砂漠の国 -いざ!フォンディーナ!-

 「クンシェオルトは何でヴァッツの配下になったんだろう・・・」

ユリアンとの戦いから街を出るまで咎められる事もなく、

後ろからついてくる馬車がいなくなった寂しさを漂わせながらも進む一行。

「ヴァッツが強いからじゃねーの?クンシェオルトも滅茶苦茶強かったけどな。

強者は強者に惹かれるってうちのじじいも言ってたし。」

カズキが横になりながらそれに答えてみるが、クレイスは納得がいっていない様子だ。

「一度国に戻って報告を済ませて、

それから合流後に配下のふりをして付き従い気を見計らって自国へ引き込む・・・・・」

発言したショウに少年2人の視線が集まると軽く咳払いをしてから、

「まぁ私ならそうしますね。」

「お前ならそうしそうだよな。」

カズキが珍しく白い目で見ながら力強く頷いている。

更に珍しくショウも少し申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

そのまま少年達のやり取りを眺めていてもよかったが、

久しぶりに御者ではない扱いで皆と座って移動出来ているのだ。


「ヴァッツを使って何か企んでるんじゃねぇのか?」


ガゼルが横から自身の意見を挟むと、

3人の少年から鋭くも様々な思惑の乗った視線が同時に突き立てられた。

「そういやお前がそうだったもんな。」

「ええ。取り入って国を傾ける犯罪を犯させる。危険な思想ですね。」

「そういう事がないように僕がそばにいるって誓ったんだった。」

クレイスは慌ててヴァッツの隣に駆け寄り座り込む。

「・・・ちょっと待て。

お前ら何か勘違いしている。俺はヴァッツに企みを持ちかけたんじゃねぇ。

あくまで、あ・く・ま・で!仲間を助けるために手を借りただけだ。なぁヴァッツ?」

「うん!そうだよ!!これ以上ガゼルに悲しい思いをしてほしくなかったから!!」

「お、おう・・・」

ヴァッツの返事にたじろいでしまうガゼル。彼の身の上話はヴァッツにしか話していない。

本人も半ば懺悔みたいな感じで語っただけで正直意味がそれほど通じているとは思っていなかったのだ。

「お前って、わりと賢いのか?」

「ガゼル、失礼過ぎる発言は控えていただこう。」

御者席から時雨の怒りがこもった声が飛んでくる。

「おー怖。バカにしたんじゃねぇよ。」

前までと違い、ヴァッツの為に一緒に旅をする元山賊は従者にも気楽に向き合うようになった。

手をひらひらとさせて話を軽く流すと、

「でもまぁ、あいつは間違いなくヴァッツに心酔している。

企みとまではいかなくても、何か頼ろうとしてる部分はあるんじゃねぇか?」

ガゼルがまじめな顔になり、少年4人を見回した。

彼が狙っていたのがこの会話の落とし所であるこの一言なのだ。

クンシェオルトの野望を知っているとはいえ、それをガゼルの口から言うのは良くない。

ならば彼が戻る前に多少その流れを作っておく。

同じ少年に惚れ込んだ者同士、それくらいはやっておいてもいいだろうと。


「頼る?あんな強い男がか?」

「いや、ガゼルの発言には一理あります。国賊のくせに生意気ですが。」

「よくわかんないけど、オレでよければ何でもするよ!」

「頼る・・・」

1人だけとんでもない悪態をついてきたが、それでも意図は伝わったようだ。

これで納得はしなくても下手な疑惑をかけることはないだろう。

あとは誰かが別の話をしだしたらこの会話は終わり・・・

【なるほど。ヴァッツが気に入ったのはそういった部分がある為か。】

またいきなり現れる『ヤミヲ』に一瞬たじろぐが、

「どういう事?」

【うむ。この男、外見や普段の言動とは裏腹に非常に面倒見がいい部分がある。

今もクンシェオルトの事情を知りながら庇う所など正に・・・】

「ちょっと待てぃ!!!」

1人が2人の声でとんでもない内容の話を始めたので慌てて止めるガゼル。

「どしたの?」

「ヴァッツ!そいつを黙らせる事は出来ないのか?」

【無駄だ。私とヴァッツは別物だからな。】

そう返されて困り果ててしまう元山賊。

せっかくのお膳立てがネタをばらされてしまっては台無しだ。

しかし時は既に遅く、切れ者である赤毛の少年が、

「ほう?確か貴方はずっとクンシェオルトの御者席に乗っていましたよね?

