第63話 伐採

  宴会の翌朝、造船所の船大工の面々は皆二日酔いで倒れていた。


『おーい、お前ら今日から伐採に行くってのになんだその様子は。』


『面目ねぇ、久しぶりの宴で飲み過ぎちまって…』


そういう親方は人一倍飲んでた気がするが、1人ピンピンとしていた。


『何だ、その目は。俺はドワーフの血が混ざっているからな。酒なんて水と同じようなもんさ。』


親方はガハハと笑っているが他の皆が倒れていては伐採にいけないので、昨晩作成した二日酔いに効果的な薬をアリシア達と配って回った。


『うぅ、すまねぇ…』


ドワーフは皆酒豪で水のように酒を飲むとは聞いたことがあったものの、実際に目にしてみると驚くばかりである。

僕達はまだ酒は飲めないけれども、バルトロ兄さんとか結構飲めそうなイメージがあるな…


『そういえばクリオはお酒は飲まないの?』


『私は果実酒以外のお酒は苦手でして… エルフは葡萄酒などの果実酒を飲む人は多いですが、それ以外のお酒はあまり飲まないですね。そもそも手に入りにくいというのもありますが。』


クリオの年齢を聞いたことはなかったが、飲むことはできる様子だった。

しばらくして船大工の面々も元気を取り戻し、専業の木こりを連れて湖へと向かった。

道中は穏やかな気候で魔獣が出ることもなかった。


『なんだかのんびりしててピクニックみたいだね。』


『むさ苦しいおっさんばかりですまないな。だが、もうすぐ着くぞ。』


湖はとても風光明媚な場所で近くに魔獣が出るとは思えなかった。


『よーし、お前ら。ここにキャンプを張るぞ!』

『『よっしゃー、やるぞー!!』』


船大工達はテキパキと自分達のやるべきことをやり始めた。

クリオも風魔術を使って細かい木々を切ったりなどして場所を整えていた。

 

蒼翠龍様のところで修行してから精霊召喚をしなくても闘技が使えるようになっていた僕は、ナトゥの力を借りた新たな技 土塁陣を使い、キャンプの周囲に土塁を作って周った。


『なぁ、アルクス。土塁じゃなくて土壁は作れないのか?』


『作れるけど、薄いんだよね。魔獣の突進だったらあっさり壊れるからあってもなくても変わらないと思う。』


バルトロ兄さんの指摘の通り、土壁で囲ってしまった方が安心できるかもしれないけど逆に防御力がないから土塁を作って上から攻撃する方が安全なはずという判断に至った。


初日は移動とキャンプの設営だけで終わってしまったものの、大体はこんなものらしい。

キャンプの周囲に土塁ができただけ、普段よりも防衛力が高いから安心できると言われた。



翌朝


『よーし、お前ら今日から本格的に木を切って行くぞ。

 アルクスさん達が魔獣は引き受けてくれるから基本的に各班伐採に集中するように!』


船大工達は木こりと協力して伐採作業を開始した。


『森が少しざわついてる…必ず魔獣は現れるからアリシアは魔獣の気配を探ることに集中をお願い。』


『エルフは森で何が起きているのかを感じることができるの?』


『えぇ、私は会話はできないけど木は色々なことを教えてくれるの。』


『自然との対話か。精霊も自然の一部みたいなものだし、ヘルバがいれば何かわかったかも。』



そうしてしばらく各班が伐採を行なっていると、森の奥からマッドボア、ヒュージベア、ブラッディウルフの群れなど今までにも見たことがある魔獣がぽつりぽつりと出てきたので問題なく討伐を進めた。

