードリヒ様は、素晴らしい火魔法の才能をお持ちのようです」

「では、念のため風の魔石も…」


 結果、風、水、土にも才能があることがわかった。3属性目には魔導士長の顔が引きつり、4属性目に至っては開いた口が塞がらないようだった。俺は宮廷魔導士長と同じクアトルだということだ。

 そして俺は元素魔法の4人の師匠にそれぞれ学ぶことになる。

 まずは火魔法からだ。


「フリードリヒ様。まずは初級魔法からですな。私が手本を見せます」

 マルクス師匠が詠唱する。


「炎よ来たれ。高熱の火球。ファイアーボール!」


 魔法の杖の先から野球ボールくらいの大きさの火の玉が発射され、練習用の的を直撃した。


「さあ。やってみてくだされ」

 マルクス師匠から魔法の杖を手渡される。


「炎よ来たれ。高熱の火球。ファイアーボール!」


 ファイアーボールは発射されたが、大きさが大きい。バスケットボールくらいだ。

「おお。1回でできるとは!後は大きさですな。も少し炎を小さくまとめるイメージが必要です。それにより威力も上がります」

「なるほど。大きさだけでなく密度のイメージも必要ということか」


 師匠には意味が通じなかったらしく、「みつど?」とぶつぶつ呟いている。「密度」は物理学の概念だからこの世界の人には難しかったかもしれない。

 もう一度やると今度は問題なくできた。


「さすがはフリードリヒ様。言うことはございません」

 なるほど。魔法を使用する際には魔力の操作イメージが重要なことはわかった。


 しかし、修練を積んでイメージ操作に練達したら詠唱は不要なのではないか。初めての魔法を使うときは、導入として有用かもしれないが、練達した後は逆にイメージが固定してしまい応用が利かなくなってしまわないか。第一、魔法名を敵の前で叫ぶなどただの利敵行為ではないか。厨二病でもあるまいし。それに詠唱に要するキャストタイムも戦闘中は致命的になる恐れもある。


「師匠。詠唱は絶対に必要なものなのか。まだるっこしいのだが」

「極上級の者には無詠唱を好む者もおりますな。だが無詠唱はコントロールが難しくなるので初級中級のうちはお勧めできません」

「なるほど。理解した」

 といいつつ、フリードリヒは「だが、俺的には無詠唱一択だ。後で練習しておこう」と内心思う。


「次はどうですかな」師匠はそう言うと詠唱した。


「炎よ来たれ。火炎の矢。ファイアーアロー」


 ファイアーアローを2発同時に発射し、見事命中させる。これまでのできを見ていきなりハードルを上げてきたようだ。

 これもイメージが大事ということだ。


 少し時間をかけてイメージを固め、チャレンジしてみる。

 今度は一発でできた。


「これはお見事。素晴らしい才能ですな。では次は応用です」


「炎よ来たれ。火炎の矢ぶすま。レインオブファイア」


 炎の矢が10本ほど次々と空中に出現し、そのままホールドされている。師匠が腕を振ると一斉に的をめがけて飛んで行った。命中し、的はハリネズミのようになる。


 俺は、念のため少し時間をかけてイメージを固め、こちらもチャレンジしてみる。

 こちらも一発でできた。

 これにはマルクス師匠もかなり驚愕したようだ。


「これも素晴らしい。この調子では、すぐに教えることがなくなりそうですな」


 そこで疑問に思っていることを質問してみる。

「魔法の杖はどのような役割を果たしているのか?」

「杖は魔法の発動を補助してくれるので、コントロールがしやすく、また威力も高めやすくなります。

 後は魔石を組み込んでおくと魔力供給の助けにもなりますな。フリードリヒ様もいずれはご自分の杖を求めるのがいいとは思いますが…」


「何か問題でもあるのか」

「杖には属性ごとに適した素材が異なるのです。フリードリヒ様の場合、クアトルですからな。素材選びには迷いますな」


「万能素材のようなものはないのか?」

「それは聞いたことがありませんな」


 他の師匠たちにも同様に訓練を受け、5歳になるころには師匠たちに実力がほぼ追いついてしまっていた。


 修練を続けるうちに気づいたことがある。俺は師匠たちと同じ魔法を半分程度の魔力で使えるようなのだ。これは才能なのかなんなのか…。いずれにしても、このことは師匠たちには秘密にすることにした。


 行き詰まった俺は、アカデミー所蔵の貴重な魔導書を読み漁り、時にはテレポートでこっそり禁書庫にも侵入して禁書も学んだ。前世で速読技術を身に付けている俺にとっては難しいことではなかった。