考えてみればこの中で彼に一番近かったあなたが彼の事を一番知っているのは必然。」

鬼の首を取ったかのように顔を近づけながら詰め寄ってきた。

「で、どんな事情だ?」

「ぼ、僕も知りたい!」

カズキとクレイスも同じように詰め寄ってくるので少年3人の顔が横に並ぶ。

「その話、後で私も聞かせて下さい。」

時雨に関しては声にわくわく感すら感じる。

一気に孤立してしまったガゼルは、

最後の頼みであるヴァッツを引き込もうかと考えるが、

「・・・駄目だ。これは帰って来てから本人に聞け。」

些細な事とはいえ必要以上にヴァッツを頼るのを良しとせず、腕を組んで口を噤む事を選んだ。


・・・・・


誰も反応しなかったので漢を見せたガゼルに皆が感心し、

これ以上聞き出そうとする流れが止まったものだと彼は思っていた。

が。

「・・・私の拷問術は相当キツイですが大丈夫ですか?」

愛国狂は全くいらない心配をしてきた。

「待て待て。それなら今日の立ち合い稽古に使わせてくれ。

船旅ですっかり体がなまってしまってな。」

戦闘狂は肩を回しながら自身の欲望を満たす事まで考慮している。

「ねぇガゼル。痛い目に合う前に言っちゃったほうが良くない?」

何の力も持っていない元王族が何故一番恐怖を掻き立てる発言をしてくるのか。


「お前らはもう少し配慮ってものを覚えたほうがいいぞ?!」


珍しく子供を叱るような大人らしい発言に周囲は目を丸くするも、

「・・・まぁそれはそれ。これはこれという事で。」

「うむ。賊が言っても説得力がな・・・」

2人の狂人は留まる事をせず馬車内で追いかけっこが始まり、

「・・・これって『ヤミヲ』のせいだよね?」

【ふむ。素直に感嘆したことを口に出しただけなのだが。】

少し申し訳なさそうにするヴァッツとヤミヲの隣に座ったクレイスは、

その様子をしばらく眺めていた。






 『フォンディーナ』は砂漠の熱帯地帯にある国だ。

本来なら『シアヌーク』を北上した

リングストン領にある『ダラウェイ』という港町から船で西のジャカルド大陸へ渡り、

『サンバプール』という港町へ到着の後、川沿いに西へ向かうのがそれほど苦労なく到着できる航路だ。

だが急遽船旅と『レナク』への航路が決まり、

到着したと思ったら急いで出て行かねばならない事になった一行にそこまでの計画性はなかった。


「砂漠ってのも初めてだな。どんなとこだろ?」

少しずつ景色から緑が減ってきて気温が上がってくる。

レナクを離れて2日で砂漠の手前にある最期の村へとたどり着いた一行は、

馬をラクダという生き物に交換してもらう交渉をしていた。

「私も書物で読んだ程度の知識しかありませんがとても暑い所だそうです。

ほら、見てください。ラクダの鞍を。」

ショウはそういってヴァッツに簡易型の日よけがついている鞍を指差した。

「ほー。あれに乗っていくのかー。」

「ま、馬と似たようなもんだろ?酔うことはなさそうだ。」

同じく初めてであろう中年と少年がまじまじとみている。

ショウとしてはヴァッツを自国へ引き込むことを最優先として捉えているので

次点のカズキにも覚えよくなってもらうのは一向に構わないのだが、

「・・・しかし私から国賊だと認定されているのに、豪胆というか何も考えて無いというか。

命の心配がないと人はそうも無神経になるものですか?」

他の人間と交友を深めるのは構わないが、ガゼルは出来るだけ自分とは関わってほしくない。

気を抜いたら突き刺すか燃やしてしまいかねない程の怒りがまだ心の底には残っているのだ。

もちろんそれらは全てヴァッツか『ヤミヲ』に阻止されそうだが。

「ああ?まーだそんなちっこいこと気にしてんのか?ちょっとはクレイスを見習えよ。」

「なっ・・・」

自身の中で一番評価の低い少年を見習えとは・・・

(カズキではないが、やはりこの男はどこかで仕留めないと気がすまないな。)

