第74話 はぐれないように
迷子センターから離れて、俺らはフードコートまで来ていた。
そして俺はヒナノと向かって座っているのだが……未だに恥ずかしいのか、ヒナノは顔をテーブルにくっつけたまま、俺と喋るのだった。
「シュン君……わた、わたし……なりきっちゃった。幼女になりきっちゃったよ……」
「あっ、うん。とっても上手だったよ?」
「ううっ……恥ずかしいよぉ……!」
正直、ここまで恥ずかしがるようなことでもないと思うんだけど……ヒナノにしてみれば、相当辛いものだったんだな。うん、本当に頑張ったよ。よしよし。
どうにか慰めてやろうと、俺は目の前にあった、そのまんまるな頭を撫でてやった……
「……ん、んんっ……」
そしたら聞いたことのない声が、ヒナノの口から溢れ出た。まっ、まさか、俺に対して威嚇でもしているのか……!?
「ごっ、ごめん! 嫌だったか?」
「……嫌ならすぐに止めさせるってば」
「えっ?」
「だから……んっ」
そしてそう言ったヒナノは、離した俺の腕を両手で掴んで……腕を頭の上に。
まさか続けろってことなのか……!?
「……はやく」
なっ……何でこの子はこんなに可愛いんですか!! あぁ!!
「え、えっと……まぁだいたい理解しているつもりなんだけとさ、何が起こったのかを全部聞かせてよ」
そして俺は猫を扱うみたいに、ヒナノの頭を優しく撫でつつ、状況整理の意味を込めてこうやって聞いた。
「うん……分かった」
そしたら少しだけ笑顔を取り戻したヒナノは、ちょっと顔を上げて、いつもみたいに喋るのだった。
「えっと、あの時シュン君は飲み物を買いに行こうとしてたよね」
「ああ」
「実は私、売店で使える割引券持っていたの。だから私が行こうとしたけど……シュン君が先に行っちゃったからさ」
ああ、そうだったのか。それは悪いことしちゃったなぁ……
「そっか……話を聞かなくてごめんな?」
「あっ、いいのいいの。私が言うのも気が付くのも遅かったから……それで私は割引券を渡そうとして、追いかけたんだよ。でも……」
なるほど……でもあの時の俺は、ヒナノにカッコイイ所を見せようと、走って売店を探しに行ったんだよな。
だからいくらヒナノの足が速かろうが、見えなくなったものを追うのは無理なワケで。
「俺を探せなかったんだね」
「うん……そしてどうしようって道の真ん中で悩んでたら、さっきの方達が声をかけてきてね。それで……迷子だと思われちゃって」
「……」
ああ、やっぱり思った通りだった。
「ヒナノは迷子を否定はしなかったの?」
「それは出来なかったんだよ! 2人ともすっごく心配してくれて! それでこれ以上迷子にならないよう、左右に立って両手を繋いでくれて! 私、捕まった宇宙人みたいになって!」
「……あ。そうだったんだんだ」
というかヒナノ、あの画像知ってるんすね……何か意外。
「それで迷子センターまで連れていかれちゃった私は……ここで決めたんだ。『私、最後まで幼女をやり遂げてみせる』って……」
「……」
俺が一生言わないであろうセリフ言った。いや、俺じゃなくても絶対言わないよな。
「いやぁ……恥ずかしいだろうによく頑張ったよ。本当にヒナノは女優だよ」
そうやって褒めたら、ヒナノは赤く染まった顔を袖で隠しながら。
「……ここで高校生だってバレたら、もっと恥ずかしくなるって思ったもんっ……!」
「それに相馬さん達にも恥をかかせないようにしてやったんだよな。ヒナノは優しいよ」
「あっ、ありがとねシュン君……そう言ってくれると、幼女を頑張った甲斐があったって思えるよ……」
いちいちパワーワードが飛んでくるなぁ。
「そして……また言うけど、シュン君本当にごめんね? シュン君にも色々と協力してもらっちゃって。お腹も……つまんじゃって」
「ああ、そんなのは全く気にしなくていいんだよ。それにヒナノにお兄ちゃんって呼ばれるのも新鮮で……嬉しかったんだ」
「うっ……嬉しいって……もう、バカぁ」
ヒナノはストローでジュースをぶくぶくとさせる。ヒナノはほんとに可愛いなぁ!!!
「よし、ヒナノ。ご飯食べ終わったらまたジェットコースターに行かないか?」
「えっ?」
「今度はちゃんと乗るんだよ。リベンジだ」
そしたらヒナノはこくりと1回頷いて。
「……うん! 行くっ!」
と。うん、俺はヒナノのどんな表情も好きだけど……やっぱりヒナノには笑顔が1番輝いて見えるや。
それを強く再確認した俺だった。
──
「ね、ねぇシュン君」
「どうした?」
「またはぐれたりしちゃったら困るからさ……一緒に手、繋ご?」
「あ、ああ! もちろんだよ!」
「……嬉しい」
そっから俺らはジェットコースターに乗るまでは、ずーっと手を繋いだままだった。
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