#41 配信開始!
『折角のお休みに私の配信を見るくらいしか予定のない暇人さん達。こんにちは』
にこやかな顔で煽るクロリスのそんな台詞から配信は始まった。
ちなみに「暇人さん」とはクロリスの視聴者の総称である。
『昼間にも関わらず沢山のお星様が集まってくれて俺も嬉しいぜ。
コスモもいつもの様にキザな台詞回しで挨拶する。
「お星様」はコスモのリスナーを指す言葉だ。
『そうでしたね。今日はコラボ配信なのでウチの暇人さんだけでなく、コスモのお星様も見てくれるんでしたね。では簡単には自己紹介をしましょう』
クスリと小さく微笑み、胸に片手を置いてクロリスは言葉を紡ぐ。
『個人Vのクロリスと言います。普段は
今回はコスモからトレバトの誘いをいただいたので、微力ながらお手伝いさせていただきます』
品の有る挨拶に続いてコスモが言葉を吐き出す。
『ふっ、俺の名はコスモ。宇宙よりもビッグな男さ。今日は沢山のお星様にビッグバンより熱いバトルをお見せしよう!』
『それともう一人紹介しなければいけない人がいますね』
クロリスのそんな言葉と共に画面に三人目のVが姿を現す。
そいつは銀色のプレートアーマーに身を包み、顔さえも覆い隠した西洋の騎士のような姿をしていた。
『我が名はランス。クロリス様をお守りする騎士である。今日は騎士道精神にのっとり、正々堂々と戦わせていただく』
「なんか、また独特な人が出てきたね」と夜宵が呟く。
「この人もコスモさん達と同じヴァーチャル配信者なんですか?」
光流の疑問に俺は答える。
「ちょっと違うかな。ランスは言葉通りクロリスのセコンドってうか付き人みたいなことをやってるんだ。単独で活動はしてない」
クロリスの配信でチャット欄にコメントを書き込んだり、たまに画面に出て共演したり。それが普段のランスの仕事である。
裏では配信の手伝いもしてるらしいので、リアルではクロリスの彼氏なのでは、なんて憶測も囁かれている。
表だって活動してない分、
と、そんなことを話しているとコスモが声を張り上げた。
『では早速今日対戦する両チームの紹介だ! まずは俺達のチーム、レジェンドハンターズ! メンバーはコスモ、クロリス、ランス、ミルキィ、グランパの五名!』
それを聞きつつ、俺は仲間内に説明する。
「ミルキィとグランパはVじゃないカタギの人だな。今回は喋らないのかな?」
「カタギって。Vの者はヤクザだったの?」
夜宵が顔を引き攣らせながらそう吐き出すと、画面の中ではいよいよ話題がこちらに移る。
『そして対戦相手の名はライオンハート! メンバーはヒナ、ヴァンピィ、ひよこ、虎衛門、水姫の五人だ!』
コスモの紹介を受けてチャット欄にコメントが流れる。
――ヴァンピィさんを見に来た。
――シングルスの六月シーズン最終五位のヴァンピィさんだ!
――ヴァンピィさん、オフ会で会ったけど美少女だった。
やっぱりシングルスの上位ランカーだったヴァンピィは有名人だな。
ちなみに「ヴァンピィさん、オフで会ったけど美少女だった」というのはある種のコピペである。
およそ一月前、俺は夜宵を初めてのオフ会に連れて行った。
その夜、彼女はツイッターでこんな呟きをした。
『今日のオフ会で俺と絡んでくれた方、ありがとうございました。「ヴァンピィさん、オフ会で会ったけど美少女だった」ってみんなに伝えておいてください』
実際に美少女なのだが、普段男口調でツイッターをやってるヴァンピィがこんなことを言うと逆に嘘くさくなる。
そうしてツイッターでヴァンピィと親しい人達を中心に、この文章はコピペとして広まった。
そんな経緯でヴァンピィ美少女説はほぼネタコピペとして定着してるので、本気で信じてるのは実際に会った人だけだろう。
さて、話を戻そう。コスモの説明はまだ続いている。
『ヒナと俺はかつて
最強チームのメンバーだった俺達が、今度は自分のチームを率いて戦う。この熱い戦いを最後まで見届けてくれよ。
じゃあヒナ、お前からも軽く挨拶をしてくれ』
おっと、こっちにお鉢が回ってきたか。打ち合わせ通りだな。
俺は通話をオンにして、こちらの声がむこうに届くようにする。
お兄様頑張ってください、と小声で応援する光流の言葉が耳に届いた。
俺はパソコンに向けて言葉を吐き出す。
「えー、ライオンハートのリーダーのヒナです。
早速なんですが、僕ってコスモのファンなんですよ。いつも動画や生放送チェックしてますし」
俺の言葉に、おっとお? とコスモが口元を綻ばせる。
「それでコスモのリスナーならわかると思うんですけど、彼って負けたところ見たことないんですよね。シングルスなら多少負ける試合もありますけど、トレバトに限っては絶対に負けない。
ねえ、お星様達? たまにはこいつが負けるとこ、見たくないですか?」
俺がそう問いかけると、チャット欄が一気に盛り上がった。
――見たいー。
――いいね、コスモを倒せ!