 禁書庫で学んだ魔法には師匠たちも使えない広域殲滅魔法のような上位魔法も多く含まれていた。


 これは城の中庭で練習できる規模ではなかったので、夜間にこっそりと町の郊外の荒れ地へテレポートし、練習することにした。


    ◆


 元素魔法を一通り習得したことで、俺のコンプリート癖がうずく。残る光と闇の魔法も習得したい。


 まずは取り組みやすい光魔法を習得しようと、父に懇願して教会への紹介状を書いてもらった。


 教会へ行くと光魔法を学べるのは修道士だけであり、貴族が学びたければ本洗礼を受けて名誉修道士になる必要があるということだった。要は寄付金をよこせということである。教会とはなんと世知辛い組織なのかと思いつつ、相場の金額を聞いてみたが、「お気持ちで結構です」という曖昧な回答しか得られなかったので、適当に金貨10枚を寄付したら目を白黒された。相場より相当多かったようだが、商会を立ち上げた俺にとっては無理な金額ではない。少なくてケチをつけられるよりはよほどましだ。


 光魔法の師匠は、ボニファティウス・カーマンという長い名前の師匠で、バーデン=バーデンの教会では一番の実力者ということだった。寄付金が功を奏したらしい。


 そもそも適性があるか不安だったが、こちらもクリアした。これで俺は5属性持ちのクインクといことになるが、このことはできるだけ秘しておこうと思う。


 ボニファティウス師匠に教会にありがちな権威を振りかざすようなことはなく、気さくな感じの師匠なので助かった。師匠には。は治癒魔法全般を習った。ただ、ボニファティウス師匠は修道士という職業柄、攻撃魔法は習得していないということなので、攻撃魔法はアカデミーの魔導書を参照しながらの独学となった。


 ボニファティウス師匠の修練が始まる。

「ここで教えられるのは主に治癒系の魔法です。傷等を治すヒール、解毒をするデトックス、臓器の機能不全を回復するリカバリー、魔を浄化するホーリーなどがあります」


 回復魔法の訓練を行うには実際に傷ついている者が必要である。しかし、訓練のため人族を傷つけたりはできないため、教会には訓練用の動物が飼われていた。ちょっと可哀そうだが、動物を傷つけ、回復魔法で治すのだ。


 そのおかげで、ヒール、デトックスは問題なく習得できた。また、リカバリーは、偶然にも臓器不全の動物がいたので、幸いにも習得できた。


 問題はホーリーである。これは、実際に魔を帯びた者を探し出すしかない。

 ボニファティウス師匠は小声でこう言った。

「実は、おおっぴらには言えないのですが、ある郊外の村の墓地の立地が良くないらしく、たまにゾンビが現れるのです。今夜にでも行ってみましょう」


 霊魂は「魂(こん)」と「魄(はく)」という2つの存在から成るという考え方がある。魂は精神を支える気、魄は肉体を支える気で、合わせて魂魄(こんぱく)という。

 人族は死ぬと魂魄が抜け出るが、正しく埋葬されなかったなどの理由で、魂のみが抜け出し、魄が残ってしまった場合にゾンビとなる。ゾンビは魂が抜け出しているため高い知性を持たず、ほぼ本能によって活動するのが特徴である。


 夜。フリードリヒは指定された墓地でボニファティウス師匠と合流した。

 暗闇の中、千里眼千里眼クレヤボヤンスで辺りを探ってみると、3体ほどゾンビらしき気配がある。

 更に、大きな墓石の陰に1体隠れているようであるが妙だ。ゾンビに隠れるなどという知恵はないはず。では、一体…


「空振りを心配していたのですが、3体もいるとは、フリードリヒ様は運がいいですな。では、教えたとおりやってみてください」

 師匠は墓石の陰の1体には気づいていないようだ。


 とりあえず、3体の方をかたずける。


「光よ来たれ。聖なる浄化。ホーリー」


 無事浄化され。魄が抜け出たようだ。ゾンビがどさりと倒れる。


「墓石の陰に隠れている者がいる気配がするのですが…」

「ゾンビにはそんな知恵はありません。おそらくゾンビを目撃して逃げた村人でしょう。驚かすといけないので、そっとしておきましょう」

「そうですか」


 とはいうものの、あれは人族の気配ではなかった気がする。気になったので、師匠と別れた後、墓地にテレポートで戻ってみる

 まだ、同じ場所にいるようだ。気配はやはり人族ではない。かといって、完全なゾンビとも微妙に違うような気がする。

 フリードリヒは気づかれないようそっと近づき声をかけた。


「君。大丈夫か」

「ひえっ!」

 声を掛けた相手はひどく恐れおののいている。見た目20歳くらいの女性だ。


「助けて。殺さないで。お願いですから…」

「と言われても、君。既に死んでるんじゃないか?」

「あ。そうでした。でも酷いことしないで」


「わかった。でも、事情を聞かせてくれるかな」

「私は、フィリーネ・ショーペンハウアーといいます。バーデン=バーデンのアカデミーに通って物質の生成や合成の勉強を治め、錬金術工房への就職も決まっていました。

 でも、就職する矢先、流行り病で死んでしまったのです。それで故郷であるこの村に埋葬されたようなのですが、棺桶の中で意識が戻り必死に外へ抜け出しました。

 最初は生き返ったのかと喜びましたが、冷静になってみると、心臓も動いていないし、呼吸もしていない。そこでゾンビになってしまったのだと気づきました。

 でも、ときたま現れる他のゾンビたちは理性を失っていてとても怖かった。人族に助けを求めようにも、私を見るなり、ゾンビだといって襲い掛かってきました。もう何もかも恐ろしくて…」

