第23話 天国と地獄
「天井の星の輝きと・・・か・・・」先輩が呟いたので、神鬼は
「我が内なる道徳律ですか」と答えた。
「カントは読んだ? 」
「いえ、まだです」
「俺もそう、学校で習っただけ。読む前に仕事が始まって、哲学的な事を考えると、逆に仕事が出来なくなりそうでね」
「私たちが相手にしているのは、カントが誰かを知っている人間ですから」
「難しいよな」
お酒が回ったのか、ちょっとしみじみとした感じになった。
すると不意に先輩は
「君は神様っていると思う? 」
神鬼はドキリとしたが
「僕の前に」
少し間があって答えた。
「冗談じゃなくてさ、そういう存在がいるのかなって感じたことがある? 」
「あるような、ないような」
「俺はこの仕事を始めて頭にくることばかりだけど、でも幸運なのは今に生まれたこと」
「昔だったら・・・斬り殺していたとか? 」
「そういうこと、何回も俺に殺されている奴もいる。でもな・・・そういう人間で、俺がうらやむほど幸福な人間って・・・いないんだ・・・」
「神が罰を与えていると思われるんですか? 」
「罰を与えている・・・と言うより、人としての則、そういうものを神と呼んでいるような気がする、君は? 」
「経験不足で、そう感じないことが多いように思います」
「そう? そうか、その点若いのかな。神様はいるかもしれないけれど、きっと太陽のようだよ、何もしない、手助けも何も。
「天は自ら助くる者を助く」だよ。それが一番平等だ、偉いよ」
「平等、ですか。確かにそうです。神ならば・・・そうあるべきですね」
正直心中は神鬼といえど穏やかではない。
大神に会えばまずあのことを謝罪しないわけにはいかないからだ。
「そう、そうあるべきだ、でもそう考えると矛盾したことはいっぱいあるんだ。神がいると言うことは天国もあるし、きっと地獄もあるだろう。地獄で罪を償っているはずなのに、どうして不平等になるんだろう? 」
「今の世が不平等ですか? 」
「最近テレビであっているじゃないか、俺は録画して見ているけれど、小学生ですごく専門的な知識を持っている子。
「学校で話す人がいない」って言うのは共通の「おち」だけど、でも理解のある両親と、夢中になれるものがある。見ていてこっちも楽しいよ。
でも・・・その真逆な子供もいる。
敗戦後、戦災孤児が問題になって、復興して衣食住に事かかない時代が来たのに・・・今は子供の七人に一人が貧困家庭だ。逆戻りだよ。
そうならないように、地獄で耐えるのじゃないのかと思ってさ。
でも、世界中で「三途の川を見て生還した人」はいても、
「地獄で責め苦に遭って生還した人」はいないし、その記憶を持っている人もいない。前世の記憶ならあるけど。
そう考えると、やっぱり何もないのかなって。
きっと日本人的な考えなのかな」
先輩はクスリと自嘲的に笑った。
「先輩は、本当の神になりたいとは思いませんか? 」
「神? 嫌だよ、人が幸せな姿だけを見ている訳じゃないんだ、それを永久に見なければいけないんだから、苦痛だよ、大変さ。
女癖が驚異的に悪くなる程度ですんでいるだけ、すごいと思うよ。まあ、男同士だから出来る話だけど」
「どの神の事でしょう」
「まあ、一般的にどの国の神話にもあるだろう? 」
「そうですね、おっしゃるとおりです」
「君は神については独自の考え方を持っていそうだけれど」
「そうですね、それは次の機会にしましょうか」
「賛成、今日は楽しく眠れそうだよ、ありがとう」
二人は別れ、それぞれの電車に乗った。
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