ちらりとその少年に目をやれば、ヴァッツとラクダを触って楽しんでいる。

祖国を取り戻すと固く誓ったはずなのにそれが微塵も感じられない。

(こんなののどこを見習えと言うのか・・・)

そんな視線が気になったのか、

「な、何?ショウどうしたの?」

またも無意識のうちに眉をひそめてジト目気味に睨んでいたらしい。

「いえ、別に。」

(女王様の命令とはいえ、これを迎え入れる・・・迎え入れる・・・うーむ。)

返事はしたものの表情と視線は逸らさず、その事を考えっぱなしのショウ。

普段は忘れようと心がけてはいるものの何かあれば思い出してしまい、

自分の中でぐるぐると回ってしまうのだ。

(とにかくこの旅は、早くヴァッツの故郷に向くように何とか誘導していって、

さっさと招聘の件を話してしまいたい。)

最近のショウはずっとそればかりを考えている。

そう、今のヴァッツにはクンシェオルトという強大な付加価値もついているのだ。

この2人を国に招き入れるだけで『シャリーゼ』の軍事力は他国を圧倒できるだろう。

もちろんガゼルが言っていた頼ろうとしている部分というのも忘れてはいないが、

それこそ『シャリーゼ』が後ろ盾になればより話が上手くまとまるのではないかと思っている。


「さて、人数分と予備のラクダを調達出来ました。と言っても借りた形になりますが。」

それぞれが羽を伸ばしているところへ時雨が戻ってきた。

「借りた?じゃあまた返しに来ないといけないのか?」

ガゼルが不思議に思い尋ねてみると、

「いえ。この砂漠という土地は素人だけで縦断するのは非常に危険だということで、

ラクダ屋の人間が1人、案内としてついてきていただけます。」

時雨がそういうと、その後ろからひょこっと顔を出し、

「やっほー。よろしく少年達。私ジェリア。と、このおっさんも一緒?」

「おっさん言うな。」

「いやおっさんだろ。」

クンシェオルトのような肌黒さではなく日焼けとそういう人種的なものだろう。

褐色の小麦肌に黒い短髪の女性はカズキの突っ込みを見てからからと笑っている。

「まぁたんまり貰ったからね。この縦断は大船に乗った気持ちでいていいよ。」

どんと胸を叩き、さわやかに微笑む笑顔の彼女に

「俺船苦手なんだ。もっと他の例えにしてくれない?」

自身にも突っ込みが来るとは思っていなかったようで何ともいえない顔で黙り込んだ。




 ジェリアの指示により各自まずは衣類の着替えをさせられる。

「普通の服じゃ暑さにやられちゃうからね。」

そう言われてそれぞれの体に合った衣装を用意され、

初めて着る服に悪戦苦闘しながらも全員が着終えると、

「ジェリアさん、この服、少し露出が多すぎませんか?」

普段からきっちり着込んでいる時雨が少し気恥ずかしそうに尋ねている。

見てみると確かに腕やおなかが丸出しだ。

髪が黒く映えるせいか白い肌が一層輝いて見える。

「それは薄手で通気性がよく、日の光も遮ってくれる特産品で作られた服なの。

あんな服で砂漠に入ったら一日ももたないわよ?」

