第42話 不届き者達を炙り出す方法
「本当、に…?」
「だからっ…!!恥ずかしすぎて何度も言えませんけど本当ですってば…!!」
先ほどからこのやり取りばかりしている私たちは、他の人から見たらどう映るんだろうか?
囁かれた愛に、私も自分の本心をちゃんと返したというのに。なぜか殿下は何度も何度も確認してくる。
「いや、まさか……既にカリーナの心が私の元にあったなどと…。信じられないと言うよりは、気付かなかった自分が情けない……」
そんな風に、本気で落ち込んでしまっているから。
どうやら疑われているのではないらしいけれど、これはこれでどう対処すべきなのか分からなくて困る。
「え、っと…殿下……?」
「……そうか…なるほど、そうか。そういう事か。それを知って、今ようやく合点がいった」
「あの…何がでしょうか…?」
「ずっと気になっていたのだ。体調が悪いわけではないと言いながら、どこか様子がおかしかったからな」
「っ…そ、それは…その……」
確かに、殿下の婚約話を聞いた日の午後から心配されるようになったから。
今それを思い出されたら、原因なんて分かりやすいくらい分かるだろう。特に察しのいい殿下ならなおさら。
「だがそれならば、気付いていなかったことがなお悔やまれる。与えるべきは休みではなく、君を安心させてやれるような言葉だったのだからな」
「ぅっ……」
間違ってはいないけれど、それを口にされるとなんだか恥ずかしいやら情けないやらで……。
ついつい殿下の顔を見ることが出来なくてうつむいてしまうけれど、殿下はそれを許してはくれなかった。
「私から目を逸らさないでくれ。その美しいヴェレッツァアイをもっと見ていたいし、見つめられていたいのだ」
「ぁ、ぅっ…」
「すまない。もっと早く気付いていれば、こんなにも会えない時間を作らずに済んだというのに……。ずっと、誤解したままだったのだろう?」
「ぅ…え、っと……は、い……」
この瞳に見つめられて、嘘がつける人がいるのなら一度会ってみたい。一体どんな人物なら、この人を欺き続けられるのか。
結局私は素直に頷くことしかできなくて、なんだかもう恥ずかしさにおかしくなってしまいそうだった。
「一人で涙を流したりはしていなかったか?誰にも相談できずにいたのではないか?」
「そ、の……」
その通りなのだけれど、その原因である張本人からそれを聞かれるというのはどうにもいたたまれない気分になる。
というか、そんなこと聞かないで下さいよ、殿下……。
「本当にすまなかった…。食の癒しの力が弱くなっていることに気付いた時点で、もっと良く考えるべきだったというのに…」
「しょく…え……?」
なんだかすごく真剣なのは分かるのだけれど、今明らかにまた知らない単語が出てきて。それなのになぜか私に関連があることのように言うから、つい気になってしまった。
「食の癒し、だ。カリーナを血の奇跡だと証明する何よりの証拠だろう?」
「いやし…?きせき…?え、っと……私が何で、何が何の証拠になるんですか…?」
私がそう聞き返した瞬間、殿下の時が止まったような気がした。
固まって動かなくなってしまった殿下と、見つめ合うこと数十秒。
その間殿下は呼吸すら止まっていたのかもしれない。
あまりにも、音がなさ過ぎたから。
「え、っと……あの、殿下……?」
流石に心配になって声をかければ、ハッとしたように空気を吸い込んでようやく動き出してくれる。
「あぁ、いや……なるほど、そうか…オルランディ家は、それすら……」
かと思えば、一人でひたすら何事かを呟いていて。
真剣なのは分かる。分かるんだけれど、一人取り残されてる感はどうしても否めない。
「となると、流石にあれらを引っ張り出すべきか…」
「殿下……?」
なのになぜか真剣な表情のまま、真っ直ぐにこちらを見てくるから。
「カリーナ。私は経験上、他人に見られることには慣れている」
「え?あ、はい。そう、ですね…?」
王弟殿下なのだから、それはそうだろう。
というかむしろ、寝る時以外に長時間一人になれる時ってあるんですか?常に誰かが傍にいますよね?