――今からライオンハートのファンになります。
『ぐっ、なんかウチのお星様達が寝返り始めたんだが』
『アハハ、人望がないですねコスモは』
悔しそうにするコスモと、それを嘲笑うクロリス。
とりあえずお星様達を味方につける作戦は成功したようだ。
「よし、今日は見せてりますよ! コスモが負けるところを! ライオンハートの勝利をもって!」
『ふっ、その意気だヒナ。今日の戦いでお前達の太陽の様に熱い魂をぶつけてこい! だが俺の宇宙はそれさえも呑み込んでやる!』
俺の煽りにコスモも煽り返す。こうしてチャット欄はそれぞれのチームを応援する声で溢れ、配信は盛り上がりを見せた。
通話を切ったところで、俺は一息つく。
「お疲れ様ヒナくん。完全にアウェーで戦うかと思ってたけど、見事に味方を作ってくれたわね」
ハンドルネーム呼びに切り替えている水零のねぎらいに俺は相槌を返す。
「ああ、それよりいよいよ対戦開始だ。準備しよう」
その言葉を皮切りに、各々が持ち寄ったゲーム機、
本来はゲーム画面が表示されるスクリーンをテーブル中央に向け、そこに立体映像を映し出した。
テレビモード、携帯モードに続くこのゲーム機の第三の遊び方。それがこのスタンドモードだ。
それぞれのゲーム機の距離をもっと開けることで大規模な立体映像を楽しめるが、今回はテーブルの上という小規模な範囲で映像を投影している。
テーブルにバトルフィールドが展開され、俺達五人はそれを囲みながら作戦を再確認する。
「バトルフィールドの南端にいるのがゴールデンクイーンマドール。俺達が守るマドールだ。
そして北端の存在するこいつがゴールデンキングマドール。敵の王将であり、こいつを倒すのが俺達の目的だな」
トランプのキングとクイーンをモチーフにしたような二体のゴールデンマドールを指して俺はそう説明する。
「なんで、ゴールデンマドールのデザインが違うんでしょうね? サッカーもバスケもゴールの形は両チーム同じなのに」
「将棋だって王将と玉将の違いがあるからな。そういうもんだろ」
「な、なるほど」
俺の雑な説明に光流は釈然としない様子ながら納得してみせる。
そして作戦確認を続ける。
「ウチの先発メンバーは予定通り、俺、ヴァンピィ、水姫で行く。ひよこと虎衛門はベンチで待機だ」
自陣のゴールデンマドールのそばには三体のマドールが待機している。
赤い鱗と炎の翼を持つ西洋竜。俺のプロミネンス・ドラコ。
黒マントとタキシードに身を包んだ銀髪のイケメン吸血鬼。夜宵のジャック・ザ・ヴァンパイア。
白いローブを纏うピンク髪の魔法使いの少女。水零の
先発マドールのスタート地点は自軍のゴールデンマドールの近辺となる。
つまり最初は味方同士が固まっているわけだ。
そして相手の先発メンバーも確認する。
コスモ、クロリス、グランパの三人らしい。
俺は夜宵に言葉を向ける。
「バトルフィールドの東側三十パーセントは夜の時間になってる。夜のフィールドを得意とするジャック・ザ・ヴァンパイアにはここを通って、敵陣に攻め込んでもらう」
「おっけー、わかったよ」
彼女はそう言って両手を握り締めた。
「俺もプロミネンス・ドラコでヴァンピィを援護する。移動速度ではジャックには及ばないが、プロミネンス・ドラコは遠距離攻撃ができるからな。
ゴールデンキーパーの水姫はゴールデンマドールのそばに待機して、敵を迎撃してくれ」
「うん、任せて」
水零が頷くと、PC画面の中からコスモの言葉が響く。
『じゃあそろそろ準備はできたかな? 始めるぜ』
通話をオンにして、俺も言葉を返す。
「いつでもかかって来いよ。こっちはもう待ちくたびれてんだ」
その答えに、コスモはニヤリと笑って見せた。
『なら行くぜ! バトルスタートだ!』
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