第4章 ドキドキの秋編
第60話 華奢な身体
──最近、ラブコメ物の漫画本を読むようになった。
別にこれといったきっかけはなくて、何となくで読み始めたんだけど……思っていたよりも、楽しむことが出来た。
「人の恋愛模様を金払って見て何が面白いんだ?」 とスカしていた頃よりはだいぶ成長したと思う。
ただ……それでもやっぱり気になってしまう部分は幾つかあった。ちょっと語らせてくれないか。
まずひとつは……登場するヒロインが多すぎることだ。
いきなりラブコメ自体を思いっきり否定している気しかしないけど……それでも俺は言うよ、ヒロインが多すぎるんだとね。
主人公の周りには個性的な魅力を持ったヒロインが集まって来て、好意を向けられる。
もうそこには突っ込まない。それはラブコメの中では普遍的なことなんだから。ここに噛み付くのは、野暮中の野暮だろう。
ただ……基本的に主人公と結ばれるのは1人だけだ。
他ヒロインは納得しようと、他の相手と結ばれようと……負けヒロインであることには変わりないのだ。
これが辛い。見てられない。
多分他の読者は、誰が主人公とくっ付くんだ……と予想したりしながら読むのが、面白いと思っているんだろうけど。
俺はそうは思わない。何なら誰が主人公とくっ付くかを1番最初から教えて欲しいよ。そしたら安心? して読めるから。
それかヒロインを1人にしてくれ。主人公の愛情を1人だけに向けていてくれ。頼むから。
そして次に物申したいことが。主人公とヒロインが付き合った瞬間に、時間が思いっきり飛んで……次のページをめくると、いい感じのエピローグで終了してしまうことだ。
ちょっと言わせてくれ。
どうして……そこで終わるんだよ!? やっと結ばれて幸せが訪れたんだから、その後をしっかり描いてくれよッ……!? 俺はそこが1番読みたいんだからよぉ……!
それとも読者は誰と結ばれたかを知ったら、もう飽きちゃって読むのを止めてしまうのか?
そんなのって……あんまりじゃないかッ……!!
「……はぁ」
えっと……何の話だっけ。
そうそう。俺はあの花火大会の日にヒナノに告白して、無事に成功したから……おめでたいことに、付き合うようになったんだ。
もしこれがラブコメ作品だったら、次のページにはもう俺達の結婚式のシーンでも開かれているんだろうけど……俺はこの世界にしっかりと生きているので、そんなことは起こらないし、起こり得ない。
そんなワケで……二学期が始まるよ。
──
始業式。
体育館のステージ上にいる校長のスーパーありがてぇお話を、俺は右から左へと聞き流しながら、じっと突っ立っていた。
こういう式の並びは、決まって出席番号順だ。だから俺は先頭なので、下手に動いたりすると目立って怒られてしまうんだ。
はぁ、たまには20番くらいの番号を経験してみてぇなぁ……そんなことを思いながら、俺は隣にゆらゆら揺れて立っているヒナノを見てみる。
「……」
ああ。ヒナノもこんなことを思ったりしてんのかな。それとも昼ごはんのことでも考えてんのかな。
それとも俺のこと……なーんて。あはは。あははっ。うへへへっ。
「そこのお前! フラフラしない!」
「……」
無駄にやる気だけしかない新任体育教師が、俺を指差して言ってくる。
マジうっせぇ……ホンマぶち転がすぞ。
「……」
しかし……暑いな。9月になったとは言え、まだ気温は下がる気配もないし。
それに俺以外にも叱られている奴がいるみたいだ。こんな暑さじゃ、フラフラするのも無理もねぇよ。
つーか体育館にもクーラー付けてくれよ。こっちは施設費も払ってんだぞ。こっちは未来を担う子供達なんだぞ!? (厄介生徒)
なーんて……って。おい。おいおい!!
俺は隣に立っていたヒナノが、バランスを崩したように倒れそうになっているのが、丁度目に入った。
──このままだと床にぶつかる。そう直感した俺は、急いでヒナノの身体を受け止めるように、両手を差し出した。
「……ッ!!」
間に合えっ!!!
……間一髪。俺の差し出した手は間に合い、華奢なヒナノの身体を包み込んだ。
「……お、おぉー」
感心したような声と、ざわめきが周囲から聞こえてくる……いや、そういうの要らねぇから!!
とにかく……ヒナノは貧血か、倒れてしまったみたいだ。だから早く保健室に連れて行かないと!
俺の必死のアイコンタクトで、端っこに立っていた保健の先生が気付いて、近くまで駆け寄ってきた。
「せっ、先生! 早く保健室に!」
「とりあえず安静にさせて……担架を持ってこさせましょう!」
担架? そんなの……待っている暇なんてねぇんだ!
俺は一刻も早く、ヒナノをふかふかのベッドに寝かせてやらねぇと……駄目なんだよ!! 俺のっ!! 彼女なんだから!!!
「……先生。大丈夫ですよ」
「えっ?」
俺は……ヒナノの身体を持ち上げた。まぁ……ラブコメ作品っぽく言うのなら。
さっきよりも、明らかに周囲はざわめいている。だけど……そんな恥をかくよりも。俺はヒナノを安全な場所に連れて行く方が、何倍も大事だったんだ。
「これで行けますから!! 早く!! 保健室に向かいましょう!!」
「わっ、分かったわ!」
俺はヒナノを抱えたまま、保健室の方へと向かって行ったのだった……
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