 というと、しくしく泣きだしてしまった。


 それにしても、ゾンビなだけに話し方に覇気が感じられない。抑揚がなくしゃべり方がのっぺりとしている。


 しかし、知性については、なんら人族と変わりはない。魂(こん)には天魂、地魂、人魂の3種があるというが、そのうちのいくつかが残っているのだろうか。おそらく極めてレアな事例だ。


「見ていたかもしれないが、私はホーリーの魔法が使える。君にそれをかければ浄化されて輪廻の輪に送り込める。転生して新たな人生を送るという手もあるが…」

「でも、いまの私は失われてしまうのでしょう。それは怖いです」

「そうか…」

 無理やり浄化するのも可哀そうだ。


 フリードリヒは解決策を思案する。

「物質の生成や合成の勉強をしていたと言ったな。では、人族にひっそりと混じって、私の商会の開発部門で働いてみないか」


「それは魅力的ですが。もしバレたらと思うと恐ろしくて…」

「そこは化粧をして顔色をごまかせば、なんとかなるだろう。バレたら一目散で私のところに逃げてくればいい」

「う~ん」


「とにかく、こんなところにいたら怖いだけだ。今日は町の宿屋に泊まってゆっくりするといい。落ち着いて考えをまとめておいてくれ。明日化粧道具をもって迎えにいくから」

「でも、どうしてそんなに親切にしてくれるんですか」

「それは行きがかり上、やむを得ないということだ」

 ゾンビといっても女にはとことん甘いフリードリヒなのであった。


 宿に入ろうとすると、受付に呼びとめられた。

「お客さん。そのお嬢さん妙に顔色が悪いようですが病気か何かなんじゃあ。流行り病なんか持ち込まれたら困るんですよね」

「いや。この者は生来、極端な色白でな。しかも今日は少し疲れたのでそのように見えるだけだ。心配ない」

「それならいいんですがね」としぶしぶ引き下がった。


 翌日。化粧道具一式をもってフィリーネの宿へ向かう。

 フリードリヒが化粧をしてやるとほどよい色白美人になった。


「やっぱり思ったとおりだ。鏡で見てみてくれ」

「わっ。お化粧でこんなに変わるんですね。これならなんとかなりそう。自信が湧いてきました」

「後は自分でできるように練習しておいてくれ」

「はい」


「ところでゾンビというのは、どうやって動いているのだ。まさか、食物を摂取している訳ではあるまい」

「食べ物は食べません。どうやら闇の魔力で動いているみたいです。なので、動き過ぎて魔力が尽きると身動きがとれなくなってしまいます」


「それでは、万が一に備えて魔力を補充できるような道具を作ってあげよう」

 その日の夜。フリードリヒは闇の魔石を使ったペンダントを作り、翌日、フィリーネにプレゼントした。闇の魔石は黒いので、カットして見た目黒水晶のように見せかけている。


「よし。これで準備は整った。商会へ向かおう」

 商会でハントにフィリーネを紹介し、今後技術開発で使うように頼む。

 ハントは何も気づいた様子はなく、フィリーネを案内していく。

 よしこれで一段落だ。


 そこになれなれしい女子店員が寄ってきた。

「フリードリヒ様ぁ。もしかして彼女さんですかぁ」

「いや。彼女は純粋に優秀な技術者としてスカウトしてきただけだ」


「でも、すっごい色白な美人さんだし、すごく立派なペンダントをしてましたよ。あんな凄いものそこらの職人じゃあ作れない。フリードリヒ様が作ってプレゼントしたんでしょ」

「いや。それは…」


「男が女にアクセサリーをプレゼントするのは動物のマーキングと同じで、俺の女に手を出すなっていう意味合いがあるらしいですよ。にくいですね。この~」

(もういい加減にしてくれ)と思うフリードリヒであった。


    ◆


 俺はアカデミーの書籍を分析した結果、元素魔法と光闇魔法以外の属性もあるのではないかと推定していた。


 例えば東洋には火・水・木・金・土の五行思想がある。そうすると木属性、金属性の魔法があってもおかしくないのではないか。


 また、それとは別に、伝説上の魔術師には空を飛行する者もいたという。これはおそらく重力を操作しているとも推定されることから、時空魔法とでもいうべき属性も存在することも想定できた。もっとも「時空」という概念はかのアインシュタインによって提示されたものなので、この世界の者には遠く理解が及ばない概念であろうが…


 俺は未知のものの探求に燃えるたちだったので、木、金、時空の魔法の探求に夢中になった。

 試行錯誤の結果、徐々にこれらの魔法の輪郭が見えてきた。俺はこの3つの属性も備えていたらしい。


 そして自分なりの魔法体系を構築していった。もともと学者だった俺には得意中の得意である。


 問題は残る闇魔法である。

 闇魔法は教会に禁じられた結果、関連する書物は焚書の憂き目にあっており、手掛かりがほとんどなかった。かといって、裏社会にわずかに存在するという使い手に師事するコネもなかったし、なによりそんな連中と関わり合いになりなくなかった。


