第81話 ドジっ子あいのーん
「はぁ……はぁッ……!!」
バリアフリーか何だか知らないが、やけに高さの低い階段……つまり段数の多い階段を、1個飛ばしで駆け上がること数分。
ついに俺は『7』の文字を捉えるのに成功した。しかし今の俺の状態は……
「…………うぉぇ。うぇぇぇ……!!」
もう息が上がるというレベルではなかった。マジでこれ本当に危ないやつだろ。
もしもその場にお医者さんが現れたのなら、きっと俺はしがみついて、必死に助けを求めただろうな……
……まぁそんなことは起こらなかったので、普通に息が戻るまで階段のとこでうずくまっていたけれど。
「はぁっ……ふぅーっ…………」
……また数分経った。完全に体力が回復したワケではないけれど、これ以上休んではいられないよな。
「…………よし」
俺はゆっくりと立ち上がって、高円寺捜索へと戻るのだった。
──
しばらく7階を歩いて気が付いた。どうやらこのエリアは病室が並んでいるらしい。
まぁ……つまりだ。高円寺は誰かのお見舞いに来ているってことなんだろう。
それが誰なのかまで探りたいんだが……きっと既に高円寺はどこかしらの病室に入っただろうからなぁ。
うーん、全ての病室を開けて確認する訳にもいかないし……これは詰んだか?
まぁ、誰かのお見舞いに来ているってことだけでも分かったのは、大きな収穫か?
そんな風に考えながら、病室の前にあるネームプレートを1つずつ軽く眺めながら歩いていたら……
「……ん?」
見知った苗字の書かれたネームプレートが目に入った。その名前が……
「高円寺……
こんな珍しい苗字は……アイツしか思いつかない。つまり……アイツの家族。
見たところ男の名前だから、父親かお兄ちゃんか弟か……多分その辺だろう。
「……」
なるほどな……繋がったぞ。アイツは家族が何かしらの理由で入院しているから、度々学校を抜け出してお見舞いに行っていたんだ。
「……よし」
とりあえずミッション完了か。高円寺の居場所が分かったとはいっても、病室に突入する理由も無いし。
それじゃあ……ヒナノ達に報告しておこうかな。
俺はスマホを取り出して、メッセージを送ろうとした…………刹那。
『ピポパピポパポン』
「……ぐッアっ!?」
スマホの画面が切り替わるのと同時に、振動が伝わってきた。電話だ。
相手は……委員長。
おっ……おいっ!! 俺はスニーキングミッション中なんだから、せめてやるならメッセージだろ!?
電話を選ぶなんて愚の骨頂だッ……! いやマナーモードにしていなかった俺も悪いけどさ! それでも……それでもさぁ!!
……いや、ここでキレても仕方ない。今すぐに取る行動を考えろ……俺!!
ここは……電話を今すぐぶち切って、素早くこの場から離れる。うん、これが正解だ!
「……んっ? 誰かそこにいるの?」
扉の中から高円寺の声がした。やはり予想通りだ……いや、とにかく早く逃げねば!!
俺は電話を切り、足腰に力を入れてこの場から離れようとした…………が。
「……っつだぁぁっ!!??」
足がつった。
もしかしてさっきの階段ダッシュのせいだろうか……いや、そんなことよりも……
次の1歩が踏み出せねぇ。あっ、コケる。
──そう直感した数秒後には、ドシーンとさっきの着信音よりも何倍も大きな音を響かせて、俺は倒れてしまった。
「………………」
ははは。ドジっ子属性は美少女にしか許されないんだぜ。俺。じゃあ美少女になれば万事解決か……ん。ホントにどうした俺。変なとこ打ったのか? お医者さんに診てもらう?
そんな頭がおかしくなった俺の背後からは……ガラガラと扉の開く音がして。
「えっ…………ウソ」
高円寺の声が聞こえてきた。
俺は情けない、倒れたままの格好で……首だけ動かして後ろを見てみると。若干怯えた表情の高円寺がそこには立っていた。
「あっ……あいのーん?」
「……」
どうやら誤魔化せそうには……なさそうだ。
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