「だが……流石に折角の婚約者と二人だけの時間を、視線で邪魔されるというのは許せぬのだ」
「ん……?え、っと…それは、つまり……?」
「隠れたつもりで覗いている不届き者達を炙り出したいのだが、協力してくれるか?」
「のぞ……!?」
それはそれはいい笑顔で仰ってますけれど、その内容は私にとっては衝撃的なものなんですが…!?
っていうか、覗かれてるの!?今も!?この殿下とのやり取り全部!?
「そっ……ぅぇっ……」
「あぁ、いやっ。流石に声が聞こえるほど近くにはいないっ…!だからそんな泣きそうな顔をしないでくれっ…!」
「で、んかぁっ……!」
見られているというだけでも恥ずかしいのに、この上会話まで聞かれていたらと思ったら恥ずかしすぎて…!!
殿下はきっと私の気持ちに気づいたのだろう。だからそう言ってくれたんだろうけれど。
でも結局、見られているということには変わりないわけで。
「ひどい……殿下がいるから護衛の方たちが隠れているのは仕方がないと思いますが…」
「そこは諦めがついているのか……」
「当然です。むしろ護衛の方がいないせいで殿下に何かあったら。それこそ嫌です」
「っ…!!君は……どうしてそう、私を喜ばせるようなことを簡単に口にするのか…」
耳元で甘い言葉を簡単に囁ける殿下の方が、私にとっては不思議です。
とは、流石に口にはしなかったけれど。
「でも……意図的に覗かれるのは、いや、です…」
「うむ。私も同じだ」
「なので。何か方法があるというのでしたら、喜んで協力します。私は、何をすればいいですか?」
覗いている相手に心当たりがないわけではない。というかむしろ、ありすぎるから問題なのだ。
とりあえずしばらくはその相手と口をきかないようにしようと強く心に決めて、私は殿下を見上げる。
「…………私が言えた義理ではないが、流石に人を簡単に信じすぎではないか…?」
「私だって相手は選びます。殿下だから、疑う必要がないんです」
「っ…!!……いっそここで、本当に奪ってしまおうか…」
「何を、です?」
「……いや、何でもない。流石にその信頼を失うのは避けたいからな」
何をするつもりなのかが分からないから、何とも言えないけれど。少しだけ物騒な言葉が聞こえた気がして、思わず問いかけてしまった。
ただそれを口にした時の殿下は、なぜか頭を抱えていたけれど。
でもまぁ、とりあえずその何かは思いとどまってくれたようで。
けれど代わりに、唐突に殿下に抱き寄せられる。
「え…あの…!?」
「カリーナは普段通りでいれば良い。それだけであれらは面白いように引っかかるだろうからな」
「え?え?」
「何。少しばかり焦らせてやらねば、また安易に同じことを繰り返そうとするだろう?それならば二度とそのような気さえ起きないよう、深く刻みつけてやらねばなぁ?」
すごくいい、笑顔なのに。
なぜかどこか黒いものを感じてしまったのは、果たして気のせいだったのか。
その答えを手に入れるより先に。
私の唇のすぐ横に。
薄く目を閉じて、頬に睫毛の影を落とした殿下の唇が触れてしまったから。
「…………~~~~っっ!?!?」
そんなことは頭からすっかり吹き飛んでしまっていて。
「殿下あああぁぁっ!?!?!?」
「お待ちくださいコラード殿…!!殿下もどうか…!!どうかそれ以上は…!!」
何より、遠くから全力で走ってくる心当たりたちに、意識が行ってしまったから。
この時のことをすぐに殿下に聞けなかったのも思い出せなかったのも、私にとっては良かったのか悪かったのか。あとになって考えても、結局答えは出ない問いだった。
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