第一幕 31話 瓦礫に嗤う雨_1
呪術師ガヌーザ。
ロッザロンドでも高名な呪術師に拾われた彼には才能があった。
女神の愛を知る才能が。
瞬く間に呪術の基礎を、応用を、そして多くの者が至らぬ真理にまで手を掛ける。
師が、ガヌーザへの教えを渋るようになった頃には、既に他人から学べるようなことはなくなっていた。
そんな彼を疎み、妬み、殺そうとした師のことを、ガヌーザは特に恨んでいない。
きっかけをくれたのは間違いなくその師であったし、育てられたことに恩を感じないわけでもなかった。
だから海を渡った。
殺し合うといのなら別に恐れることもなかったが、何しろ呪術に精通する者は少ない。
生きているなら案外と、今度はガヌーザが知り得ぬ境地に辿り着くものがいるかもしれない。
そう思うと、殺すのも惜しいという気持ちもあった。
ガヌーザは天才ではあったが、醜悪な見た目でもあった。
その反動か、美しい女を見ることを好み、枯れたような指で触れる愉しみも知っている。ガヌーザの手が触れると、花は泣き萎れた。
若くして呪術を極められたのも、彼の欲求を満たす手段として都合が良かったからなのかもしれない。
満たされないのだが。どこまでいっても。
ガヌーザにとって、カナンラダ大陸は悪くなかった。
一定の水準に社会が出来上がってしまっているロッザロンドと違い、カナンラダは混沌としている。
村の娘がいなくなってもよくあることだし、町で一家が怪死しても本格的な捜査はない。
呪術師の力を自由に使える環境。
彼に歯止めをかけられる人間はいなかった。
先触れと言った。
呪術の至高。
使うべき呪術を先に準備しておくこと。
発動する前から、その呪術の影響を及ぼすこと。
戦っている間、ガヌーザの周囲には常に事前に準備していた呪術の影響があった。
発動させずに、ある程度の影響を敵に与える。
味方にも影響がなくもないので、事前に準備をする呪術は即死の効果などではまずい。
ガヌーザにはうまくできない世渡りをする為の雇い主もいるし、いずれその尻を舐めたいと思う奴隷もいる。
命に害があるような呪術は都合が悪い。
女神が、その指に傷をつけた小鳥の雛の籠に
そのぬかるみは雛を飲み込み、もがく雛の生きる力を奪ったと言われる呪術。
受けた者の力を減衰させ、その力を存分に使うことが出来なくなる効果があった。
戦いに臨む多くの者は自らの力を知っている。
普段なら出来ることが、いつもなら動ける動きが出来ない。
その違和感は、熟練者であればあるほど影響が大きい。
ガヌーザ自身の体術が及ばなくとも、敵の力が減衰すれば大抵の問題は解決する。
牧場を襲うような相手だからと、用心して使ってみたのが正解だっただろう。
本来の力を発揮できずに死ぬ戦士。その間抜け面を拝むのも悪くない。
その敵を確認して、気が変わったが。
――こ、れは我、の……恵みとす、る。
収穫だった。
女神が、満たされぬガヌーザの為に
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