38 課金はタイミングが大事です
ルルがノアにキスされて眠った次の朝。その一方は、半ばうるさい形で届いた。
「ついに来たぞ、ルルーティカっ!」
部屋に入ってきたアンジェラの手には、道端に立てられている木の看板があった。
ルルはベッドに起き上がって眠い目をこする。
「アンジェラ……看板を引っこ抜いてきてはいけないわ」
「んな悠長なこと言ってられるか。見ろよ、これ!」
看板には『聖王内定式典』の開催をしらせるお触れが書かれている。
聖王候補であるルルーティカ王女が行方不明になったため、対抗馬のジュリオ・ヘレネー・ガレアクトラに内定を出す、というものだ。
「このままだと国を乗っ取られる! 急いで、ルルーティカが生きてカントに戻ったってしらせないと」
「落ち着いて、アンジェラ。わたしが姿を見せて
眠くて頭が回らない。ぼーっと考えていると、起き上がったノアが「それでは、今後の方針に向けて話し合いをしましょう」と言い出した。
「本日は『第一回ジュリオを聖王内定の座から引きずり下ろして、マキャベルの悪巧みを潰そう会議』を開催します」
◇ ◇ ◇
朝食を食べ終えたルル、ノア、イシュタッドとアンジェラの四者会議は、淹れ立ての紅茶をおともに開幕した。
「――それでは、ルルーティカ様がいないのをいいことに聖王内定を打ち出した枢機卿団をやり込める案を考えていきましょう。ジュリオとマキャベルを効果的に失脚させる案も募集します。発言のまえには挙手を」
ノアの進行に、イシュタッドが「やり方がまどろっこしい」と突っ込んだ。
「先にユーディト地区を制圧して、証拠を固めてからマキャベルを捕縛しちまえばすむ話だ。俺様が決めた法に逆らったんだから、地区ごと有罪でいい」
「お兄様、それでは密輸に関係していない住民の生活も脅かすことになりますわ。地区を潤しているマキャベルを捕まえるのですから、多かれ少なかれ反発はあるでしょう。罪をあばく側が横暴になると、国民の心が離れかねません。いっそ王族ではなく、ジュリオを聖王に押し上げようという機運が高まるのではありませんか?」
「そうなったら、ジュリオは聖王に相応しくないって、ノワールに託宣させる」
「私は正体をさらしたくありません」
「ノアがこう言っているから、託宣はやめてあげて。私は、お兄様の内定式には出ていないからお聞きしたいのだけれど、どんな風に行われるの?」
父からイシュタッドに聖王が代替わりしたとき、ルルは修道院から出なかった。お祝いしたかったが、当人に手紙で来るなと言われてしまったのだ。
イシュタッドは飽き飽きした様子で、テーブルに足を乗せた。
「式ってものではない。大がかりな茶番だ。
聖教国フィロソフィーの王族は、生まれつき魔力を持っている。
だが、王族の血が流れるヘレネーの息子であるジュリオからは、全くもってその力を感じない。教会裏で見たかぎりでは、一角獣にも嫌われているようだ。
「ジュリオでは内定は難しいかもしれないわね……。いいえ。難しいからこそ、奥の手を使ってくるはず。そこを突けば乗っ取りは防げるわ! 同時に、ユーディト地区そのものではなく研究所跡だけ封鎖して、一時的に港を止めて商用船を留めるの。そうすれば、密輸の証拠も押さえられる!」
熱が入るルルを見て、アンジェラが挙手した。
「ルルーティカの案だと、あたしらだけでは人手が足りない。どうするんだ?」
「もちろん、これを使うのよ」
ルルは、膝にのせていた重たい袋と手紙の束をテーブルに上げた。カチャっと軽快な音を立てたのは、長らく貯めてきた金貨だ。
束の先頭には、マロニー地区の司教からの手紙がある。復活させた織物の販路を広げたいという相談だった。
紐を外して広げると、慈善訪問したカントの外れにある教会の子どもたちからのお礼状や、ルルがお世話になっていた修道院からの便箋が散らばる。
「聖王城に届いた手紙を、ヴォーヴナルグ団長が集めて持ってきれくれたの」
彼は、晩餐会の夜に雇われで黒騎士になった者が、ルルを応援していると言い残して去っていった。
意図せずして、ルルは味方になってくれる人脈を得ている。助力を頼むなら今だ。先立つものは十分にあるのだから。
「人海戦術は数が勝負よ。今こそ、課金のちからを思い知らせてやるわ!」
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