第一幕 70話 えらい?



 エシュメノは強くなった。


 だけど全然足りない。

 もっと強くならなきゃ、ぜんぜん足りない。


 今よりずっと強くならなければ、あいつを殺せない。

 ソーシャの仇を討てない。



 この力はソーシャがくれた。

 角も、ソーシャがくれた。


 右と、左と、真ん中にエシュメノの角がある。

 三本角。これでエシュメノはソーシャとおんなじだ。

 おんなじくらい強くなって、敵を全部殺す。



 アヴィは友達だ。

 話は聞いてる。アヴィも魔物に育てられて、その魔物を人間に殺された。

 エシュメノといっしょで、エシュメノの友達だ。


 人間がいると同じことを繰り返すって。

 また、誰かが家族を殺される。

 誰かの大切なたったひとつを、食べるためでもないのに、殺してしまうんだって。



 エシュメノは知っている。

 食べるためでもないのに殺すのはいけないって。

 ソーシャが教えてくれた。


 いっぱい教えてくれたことは全部覚えてる。

 エシュメノはかしこいってソーシャが言ってたから、全部覚えてる。



 最期のソーシャの言葉も覚えてる。


 ソーシャのために生きてって。


 わかった。エシュメノはソーシャのために生きる。ソーシャの仇を討つ。

 それにはもっと強くならなきゃいけない。

 人間を、ぜぇんぶ殺さないといけない。


 ん、食べるためじゃないけど……たぶんこれでいい。ソーシャのためだから。



 アヴィたちはそのために戦ってる。

 じゃあエシュメノとおんなじだ。


 エシュメノだけじゃ出来ない。悔しいけど、エシュメノはソーシャより弱いから出来ない。


 ルゥナに任せたら出来るってアヴィが言った。

 だからエシュメノもルゥナに任せる。一緒に戦って、ソーシャの仇を討つ。




 アヴィはエシュメノを抱きしめて眠る。

 友達だから仕方がない。


 ソーシャもそうだった。寝る時にエシュメノがいないとゆっくり眠れないって言ってた。


 一緒に寝てるとアヴィは泣く。

 いつも泣く。


 だからエシュメノも泣いた。

 そうやって泣いて、キースをして、眠る。

 アヴィは泣き虫だけど、エシュメノは友達だから許してあげようと思う。


 ソーシャが言ってた。

 友達が出来たら優しくしてあげなさいって。


 ねえソーシャ。

 エシュメノ、えらい?



  ※   ※   ※ 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る