「は、はぁ・・・」

「案内役の私が言うんだから間違いないの。」

背中をばんばんと叩き、無理矢理納得させようとするジェリア。

「時雨似合ってるよ。暑いところみたいだし涼しい格好のほうがオレもいいと思う。」

ヴァッツにそう言われ、時雨はそれ以降不満を漏らすことは無くなる。


そして荷物だ。

ほとんどが水で占められるが、更に驚いた事に

人数より遥かに多い数のラクダの手綱を縦に繋ぎ、それぞれに背負わせる。

「休める地点はいくつかあるけど、補給がほぼ無理だから水だけは確保しておかないと。」

入念な準備にさすが地元の案内人だと関心するもここで1つ問題が発生した。


ジェリアの指示により荷馬車も手放す予定だったのだが、

「これ、手放したくないんだけど・・・オレが引いて歩くからさ。だめかな?」

馬は船旅時同様、環境の都合で何とか説得できたが

迷わせの森から2ヶ月近くずっと乗り続けた荷馬車にはかなりの愛着がわいていたようで、

「わかりました。では持っていきましょう。」

時雨が即答する。

「やった!!」

「ちょっとちょっと!車輪のついた荷台なんて砂に埋もれて動かないわよ!?」

2人のやりとりをみてジェリアが慌てて止めようとするが、

「そうなの?じゃあ持ち上げて歩くよ。」

この子は何を言っているんだろう?という顔になるジェリア。

実際目の当たりにしないと持ち上げるという発想は出てこないだろう。

「いくら無類の力持ちとはいえ、相当足をとられる砂地のようです。大丈夫ですか?」

環境の変化を指摘しショウが心配そうに尋ねると、

「うーん。多分大丈夫!!」

考えての結論かどうかはわからないが元気いっぱいに答えるヴァッツ。

「まぁ無理そうだったらばらして薪にでもすればいいだろ。」

何気なく口にしたカズキだったが相当気に入らなかったのか、

ヴァッツがむくれ顔で彼をにらみだすと、

「ははは。もしヴァッツが無理そうならカズキも手伝ってあげなよ。僕も一緒に手伝うから。」

その様子をみて思わず笑いがこみあげるクレイスだったが、

「本当に持ち上げていくの?」

周囲が何の疑問も持たなかったので改めてジェリアが疑問を呈すると、

「ヴァッツ。持ち上げて見せてあげなさい。」

どんな立場からの発言なのかガゼルが変な言葉遣いでそう指示を出す。

するとヴァッツは馬車の下に潜り込み、ふわっと重さの感じない勢いで持ち上げてみせた。

「こいつは城の城壁に使われてた大岩を軽々持ち上げて突っ走ってたんだぜ?

これくらい余裕だろ。」

一度その怪力を利用していたガゼルには確信があるのだろう。

「本当に貴方は思い出したくない事をいちいち口に出しますね・・・」

ショウが本当に刺して殺しそうな視線を送っているが本人は全く気にしていない様子だ。

「なぁヴァッツ。そんなに余裕あるならただ持ち上げて歩くだけじゃなくて、

いっぱいいっぱいまで水とか食料とか乗せていかないか?」

ついさっき薪にすればと言っていたカズキがそれを提案するのはどうなんだろう?