 俺は課題が困難なほど燃えるたちだったので、残る闇魔法の探求に夢中になっていった。


    ◆


 そういうしているうちに時間は経過し、俺は8歳になった。


 夜中に郊外の荒れ地に出かけ、いつもどおり闇魔法の探求をしているとき、後ろに気配を感じた。

 振り返ると俺と同じ年頃の少女が俺の服の袖をつかんでいた。


「君は誰? こんな場所に、どこから来たの?」

「しゅき」

 舌足らずだが、俺のことを「好き」と言いたいらしい。


「闇魔法は…嫌われている。でもあなたは違う。あなたが生まれたとき、…運命を感じて…加護…与えた。やっぱりよかった」

「君は誰なんだ」

「私は闇の上位精霊。オプスクーリタス。あなたが…好き。ずっと…一緒にいたい。だから…あなたの眷属に…なりたい。そうしたら…闇魔法…教える」

 おれは迷う。眷属って面倒を見ろってことだよな。それは…


 結局、闇魔法への探求心が勝った。

「わかった。眷属にしよう。具体的にはどうすればいいんだ」

「私に…名前を…与えて」


「そうか。じゃあ…『オスクリタ』なんてどうだ」

「うん。素敵な名前」

「気に入ってくれたか」


「さっき加護を与えたって言っていたな。どういうことだ」

「上位精霊が加護を与えると…精霊たちが…魔法を助けてくれる」

「精霊たちって?」

「下位の精霊たちは…世界中に溢れている。加護を与えると…彼らにより好かれて…魔力を分けてくれる。魔力消費が…加護がない時の…半分くらい…になる」

 それで俺の魔力使用量は少なかったのか。


「あなたは…眷属にしてくれた…から、『祝福』を…与えてあげる」

「祝福って?」

「精霊たちに…もっと好かれて…魔力消費が…1割くらいになる」

「それはすごい!」


「でも、精霊たちがあふれてるというが、俺には見えないが…」

「下位の精霊は…弱いから…心の目じゃないと見えない」


 なるほど第3の目ってやつだろう。

 俺は第3の目があるという額に意識を集中する…。

 見えた。というか感じる。


 俺の周りに色とりどりのウイル・オ・ウィスプみたいな光の玉が群がっている。極彩色でちょっと目がチカチカする感じだ。


「確かに見える。しかし、派手だな」

「見える人には…見えるから…用心のため…普段は隠した方が…いい」

「そんなことができるのか」

「こうすれば…できる」


 そういうとオスクリタは薄い黒い膜のようなもので、精霊たちを包み込んだ。確かに気配が消えた。闇属性の認識阻害のようなものか。


 俺もやってみると、すぐにできた。

「こんなものか」

「そう…上手い。さすが…主様」


「『主様』は照れるな」

「私は…もう眷属になった。主様は…主様」

「まあいっか」


「そろそろ遅いから、俺は帰ろうと思うが、君は精霊界に戻るか」

「私は眷属。ずっと…一緒」

「えっ。城に来るつもりか」

 うーむ。家族にどう説明したらよいのか…。


「そのままでは無理だろう。実体化できるのか」

「うん。できる」


 オスクリタが現実感を増していく。

 実体化したオスクリタは、黒髪は腰のあたりまでのストレート、黒目に西洋風の整った顔立ち、衣装は真っ黒なゴスロリ風で、表情に乏しいだけにまるでお人形のように見えた。


 それはいいのだが、どう扱ったものか。

 その日はとりあえず、テレポートで自室に戻る。深夜だったので、メイドを起こすこともできず、オスクリタをベッドに寝かすと俺はソファーで寝ることにした。

 オスクリタはベッドで一緒に寝ると主張したが、さすがに見た目10歳の少女と同衾したら犯罪だ。

 翌朝。義母上に説明に向かう。


「実は商会の取引先の商人の娘なのですが、流行り病で両親親戚ともに全滅してしまい、天涯孤独の身なのです。ついては、我が家の侍女として引き取れないかと思うのですが…」

「まあフリードは優しいのね。でも侍女は足りているから…」


「私は商会の収入があるので、彼女の生活費は私が面倒を見ます。ですから何とか…」

「男は甲斐性というし。それならば文句はないわ。よほどその娘のことが気に入ったのね」


「私たちはそのような関係では…」

「別にごまかさなくてもいいわよ」


 結局、オスクリタは侍女という名の愛妾として城のなかでは認識されてしまうのだった。


 それからしばらくは、オスクリタに闇魔法を習う毎日だった。オスクリタの教えかたは直感的で、教師としては優秀ではなかったが、自習よりはずいぶんとはかどった。


 光魔法の演繹で自分でもダークアローなどは自力で習得していたが、それ以外の麻痺系の魔法、精神干渉系の魔法、死体からアンデッドを作り出す魔法等を次々と学んでいった。


 闇系の魔法は人を傷つけずに無力化するのに使い勝手がいい。気に入った。

 そう思った俺は、闇系魔法の習得にますますはまっていくのだった。


    ◆


 闇魔法の習得が一段落したころ。

 彼女は突然やってきた。


「ちょっと。オプスクーリタス。どういうことよ」

「あっ…お姉…ちゃん」


「何。知り合いか?」

「双子のお姉ちゃんの…ルークスです」


 確かに顔立ちはそっくりだが、ルークスは髪もまつ毛も皆真っ白だった。目はルビーのように真っ赤。いわゆるアルビノなのだろう。衣装はオスクリタとお揃いの真っ白なゴスロリ風だ。まさにペアの存在なのだろう。


