第77話 腕試


巨大な龍人は玉座へと座ると変身を解き、より巨大な竜の姿になった。

龍王達とは違い、その威容はドラゴンと呼ぶべき姿だった。


『そういえばまだ我が名を名乗っていなかったな。私はこの島、そしてこの国の王である竜王・天空竜!

 さて、龍の御子と龍騎士らよ、まずは何から話すとしようか。』


天空竜は先程までの龍人の姿から竜の姿になったことでリラックスした様子で、それまで放っていた威圧感が薄れた。

だが、天空竜が話をしようというところで1人の若い龍人が前に出て訴えてきた。


『お待ちください!御子様はまだしも、龍騎士を名乗るこの者らにその資格があるのか見極める必要があるのではないでしょうか。』

『何を申すか!この島まで辿り着いたことこそ、その力がある証ではないか!客人達に対して無礼にも程があるぞ!』


若い龍人の申し出に対してデリウムが激昂するも天空竜は面白そうにニヤニヤとした表情を浮かべていた。


『ふむ、確かに龍騎士達の実力を見ないことに納得できないのもわかる。黙っているが他の者達もそうであろう?

 ではお主が見極めてみろ。そうだな、国の皆が見れる広場でやった方が今後の手間も減るだろう。

 申し訳ないが客人達もそれで良いだろうか?』

『ありがたき幸せ!』


天空竜の先程の表情は楽しそうな催しができることを喜んでいる様に見えた。

良いだろうかとは言いつつも、有無を言わせぬ空気になっていたため、アルクス達は受け入れるしかできなかった。


『わかりました。ここを案内された理由もわかっていないですが、実力を見ないと皆さんが納得できない以上頑張りたいと思います。』

『では善は急げだ。すぐ様皆に連絡し、中央広場へ向かうぞ!』


天空竜の指示で龍人や竜達は飛び立って我先にと広場へと向かって行った。

アルクス達も再度アーラに乗せてもらい、広場の中央へと降り立った。


『ここで戦うならわざわざ一度宮殿に行く必要はなかったんじゃないかな?』

『それはそうだが、段取りとかそう言うものがあるんじゃないか?いきなり降り立った俺達に喧嘩吹っ掛けるわけにもいかないだろ。』

『バルトロ兄さんの言う通りだね。格式とかを大事にしているのかもしれない。国や種族によってもそういうのは違うからね。』


無駄な手間をかけさせられたことにアリシアがぼやき、バルトロとアルクスが国ごとの段取りの重要性を説いているとクリオがアルクスの裾を掴んでいた。


『アルクス、今回私は参加しなくて大丈夫かな。魔術もあまり使えないし、多分役に立たないと思う…』

『そうだね、無理して怪我でもしたらよくないし今回は3人で戦うよ。』


環境的にクリオは戦えないため、3人で戦うことを決めたところ、先程の若い龍人が2人の龍人を連れてきた。どうやら3対3の戦いになる様子だった。


『待たせたな。改めて、我が騎士として授かった名はスペルビア。お前達を打ち負かす者の名だ。

 すぐに地上へと帰ることになるだろうが、覚えておくがいいだろう。』


スペルビアは負けるはずがないといった様子で挑発してきて、残りの2人もニタニタと笑っていた。


『僕はアルクス。後ろにいるのがバルトロマエウスとアリシアです。貴方達に敗北を教える名前ですので覚えておいてくださいね。』

『なんだと、貴様…!』

『アルクスも挑発なんてするんだ…』

『言われっぱなしなのもつまらないしね。』


アルクスが挑発に対して売り言葉に買い言葉で返すとスペルビア達は激昂している様に見えた。


『おぉ、どうやら場も暖まって来た様子だし始めよう。龍王に認められた龍騎士達と天空竜の側近による腕試しだ。殺しは禁止だが、それ以外なら何をやっても良かろう。では始めよ!』


