第70話 デートのお誘い?
そして俺らは2時限目から授業に参加した。
俺とヒナノが同時に戻って来たため、クラスメイトが向けていた疑惑は一気に確信へと変わっただろうけど……
だけどもう……そんな必要以上に周りの目を気にするのは止めよう。
まぁ、止めようと思ってすぐに止められるものでもないんだけど……俺にはヒナノがいるから。きっとすぐにそう思えるだろう。
そんな何の根拠の無い考えが、今の俺には1番の支えだったんだ。
──
そして次の日。
俺が登校するなり「もう大丈夫か?」と委員長が声をかけてくれた。
なんだかんだ委員長も優しい人なんだな、と再確認することが出来て俺は少し嬉しくなりつつ……こうやって返事をした。
「ありがとう。大丈夫だよ」
「そうか。昨日は藍野と同じように雨宮も最初の授業に出てなかったから……てっきり2人が飛び降りでもしたのかと思ってしまって、授業が全く入ってこなかったんだぞ?」
「……えぇ」
……相変わらず委員長は怖い考えというか、嫌なことを思いつくよなぁ。
「まぁ……心配させたのならごめん。でも、そんなこと俺は絶対にしないってば!」
そしたら委員長は、やれやれと低い位置で両手を上げて。
「どうかな。藍野は常に精神が不安定なことを自覚した方がいい」
「えっ?」
そんな失礼なことを……と思ったけど。俺の過去の言動を振り返ってみると、委員長がそう思うのも無理はないのかもしれない。
例を出すのなら……怒りに身を任せて暴力をふるって停学になったり、俺の思い込みのせいで高円寺と喧嘩したり。
そして今回の件でも衝動的にヒナノを呼び出してしまった。
どれもその時の感情は異なるけれど……全ての場面で、俺の心は冷静ではなかったのは確かだ。
だから委員長の言う通り、俺は精神が……メンタル的な面が弱いのかもしれないな。
それにこのままだと……またヒナノに迷惑をかけてしまうかもしれない。
……それだけは嫌だな。俺のせいでヒナノが傷付くのは、もうごめんだから。
そんな風に思った俺は、委員長に縋るようにこう尋ねるのだった。
「じゃ……じゃあ委員長! どうやったらメンタルの強い男になれるんだ! 教えてくれよ!」
そしたら委員長は腕を組んで。
「うーん、それは私じゃなくて藍野のパートナーにでも聞いてみたらどうだ?」
「パートナー? それって……」
「雨宮だよ。多分……藍野の1番の理解者だろうからな」
……なるほど、確かにそうかもしれない。
「じゃあヒナノに聞いてみようかな……ありがとね委員長!」
そう言って俺は、その場から去ろうとしたら……委員長は俺の背後に向かって。
「ああ。それと藍野。マック奢って貰う件、私はまだしっかり覚えているからな」
「あははっー。やっぱり委員長って記憶力いいんですね! 尊敬しますよ!」
「私をおだてても無駄だぞ、藍野」
──
そして放課後の屋上。
今日は午後5時にヒナノと会う約束したので、そろそろ来る頃だな……
そう思いながら、時計と扉を交互に眺めていると……扉の開く音がした。そして……
「やっ、シュン君お待たせ! 待った?」
ああ、天使のお出ましだ。
「えっと……まぁ10分くらい待ったかな?」
「ふふー、シュン君。そういう時は『今来たとこ』って言うのが正解なんだよ?」
「えっ……そうなのか!?」
そんな礼儀作法があったのか。俺は全く知らなかったよ……そんな俺の反応が面白かったのか、ヒナノはケラケラと笑って。
「あははっ! でも……そうやって正直に言う方がシュン君らしいかもね!」
「えっ、じゃあ正解は……?」
「えっとねー。正解は……『10分待ったけど、そんなの待っている内に入らないよ! ヒナノちゃん大好きー!』かな?」
「……なんか色々変わってない?」
「気のせいだよ!」
えっと……まぁ、ヒナノがお望みなら。俺は何度でも言ってあげますよ。
「そっかー。ヒナノちゃん大好きー」
「…………」
そしたらヒナノは俺から目を逸らした。自分から言い出したのに、恥ずかしがるんだね……
「もう! 急に言わないでよ! びっくりするじゃんか!」
「え、それはごめんよ」
そしてヒナノはわざとらしく「ぷんぷん」と口に出して……こう言った。
「じゃあ……『1日だけシュン君を独り占め出来る権限』を私にくれるなら、許してあげる!」
「えっ?」
それ、俺からすれば普通にご褒美なんっすけど。何なら俺からお願いするヤツなんだけどね。
「ああ……別にいいけど」
「やったー! へへっ! いつ使おうかなぁ」
そんなので喜んでくれるのなら、俺まで嬉しくなっちゃうよ。
「それでシュン君、今日は何で呼んでくれたの? 久しぶりのマジックショーやるの?」
「いや……実はちょっとヒナノに相談したいことがあってさ。まぁ別にマジックやりながらでも俺はいいけど……」
そう言うと、ヒナノは強く否定して。
「それはダメだよ! シュン君のお話はしっかりと聞きたいもん!」
「あっ、そ、そう? そんな重い話じゃないから、別にいいんだけどね?」
でも俺を思ってそう言ってくれるのは分かるし……普通に嬉しいな。
「それでシュン君の相談事って何かな?」
「いや、実は俺さ。精神というかメンタルがすっごく弱いって感じてて……だから強くなりたいなって思ったんだ」
「別に私はそのままでも良いと思うけどなぁ。でもシュン君が強くなりたいのなら、私もちゃんと考えるよ!」
「ありがとう。それで何か案はあるかな」
「強い心……つまり動じない心を作る為には、特訓すればいいんだよ!」
「つまり?」
「ホラー映画を見ればいいんじゃない?」
……何か俺が思っていた案のベクトルが違うんだけどな。まぁそれはいいんだけど……別の問題が。
「ヒナノ。実は俺……ホラーだけは本当に無理なんだ」
そしたらヒナノは意外そうな顔をする。
「えっ? そうなの? あんなに凄いお化け屋敷作ってたのに?」
「あれは制作側だったから……」
自分がお化け屋敷に入るとなったら、それは本当に無理だ。
「じゃあ絶叫マシンは?」
「んー別に得意じゃないけど……ホラーよりは幾分マシかもしれない……」
そしたらヒナノは食い気味に。
「なら決定! 今度の休み、一緒に乗りに行こうね! 約束だよ?」
「えっ? 乗るって……?」
「だから! ジェットコースターだよ! 一緒に乗って特訓するの!」
別に俺の特訓目的なら、ヒナノ着いて来る必要ないんじゃ……と思ったけど。まさか。そのまさか。
もしかしてだけど。もしかしてだけど。
これって……遊園地デートのお誘いってことなんじゃないの!?
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