「ずるいわ。気がつけば人族の眷属なんかになっちゃって。面白そうじゃない。私も仲間に入れなさいよ。双子の片方だけなんて贔屓は許さないわ」

「いや面白そうといわれても、こっちにも都合が…」


「あらっ。私も魔法を教えてあげるわよ。私もあなたには加護を与えたから、たまに様子を見ていたの。

 光魔法は治癒魔法くらいしか覚えていないんでしょ。他にも攻撃魔法とかいろいろあるのよ」

「それは確かに興味深いが…」

 そこで俺のコンプリート癖がうずいてしまった。


「仕方がない。君も眷属にしよう」


 こちらの名前はすぐに思いついた。光子の学術名からとることにする。


「君の名前は『フォトン』だ」

「いい名前ね。気に入ったわ」


 それからフォトンには、祝福をもらうとともに、光属性の攻撃魔法から大規模殲滅せんめつ魔法までいろいろ教えてもらうことになった。


 城へ戻ると気が滅入った。

 フォトンのことを義母上にどう説明しよう。

 ここは半分正直に言うしかない。


「フリード。女の子が増えたそうね」

「義母上、実はオスクリタには双子の姉のフォトンがいることが判明したのです。ここは1人だけだと不公平になってしまうので、フォトンも引き取ろうかと…」


「あなた。双子を2人ともなんて欲張りなんじゃない?」

「いや。これはそういう問題じゃ…」


「まあいいわ。これも甲斐性の問題だから。生活費はあなた持ちなのよね」

「もちろんです」

「なら結構」


    ◆


 光・闇姉妹のおかげで、魔法の未知だった部分がだいぶ解消された。

 そこでフリードリヒは、ふと思いついた。

 妖精の世界をこの目で見てみたい。


「なあ。オスクリタ。人族が妖精の世界に行くのは可能なのか」

 

 オスクリタは無表情に答える。

「可能。肉体を持ったままでも…いけなくはないけど…幽体離脱…して…霊魂で行く方が…便利」

「えっ。私は幽体離脱などできないぞ」

「簡単」


 そういうとオスクリタは私の手を持ち引っ張った。

 肉体から霊魂を引きずり出そうとしているようだ。


 ──うげっ。気持ち悪い!


 初めて味わう奇妙な感覚に戸惑う。

 気がつくと足元に自分の肉体が見えた。

 引きずり出された霊魂が宙に浮いている。


「ねっ。簡単」

(お前が無理やり引きずり出しただけだろう)と内心突っ込むフリードリヒ

「今度は…自分で…やってみて」

「どうやって戻ったらいいんだ」

「さあ?」


 とりあえず、自分の肉体に意識を集中してみた。するすると吸い込まれる感覚がして元の肉体に戻った。戻るのは簡単だったな。


 今度は幽体離脱だ。先ほどの感覚を思い出して再現しようとするが、本能的な恐れがあるのか、なかなか意識が集中できない。


「こわがらなくて…いい」

 オスクリタに見透かされてしまった。

 こうなったら思い切って…

 今度は集中できた。意外とすんなりすっと抜け出せた。

 さっきは無理やりだったから気持ち悪かっただけか。


「じゃあ。案内してもらえるか」

「了解」


 オスクリタに先導してもらって精霊の住む世界へ行く。

 行ってみると、精霊だけでなく、妖精や神獣のようなものなど、雑多にいた。


 オスクリタによると、ある程度は場所で棲み分けをしているらしい。


 この世界は現実世界と並行してある別次元の世界といった感じで、今いるのは地上部分と並行する場所だ。ここは肉体があっても入って来られる。たまに人族などが妖精に惑わされて迷い込んできたりする場所が、ここらしい。


 天空に並行してあるのが天界で、いわゆる天国がある場所。天使たちがおり、また、輪廻を待つ霊魂たちの修行の場でもある。

 地下世界に並行してあるのが冥界でいわゆる地獄がある場所。悪魔や闇系の幻獣、アンデッドなどがいる。

 この2つは場所的な制約があるので、肉体を持ったままでは行くことができない。


 とりあえず、地上に相当する部分を見物してみるが、有名どころだと、ユニコーン、ペガサス、グリフォンなど現実世界では見かけないものたちがいる。

 いずれは、こういうものたちを眷属にするのもいいかもしれない。


 これらの世界を何と呼ぶのかとオスクリタに聞くと名前はないというので、俺はとりあえず「幻幽界」と呼ぶことにした。


 まずは、地上部分の探索をすることにする。

 深い森が見えてきた。俺の知らない植物もかなり見られる。中には薬効のあるものなどもありそうだが、俺の知識にはないものだった。現世の書物はほぼ読破しているし、誰かに教えてもらえるといいのだが…。