『こんな奴ら速攻で倒してやるぜ!』

『龍装鎧!』


開始の合図とともに少し大きめ龍人が、見た目に反して素早く突進をしてきた。

アルクス達3人は合図に合わせて龍装鎧を纏い、いつもの様にバルトロが前に出た。


激しい衝突音がして龍人の突進をバルトロが受け止めた。


『なんだ、大したことないな。同じ龍人ならウィルドっていう奴の方が強かったぜ。』

『なんだと、貴様!私の本当の力を見せてやる!』


龍人は怒りに合わせて力を込めるもバルトロは難なく受け続けた。


『だらしが無いですね。戦いには美しさも必要ですよ。こんな風にね!』


もう1人の龍人が空中に飛び上がると回転しながらアリシアに向かって何かを投げつけてきた。


『狙いが甘いよ!』


アリシアは全てを短剣で撃ち落とし、さらに油断していた相手の顔に球をぶつけるとその瞬間に頭部が紫色の煙に包まれた。


『な、なんだこれは!?』

『アルクスが作ってくれた毒草とか痺れるキノコとかを混ぜたやつ。少ししたらベタベタするから簡単にとれないはずだよ。

 どう、美しくなったんじゃない?』

『この小娘が、私の美しい顔に…!』

 

龍人は激昂して手当たり次第に投擲するも、アリシアは当たりそうな攻撃だけ撃ち落としつつ少しずつ相手に攻撃を当てて体力を削っていた。


『2人とも何をしているんだ!遊んでないで本気を出せ!』


スペルビアは残り2人の戦いぶりに苛立ちを隠せなかったが、アルクスに向かって両手の爪を伸ばして斬りかかった。アルクスも双牙刃の両の刃で切り結んだ。


『あれだけ余裕を見せておいてこの程度ですか?』

『なめるなよ小僧!龍人の真の力を見せてくれる!』


スペルビアは後ろに跳躍した後、息を吸い込んだかと思うと炎のブレスを吐き出した。


『アルクス!』


炎のブレスに飲み込まれたと思ったアルクスだったが、なんとも無い様子であった。


『アチチチ…ふぅ、なんとかなった。足元から水の壁を作り出せるか試してみたけど、上手くいって良かった。闘技の練習ももっとしないとな… それじゃあ反撃行くよ!』


ブレスを受けて無事だったことに驚きを隠せずに動揺しているスペルビアに向かって走り出して跳躍した。


『トニー、お願い!』


召喚した後、ずっと近くにいたがすることがなかったトニーは急に自分の仕事の番だとやる気を出し、アルクスの双牙刃に向けて雷を放った。

トニーの雷を受けてバチバチと音を立てて放電する双牙刃。

アルクスがスペルビアに向けて斬りつけると余程鱗が硬いのか、火花を撒き散らした。

衝撃により膝をついた様子だったが、さらにトニーがスペルビアに向けて纏っていた雷を放ち、それがトドメとなりスペルビアは倒れた。


それが合図となった。



バルトロはいまだに龍人からの攻撃を受けて、耐え続けていた。


『くそっ、早く倒れやがれ!』

『お前の力はよくわかった。次はお前がそれを味わうといい。喰らえ!』


バルトロは今まで受けた攻撃を衝撃波として倍にして跳ね返した。

突然の衝撃に耐えられなかった龍人はそのまま気を失ってしまった。


『お前が強いってことはこれでよくわかったぜ。弱いと威力が出ないからな!』


バルトロはただひたすらに攻撃を受け、それを溜めて跳ね返すだけで勝利してしまった。




アリシアは雨の様に降ってくる敵の攻撃を必要なだけ撃ち落として、たまに威力の乗っていない攻撃を当てるということを繰り返していた。


『アルクスも勝ったみたいだし、そろそろいいかな。終わりにしよっか。』

『流石に疲れが出て来たみたいですね。そうですね、これで終わりにしましょう!』


龍人は攻撃を1つに絞り、力を溜めて矢を放った。

だが矢が地面に突き刺さった時、その場には誰もいなかった。


『何、どこへ消えた!?』

『後ろだよ!』


龍人が気づいた時には頭上から叩きつけられて地面へと墜とされていた。


『はぁ、ちょっと疲れたかも。』



『そこまで!これにて腕試しは終了とする。龍騎士達の勝利だ!』


そうしてスペルビアを含む3人の若い龍人は敗れ、アルクス達3人の龍騎士が勝利をすることとなり、観客達から割れんばかりの拍手が響き渡った。

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