第94話 予言マジック

 そして俺達は次々と「コイン貫通マジック」「カード消失マジック」「口から万国旗出すアレ」等々、様々な技を決めていった。


 練習の甲斐あってか大きな失敗もなく、順調にマジックショーは進んでいき、その度に2人を驚いた顔を見ることが出来たんだ。


 ──そしていよいよ終盤。


「さぁ! 次のマジックで最後かもー?」


「えー! もっと見たい!」


「そうだぞー! もっとやれー!」


 ……何やら大きなおともだちのヤジまで紛れ込んでるけど、気にしてはいけない。


「うんうん、ごめんねー! でもその代わりに今日1番の技を見せてあげるから!」


 そう言ってヒナノは鞄から『赤色のカード』『青色のカード』『黄色のカード』の3枚を取り出して、弟君に手渡した。


「やるのは予言マジック! 誠也くんがどのカードを選ぶかを当てるの!」


 そしてヒナノはアイマスクを装着して、後ろを向く。


「どれかカードを選んでね!」


「うーんと……」


 しばらく悩んだ末、弟君は青色のカードを手に取った。


「選んだ?」


「うん!」


 そしたらヒナノはわざとらしく「ふははは!」と魔王っぽく笑った後に。


「実は私、何のカードを選ぶか事前に分かっていたんだ!」


「えっ! 本当?」


「うん! さぁシュン君! 見せてあげて!」


「あいよー」


 ヒナノの合図で、俺は置いてあったトランプの空箱を開ける。そこには1枚の紙切れが入れてあった。


 その紙を弟君の前でペリペリ開いてみるとそこには……女の子らしい可愛らしい文字で『誠也くんは青色のカードを選ぶ!』と書かれてあったのだ。


「えっ!? 何で!?」


「へへーん、これが予言の力だよ!」


 ──

 藍野の簡単脳内解説。


 これは単純。3パターンの種類の紙を事前に用意しておけばいいだけの話だ。


 赤を選んだのならテーブルの裏。青を選んだならカードの箱の中。黄を選んだのなら封筒の中とね。


 ヒナノは目隠しをしているが、当然俺はしていない。だから俺からすれば、弟君が何を選んだのかが丸見えだ。


 だから俺は臨機応変に、弟君選んだカードと対応した場所から紙を取って見せる。


 そうすれば、さもヒナノが当てたかのように見せれるって訳だ。簡単でしょ?


 ──


「……」


 まぁ流石に高円寺はタネが分かっているようだが。こんなものでは終わらんよ。


「んー? 心美ちゃん、何か不満そうだね?」


「えっ? いや、そんなことは……」


「まぁこれは3分の1、33パーセントの確率だし、たまたま当たってしまうことだってあるもんね!」


 こういう時、具体的な確率や数字を言うと、それっぽく言いくるめることも出来る。ナイスだヒナノ。


「それじゃあこれならどう?」


 そして次にヒナノはトランプを取り出して、俺に投げ渡す。


「……次は俺がやるよ。これも予言マジックだ」


 言って俺はカードを取り出して、慣れた手つきで軽くリフルシャッフルをする。


「それじゃあ今からカードを弾くから、好きな所でストップと言ってね。いくよ」


 そして俺は弟君の前で、カードをパラパラと弾いて……


「ストップ!」


 と言われたタイミングで止めた。そして半分に分けられた上の束をサッと持って、カードを見せる。


「上の部分は見えちゃったから、この下の束を使うことにしよう。このカードを引いてくれ」


 そして下の束の1番上にあるカードを引かせて、カードを覚えて貰う。


「覚えたかな?」


「うん!」


「ここでカードを束に戻して当てる……のは簡単だし、それに何だか怪しいから、この場で当ててしまおう。ヒナノ」


「はーい!」


 元気良く返事をしたヒナノが、また新しいトランプを取り出して「うーんと、うーんと」と、カードを選ぶ素振りを見せる。


 そしてヒナノは1枚のカードを選んで、裏側を向けたままテーブルに置いた。


「このカード……誠也くんが選んだのと全く同じカードだったら驚かない?」


「えっ、ほんとに……?」


「じゃあ『せーの』の合図で出そう! いくよ、せーの!」


 バンとヒナノがカードを裏返し、弟君が手元からカードを出す。その場に現れたカードはどちらも『ハートのエース』だった。


「えっ!?」


「うぇーー!? うっそ!!?? はぁ!?」


 ……やっぱり高円寺の方が本気で驚いているよな。この声で他の部屋から苦情とか来ないよな? 大丈夫だよな?


 ──

 藍野の簡単脳内解説。


 これは『フォース』と言って、カードをお客さんに自由に選ばせたように見せて、 実は俺の予定した特定のカードを選ばせる……そんな技だ。今回はハートのエースを選ばせた。


 1番上に選ばせたいカードを置いておく。やる前にシャッフルしてもいいが、1番上は混ぜてはいけない。


 そしてカードを弾いていき、好きなタイミングで止めてもらう。そこで持ち上げて束を2つ作る時に、仕込んでいたカードを下の束の1番上に置く。


 ここは難しいと思うが、手早くやれば案外バレない。ここはもう練習だ。


 そして下の束の上のカードを引かせる。何が選ばれるかはもう分かっているので、ヒナノも同じカードを出せば良いだけだ。


 ……ね、簡単でしょ?

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