 森を進んでいくと突然矢が飛んできたのでとっさに回避する。その後も矢は次々と飛んでくる。

 見ると、攻撃しているのはエルフのようだ。


「いきなり攻撃してくるとは。エルフ族は礼儀知らずの野蛮な部族なのだな」


 エルフの一人が答える。

「うるさい。オベロン様の領地に無断で踏み入ったお前こそ無礼者だ。それにその娘は闇の者ではないか」


 オスクリタが攻撃態勢に入ったので、手で待つように合図をする。ここはできれば穏便に済ませたい。

「無断で踏み入ったことは謝罪する」

「言葉だけなら何とでもいえる。おおかたオベロン様の命を狙う刺客なのではないのか。」


「…………」

(そんなこと言われも。どうしろっていうんだよ)とフリードリヒは内心不満に思う。


「主様…殲滅せんめつ…」

「ま、待て。オスクリタ!」


 逃げても追ってきそうだし、どうする。


 膠着状態になるかと思われたその時。

「皆の者。控えよ」

「これはオベロン様!なぜかようなところに?」


「何やら面白い気配がしたのでな。見に来たのだ。だというのに、この有様」

「面目次第もございません。しかし、王よ。この者は闇の者を連れているのです」


「闇の者とてすべてが悪とは限るまい。それにこの者…人族ではあるが、その面構えといい、魂の輝きといいただ者ではないぞ。本気になればお前たちが束になってもかなうまい。手加減されていたこともわからぬとは情けない」

「も、申し訳ございません」


 そこで俺は挨拶をすることにした。

「これはオベロン王陛下。私、フリードリヒ・エルデ・フォン・ツェーリンゲンと申す人族にございます。拝謁がかないまして、恐悦至極に存じます」


「ほう。礼儀正しいな。してそちらの女児は?」

「闇精霊のオプスクーリタスにございます。私の眷属でして、今はオスクリタと名乗っております」


「闇の上位精霊を眷属に?それは素晴らしい。其方の実力の程が知れるというものだ」

「恐れ入ります」


「今日はどうした。迷い込んだか?」

「いえ。妖精界を見分していたところ、オベロン王の領地とは知らず、誤って踏み入ってしまいました。まだこの世界には不案内な未熟者故、平にご容赦いただけますと幸いに存じます」


「なに! 自力で来たと申すか。それに其方、生身ではないな。霊魂のみを飛ばしてきたのか?」

「左様にございます」


「思ったとおり面白そうなやつじゃ。ここではなんだから城へ来い」

「承知いたしました」


「おい。この者を案内せい」

「はっ」


 城の客間へ案内され、しばらくすると王が入ってきた。美しい女性を連れている。おそらく王妃のティターニアだろう。

 王の実年齢は計り知れないが、見た目は30前後の男盛りに見える。ティターニアはもう少し若く20代後半くらいの感じだ。


「待たせたな。王妃も話が聞きたいというので連れてきた」

「ティターニアじゃ」


「これは王妃陛下。そのお美しいお姿。拝謁がかないまして、これ以上の喜びはございません」

「まあ。お世辞はいいのよ」

「いえ。真の本心にございます」


 実際、これほどの美人は現実世界では見たことがない。ティターニアを見る目がいやらしくなっていないか心配だ。


 俺は元素と光闇の6属性の魔法を鍛錬していること(他の属性はとりあえず秘した)、光闇精霊を眷属にしたことなどを王らに語った。


 その間もティターニアをチラ見してしまう。ティターニアとはたまに視線が合った。ティターニアは逸らすでもなく、訳ありげに見つめ返してくる。


 ──何。その視線。俺誤解しちゃうよ。


 ふと視線に気づき、オスクリタの方を見ると俺を怖い目でにらんでいた。ティターニアばかり見ているので嫉妬したらしい。


「人族の身で6属性の魔法を使えるとは! そんな話ここ千年は聞いたことがない。しかも、闇に加え光精霊までも眷属にするとは!」

「恐れ入ります」


「ところで闇精霊よ。なぜ人族の眷属になどなったのだ? 力は其方の方が上だろう」

「好き…だから」

 オスクリタはボソッと答える。


「はっはっはっ。確かにそれ以上の理由はないな。愉快、愉快」とオベロン王にはうけたようだ。

 今日は楽しかったぞ。気が向いたら、また遊びに来るがよい」

「ははっ。ありがたき幸せにございます」


 なんやかんやでオベロン王夫妻と友達っぽいものになってしまった。

 幻幽界は不案内なだけに心強い。


    ◆


 魔法の理解もだいぶ進んできた。

 今、暗礁に乗り上げているのが時空魔法だ。

 この世界では魔法ではなく、スキルっぽいものとして理解されているらしく、断片的な伝承の類しか手掛かりがない。


 しかし、俺は前世では物理学者。時空の概念は完璧に理解できている。

 元素魔法を学んだ時にわかったように。魔法で一番たいせつなのはイメージだ。呪文がわからなくともイメージが明確ならなんとかなるだろう。


 そんな気持ちで時空魔法の試行錯誤に取り組んでいたとき、ふと後ろから声を掛けられた。聞いたことがない声だ。

 振り向くと、俺より4歳上の12歳くらいの少女が立っていた。スレンダーで、顔はキリッとしていてクールビューティーな感じだ。


「はじめまして…かな。私は時空精霊のクロノアよ。面白い子がいると思ってあなたが生まれた時に加護を与えたの。気になっていたのであなたのことはたまに見ていたわ。それにしても自力でここまでできるなんてすごいわ」

