第22話 壮行会
「本当なら今日でも壮行会と行きたいところなんだけど」
「時期が時期なだけに無理ですね。ご厚意は感謝します」
「今日は二月にしてはすごく暖かいから、本当に屋外でってどうだい? いつも夕食一人でさ、正直寂しくて、わびしくて」
「いいですよ」
「おじいさん、いいのかい? 」
「最近祖父の方も忙しいんです、指物の職人ですから、後輩の指導に夢中で、帰ってもいないことの方が多くて」
「そうか! そりゃいい! 旨い惣菜屋が近所にあるから、そこのを買い占めよう」
「そうですね」
買い物を終え、二人はビル群の中にぽつりとある、大きな木の公園に向かった。
「じゃあ、乾杯! 」
「頑張ってきます」
壮行会らしきことを言った後で
「どう? このナスの揚げ浸し、口に合う? 」
「もちろんです、祖父にも食べさせてあげたいです」
「そうだろう? 本当に旨いんだ。あそこは元々惣菜屋だからダメージはそんなに無いとは言っていたけど・・・まあ・・・いつまで続くのかな・・・そうそう、今日は楽しい話でもしよう」
「楽しい話ですか? 」
「仕事とはあんまり関係ない事で。そうだ、君は趣味とかあるの? それに、あんまりこれは好きじゃないとか、苦手って言わないけれど」
「先輩は趣味がたくさんあるんでしょ? 」
「俺はありすぎ、多芸の無芸ってね」
「落ち着いたら、カメラのこと教えてください。お好きなんでしょ? 」
「ハハハ、そうだね、カメラ屋にもそんなに寄ってないな」
「あ! そういえば相談したいことが」
「何? 」
「おかずをもらった彼女に、何のお礼をしたらいいかなと思って」
「そうだね・・・でも彼女は自分を受け入れるかどうかを聞きたいだろう? 」
「今は無理です」
「即答だね、悪い子ではなさそうだけど。仕事が忙しくてそんな気になれないって言うのは・・・うーん・・・」
「彼女がいるというのはどうでしょう? 」
「断るのには最適だね、でも悪いけどあれから数日たっているだろう? その答えはそれこそ即答だったら良かったんだけど」
「期を逃しましたか」
「嫌いと言うわけではないんだろう? 」
「ええ」
「難問だね、なかなかの。と言うことは・・・正直が一番かな」
「そうします、出張でかわいいお菓子でも買って」
「かわいそうな気もするけど」
「先輩にはおかずになりそうな物を」
「ありがたいね、君は本当によく気がつく人間だね」
「そうでしょうか」
「ハハハ」
二人で笑っていたが、先輩は笑い声が消える頃こう言った。
「君にしては少し緊張しているようだね、何かつかんできてほしいとは言ったけれど、それは気にしなくていいから」
「ハイ」
「ああ、今日は月が出て無いんだな、星が見える、うれしいな」
二人は空を見上げた。
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