しかしヴァッツに負担がなければそれはそれで良案のはずだ。

「うん!いいよ。何乗せていこう?」


彼らからすれば当然のやりとりであっても

案内役のジェリアからすれば準備の時点で予想外の出来事が起こり、

それをどう扱えばいいのか困っていたが、

「大丈夫です。ヴァッツ様は非常に強靭なお方ですから。」

時雨がうれしそうにそう言ってきたので、

仕方なく馬車内にはありったけの食料やら寝具やらを乗せて一行は北へ出発した。






 「これは・・・思っていた以上に暑いですね。」

最初に言葉を発したのは時雨だった。

村を出発して2時間程で一面が砂と岩石の景色に変わる。

所々植物はあるが、それもごくわずかだ。


「ね?着替えて正解だったでしょ?」

後ろを向いてドヤ顔をみせつけるジェリア。

「この中を五日ほど進まないといけないとは。過酷な世界もあったものです。」

ショウも涼しい顔に汗をにじませていると、

「・・・ショウって怒ると?頭が燃えるじゃん?暑いの平気なんじゃねぇの?」

ふと疑問に思ったカズキが問いかけた。

女王の話では灼炎の力がどうこうだと言っていたが、

本人からその話をしているのを聞いたことはない。

「あれは魔術の一種ですから。原初の炎や熱さとは別なんですよ。」

「へー。」

感嘆なのかよくわかっていないのか、カズキが適当な返事をする。

「・・・つまりショウも暑いってこと?」

「そういうことです。」

クレイスの質問に短い返事をするショウ。


何となく・・・いや、『シャリーゼ』への道中から感じていたが、

彼は自分に対してはかなりの距離を置いて接してくる。

それに比べてヴァッツやカズキには非常に親密な距離で会話をする。


最初は自分が『ネ=ウィン』から狙われている身だから厄介者として見られていると思っていた。

だが『シャリーゼ』へ迷惑をかけたくないのと、ヴァッツを悪いやつから守るという理由で、

旅をつづける事を選んだ後も彼の態度は変わらない。

むしろ少し遠くなった気さえする。

ショウは若くても国の重鎮だ。こちらは滅んでいるとはいえ王族になる。

そういった意味で接近するのを控えている・・・とも考えにくい。

時々向けられる何とも言えない視線がそれを物語っている。


(・・・僕に何の力もないからかな・・・

ショウに嫌われる理由って国への不利益以外に何かあるのかな・・・

それともこの旅で何か目的があって、知らず知らずの内に僕が何か邪魔になってるとか?)


今まで同世代の友達などいなかったクレイスがきっかけは亡国とはいえ、

いつの間にか3人と旅をしている。出来れば仲良くなりたい。

王子という立場ながら国務に関わってこなかったせいで

無垢に育った少年のクレイスが心の内で願望をもやもやさせる。


だがそんな思考も酷暑で消え去り

日が傾いてきた頃、一行は中継点である簡易宿泊所にたどり着いた。

簡易ではあるがしっかりと岩を積んで雨風を凌げるようには建っている。

旅路、販路としても使われる為、ジェリアのラクダ屋が建設、管理も行っているらしい。


「はい。今日はここで休みましょう。みんな初日どうだった?」

ジェリアがラクダを降りて一同を見渡している。

「・・・俺は断じておっさんではないが、なんつーか。

暑さに耐える為に集中しなきゃいけないってのは38年の人生で初めてだったわ。」

「同じく。寒さに耐えるってのはあったが、

暑さは気を緩めるとまじで気を失いそうだと感じた。これはいい経験だ。」

少年と中年が口をそろえてそう答えている。2人ともなんだかんだでまだ余裕はあるみたいだ。

「私と歳倍違うじゃない。それでおっさんじゃないとか・・・まぁいいけど。」

若い女性に言われたからか、やたらと否定したがるガゼルに

知ってか知らずかジェリアはあきれ顔と笑みを重ねて浮かべている。

「それよりヴァッツ様は?大丈夫でしたか?」

時雨は馬車を下ろした彼に駆け寄り顔色を伺うよう覗き込む。

「ん?暑かったね?」

汗一つかいていない様子のヴァッツが、周囲の話題に合わせるように疑問形で口にする。

一人だけ自分の足で砂場やら岩の上やらを歩いていたせいか砂塵だけは人一倍被っていた。

「・・・君は本当に凄いね・・・」

砂漠と暑さに慣れているジェリアも感心というよりは少し引いている。

「オレよりクレイス、大丈夫?」

ヴァッツが終始無言の友人に近寄り顔色を覗き込む。

「え?うん。大丈夫だよ。」

そう返ってきたものの、顔色は赤みを帯びていて目に力がない。

「どれどれ?うーん。だいぶ参ってるね。

日焼けか熱があるのかわからないけど今晩はゆっくり休んでね。」

案内人はそう言ってくれるが、

「はい。じゃあとにかく晩御飯の準備をしますね。」

「ええ!?君はもう休んでなよ!」

「そうだよ。クレイス疲れてそうだもん。オレがやるよ。」

2人は心配そうにそう言ってくれるが、クレイスには道中に考えていた事があった。


せめて自分の得意な料理だけでもやり遂げたい。


船乗りの人達もおいしいごはんで胃袋をつかめと言っていた。

自分に何の力もなく、出来る事といえばこれしかないクレイスは暑さの中この決意を固めていたのだ。


周囲に見守られながらヴァッツに手伝ってもらいながら作った料理は

案内人が絶賛するほどの物になったが、

本人の意識は朦朧としていて、その後の出来事をほとんど覚えてなかった。

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