「私は前世では物理学者だったから、時空の概念は把握できている。それでか」


「あなた前世の記憶を持っているの?」

「ああ」


「この世界より文明が進んだ世界から転生してきたということね。それならわかる」

「そういうことだ」


「魔法なら私が教えてあげてもいいんだけど」

「それは願ってもないことだ」


「でも、条件があるわ」

「それは?」


「私も眷属にしなさい」

「うっ。それはやぶさかでないのだが、普段は精霊界にいてくれるとか…」


「それはダメよ。私もお城に住むわ」

「いや。それは…」


「光ちゃんと闇ちゃんだけなんてずるいわよ。それに人間界で暮らせるチャンスなんてめったにない。こんなに楽しそうなことを逃す手はないわ」


 時空魔法をコンプリートしたいのは本音だし、義母上の方は…まあ、なんとかなるだろう。


「わかった。名前をつければいいのだな」

「そうよ」


「『テンプス』なんてどうだ?」

「いいわね。気に入った」


 それからテンプスには、祝福をもらうとともに、時空属性の魔法をいろいろ教えてもらうことになった。

 驚いたことに、時間、空間、重力のほかに、元素組成までいじれるらしい、例えば水素原子を融合してヘリウムを作るとか…そう、核攻撃魔法である。これには俺も空いた口がふさがらなかった。


 城へ戻ると気がまたもや滅入った。

 テンプスのことを義母上にどう説明するか。


「義母上、実は…ですね…」

「また増えたのね」


「はあ。町で出会った娘なのですが、非常に頭が良く。以前習った家庭教師でもかなわないくらいなのです。それでですね…」

「もう言い訳は聞き飽きたわ」


「はあ」

「その娘の処遇はいつもどおりなのね」


「もちろんです」

「は~~~っ。ならかまわないわ」


 毎度毎度すみません。義母上。


    ◆


 これで残り問題となるのは。木と金だ。

 よく考えると木といえばエルフ。エルフといえばオベロン王だ。オベロン王に相談してみよう。

 そう思いたち。妖精界へ向かおうとすると「行く。」とオスクリタがボソッと呟き、着いてきた。こいつもいちおう知り合いだから、まあいいか。


「フリードリヒ。よく来たな。今日はなんだ?」

「実は木属性の魔法を習得したいと考えておりまして、しかるべき師匠を紹介してもらえないかと…」


「其方。木魔法のことをどこで知った。人族にはほとんど知られていないはずなのだ。」

「魔導書など人族の書物を分析しまして、木属性の魔法も存在すると確信するに至りました」


「自力で結論に至ったということか。まあよい。其方そのほうなら問題あるまい」

「恐れ入ります」


「其方は精霊を複数眷属にしているのだったな。何やら増えているようでもあるが」

(なぜ、テンプスのことを知っている?)と不思議に思うフリードリヒ。

「はい」


「では木精霊のドライアド様が適任だろう。居場所を教えてやる故、教えを乞うてみるがよい」

(げっ。また精霊…)と思うフリードリヒだが今更断りようもない。

「ありがとうございます」


 オベロン王に紹介された場所へ向かうと…。

「やっほー。君かぁ。私を迎えに来てくれたの?」


 木精霊らしく碧がかった髪の少女だ。俺より2歳上の10歳くらいに見える。


「いや。単に木属性の魔法をご教授いただけないかと…」

「もちろん教えるけどさ。私も仲間に入れてくれるんだよね。楽しみだなー。人間界」


(はいはい。その気満々なわけね。もうどうにでもなれ)とやけ気味に思うフリードリヒ。


「わかった。眷属にすれば魔法を教えてくれるのだな」

「そうよ。お願いね」


「じゃあ名前は…『プランツェ』でどうだ」

「いいね。それでいこう」


 それからプランツェには、祝福をもらうとともに、木属性の魔法をいろいろ教えてもらうことになった。

 植物と意思疎通ができたり、木の成形ができたりといったこともあったが、生命をつかさどる魔法でもあるらしく、生物に働きかけて免疫を活性化させるといったこともできるということだ。地味だけど凄いな。