討伐された魔獣達は即座に解体されて、皆の食材へと変わっていった。

アーラも食事の時だけ外に出てきてムシャムシャとよく食べていた。

アーラを見た船大工達からは『アルクスは魔獣使いなのか?』と聞かれた。

聞いたところによるとどうやら世の中には魔獣を飼い慣らして戦闘や探索に活用する人達がいるらしい。


『魔獣使いではないです。彼は大切な方からお借りしている家族みたいなものですよ。』


2日目の夕方になり、伐採も順調に進んでいたところで地響きがした。


『今のは木が倒れた音じゃないな、何か起きたか!』


親方が驚いて伐採班の前線まで来るとそこで各班が驚いている様子を目にした。

そこには1本の巨木が自身の根を使って動いていた。


『これは樹の魔獣、トレントです。この大きさだとかなり樹齢の長い、エルダートレントかも…』


『そのエルダートレントだと何か問題がある?』


『多彩な風の魔術を使ってくるので、木こりと船大工の皆は逃げて!』


クリオの一声に合わせてエルダートレントから風の刃が飛んできた。

間一髪のところでバルトロ兄さんが守りに入ったことで怪我人は出なかった。


『船大工の皆は俺が守ってキャンプ地まで避難する!』


『わかった、ここは任せて!』



アリシアとクリオの3人で戦うことになった。


『バルトロ兄さんがいないから守りは弱くなるからできるだけ回避に集中して!』


『『わかった!』』


エルダートレントの樹皮はなかなか硬いらしく、クリオが風魔術で攻撃しても傷がついた様子はなかった。


『火の魔術ならなんとかなると思うんだけど使えないから…』


僕も水衝刃で水の刃で斬りつけたものの、ぶつかったタイミングで飛沫と化して、逆に水分を吸収して元気になっている様にも見えた。


『生半可な水の攻撃だと回復しちゃうのか…』


『クリオ、トレントって弱点はあるの?』


『魔獣だから魔石を壊してしまえば魔術は使わなくなるはず。あとは根を断って自分から倒れるようにするか…』


話している間にエルダートレントはその根を鞭の様にしならせてこちらを叩きつけてきた。


『2人とも下がってて!バルトロ兄さんみたいには上手くいかないけども…』


攻撃のタイミングをしっかりと見極めて盾で受けることで何とかやり過ごすことはできた。


『打ち手がない…このままだと厳しいな…』


『すまない、待たせた!戦況はどうだ?』


このまま撤退するしかないかと悩んでいたところバルトロ兄さんが戻ってきた。


『ちょっと敵が硬くて困っていたところ。1つ試してみたいからちょっと守りをお願いできる?』


『おぅ、もちろんだ!』


そうしてバルトロ兄さんがエルダートレントの攻撃を受けている間、集中して新しい闘技を繰り出す準備をした。


『喰らえ、水迅穿!』


武器を突き出した瞬間に、水の力を刃にするのではなく一点に集中して超高圧力で敵にぶつけることでその樹皮を貫くことができた。


当たりどころが良かったのか、エルダートレントの動きが鈍くなり、危険を察したのか逃げ出そうとして。


『そうはいかないぞ!』


背中を見せたエルダートレントにバルトロ兄さんが渾身の一撃を叩きつけて、一番太い根が断ち切られた。

どうやらその根でバランスをとっていたらしく、エルダートレントは倒れてしまった。

倒れたエルダートレントにもう一度バルトロ兄さんの渾身の一撃を叩きつけて動かなくなったことを確認した後、 船大工達を呼び戻した。


『あんた達すごいな。こんなでかい魔獣も倒してしまうなんて…』


『まぁそれが僕達の仕事ですし。』


『おぉ、この木材は今までで一番品質が良いんじゃないだろうか…

 樹木の魔物の木材は高品質だったが、今まで見た中でも群を抜いているな…』


エルダートレントの木材は最高品質だと大変喜ばれ、大急ぎで残りの伐採が進められた。

後からやってきた輸送部隊に切られた材木は運ばれていき、翌日には僕達も町へと戻っていった。

町に戻ると良質の材木が大量に手に入ったということで、旅船が出せることになってお祭り騒ぎになっていた。


『お前達、この造船所専属の護衛にならないか?その腕を見込んでできることならお願いしたいんだが。』


『嬉しいお誘いですが、ごめんなさい。やらないといけないことがあるんです。』


『まぁ、そうだよな。わかっていたことだ。あとお前さん、他の奴らは気付いていないが指名手配されているんだろ?』


親方はそう言うと指名手配書を出してきた。


『何をしたかは知らないが、ろくでもない奴にでも目をつけられてるんだろ?

 メテンプスだったか。割と連邦の人族が主体の各国の中枢まで入り込んでるらしい。

 せっかくの恩人を追い出す様になってしまうのは申し訳ないが、早めに船は修理するからな。

 もし連邦に来ることがあればこの町によってくれ。歓迎するぞ。』


メテンプスが蔓延っていること、各国に入り込んでいることまで知っている様子だった。

連邦に戻ってくるのは厳しいかもしれないが、いずれ恩返しができるようにしたいものだ。

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