 城へ戻る。もうどうにでもなれという気分だ。

「義母上、実は…ですね…」

「またなの」


「はあ」

「で、今度は何?」


「実はですね。」

「もう言い訳のネタも尽きたということね。」


「申し訳ございません」

「もういいわ」


 義母上。その広い御心に感謝いたします。


    ◆


 これで問題は金だけだ。

 俺は鑑定スキルで金属の組成などが読み取れる。この能力を使えばなんとかなるだろう。


 俺は鍛冶屋にいき、砂鉄を分けてもらった。普通そのような者はいないので、少し驚かれたが…。

 まずは、砂鉄から鉄を抽出することをイメージしてみる。よしできた。

 これではまだいわゆる銑鉄の状態でもろい。ここから炭素を除去して鋼鉄に仕上げるのだ。

 さっきより少し難しい。これもなんとかできた。


「へえ~。やるじゃない」

 後ろから女の声が聞こえる。

 フリードリヒとしては、もうこのパターンは慣れた。


 振り向くと、見事な金髪のロングヘアをした華麗な少女の姿。見た目4歳上の12歳くらいだ。

「もしかして、金の精霊」

「そうよ。わたしは金妖精のメタッルム」


「今日は何用だ?」

「魔法を教えるつもりだったんだけど、ここまでできちゃうと、もうあまり教えることはないかな」


「しかしまだ完全ではないのだろう?」

 合格点では満足できない。満点じゃないと。それが俺の性分だ。


「でも~わかってるわよね?」

「眷属にすればいいのだろう。」


「当ったり~。私だけけ者はなしよ」

「わかった。名前は『グルナート』でどうだ」

「素直でいい名前。いいね」


 それからグルナートには、祝福をもらうとともに、金属性の魔法をいろいろ教えてもらうことになった。やはり自習のときとは効率が違う。


 城へ戻る。もう言い訳のネタは尽きた。気分が重い。

「義母上、実は…ですね…」

「もういいわ」


(なんか。早くない!?)と心で呟くフリードリヒ。

 義母上にはもうあきれられているようだ。


    ◆


 これでこちらから教えを乞いたい精霊はもういない。しかし、これで終わるのか? 精霊の横のつながりは強そうだし…


 ある日。精霊界を探索していると、上空から声を掛けられた。

「君っ。素通りなんてつれないじゃないか」


 見ると幻獣のようなものが宙に浮いている。

 蜥蜴と竜の中間のような形態で、翼が生えており、宙に浮いている。体色は赤みがかっている。


「私にお前のような知り合いはいないぞ」

「そんなぁ。君には加護も与えたし、様子も良くみていたのに…」


「えっ。もしかして。」

「僕は火の妖精サラマンダーさっ。僕も仲間にしてよ」


「火の魔法は師匠から一通り習ったので、間に合っている」

「僕、見てたから知ってるけど、あんなのまだ序の口だよ。もっと凄い魔法もあるんだから」

「そう言われると…」


 コンプリートしたい俺としては反論できない。


「眷属にするのはよいが、その姿で城に住むのは無理だ」

「わかってるよ。これでどう?」


 サラマンダーは、少女の姿に変化した。

 美しい情熱的な感じの少女で、見た目は俺より4歳上の12歳くらいだ。

 フリードリヒは(またもや女の子とは!)と少し驚愕した。


「仕方がない。名前は『フランメ』でどうだ」ちょっとベタだけど…。

「いいよ。じゃあ。よろしくね」


 毎度のパターンよろしく、フランメには、祝福をもらうとともに、火属性の魔法をいろいろ教えてもらうことになった。広域殲滅魔法とかまだまだ知らない魔法があったんだね。


 こうなったらもう止められず、アネモス(風の精霊シルフ)とアクア(水の精霊ウンディーネ)が続いて眷属となった。


 アネモスは、優美でスレンダーな感じの少女で、見た目は同じ歳の10歳くらい。透明な羽があるが、人族として暮らしているときは隠している。


 ウンディーネは、美の女神よろしき美しい少女で、見た目は2歳上の10歳くらい。


 ウンディーネを連れて行ったとき、義母上には「もうこれで終わりよね」と釘を刺されてしまった。

 フリードリヒも「私ももうお腹いっぱいなんだ~」と言いたいところを我慢する。


 しかし、まだ土属性が残っている。

 少し不安に思いながら過ごす日々。


 そんなある日、朝の格闘技の型の稽古をしているとき、背後から声がした。

「なあ大将。頼みがあるんじゃ」


 女性ではない。爺くさい。

 振り返ると誰もいない。


「おーい。ここじゃ。ここじゃ」

 見ると葉っぱの陰に掌ほどの小人で、長いひげを生やしたお爺さんがいた。


「どちら様ですか?」

「わしは土の精霊ノームじゃ。わしも仲間に入れてくれんかのう」


 他の精霊と雰囲気が違うのでわからなかった。土だけ女じゃないのか。


「眷属にするのはやぶさかではないが、城に住むのはその姿では難しいな」

「では、これでどうじゃ」


 ノームの身長が伸びていく。

 まだ低いが、小人族ほどではない。なんだかドワーフっぽいが人族といっても通用するだろう。


「これならなんとか」

「では名前をくださらんか」


「『フムス』でどうだ」

「ええんじゃないか」


 義母上には、フムスは腕のいい庭師ということで紹介したが、報酬は結局俺払いということになった。


 これで全精霊が眷属となった。

 コンプリート癖のある俺としては満足だ。

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