第47話 えぇー!?

 そして迎えた大会当日。


 俺は朝早くに目覚め、顔を洗う、歯を磨く、着替える等の朝のルーティンをこなす。そしてそれらを全て終わらせた俺は急いで外に出た。


 どうして急いでいるのかと言うと、ここから陸上競技場までかなり距離があるからだ。


 だから9時に間に合うようにするのなら、7時前には出る必要がある……ああ。田舎ってマジで不便だな。


 何とか俺はバスに乗り込み、乗り継ぎ……揺られ揺られ……何とか陸上競技場まで辿り着くことが出来たんだ。


 そこで目にした建物に……俺は驚いた。こんなデカい建物がこの世にあったのか……という馬鹿みたいな感想しか出てこなかったけど。


 そして客席……というかスタンドというか。そこに入って高円寺を探した。一体あいつはどこに……?


 ……少しだけ探したけど、これじゃ無理だ。全部調べるには広すぎる。それなら……電話してみるか。


 俺はらいーんを開いて、慣れない手つきで電話をかけてみた……そしたら高円寺はスグに出てくれて。


「おいっーす。あいのーん、来た?」


「来たぞ……お前は来てるのか? どこにいるんだ?」


「えっ? 前だよ前! 1番前! 最前列だよ!」


「おいおい……俺らがそんなトコに座っていいのかよ?」


「いいの! マジ高の陸上部の子達もいるから!」


「はぁ……分かったよ」


 俺は電話を繋げたまま、前の方にやって来た。ええっと……どこだ……?


「あっ、おーい! あいのーん!」


「ん?」


 電話からじゃなくて、マジの高円寺の声がした。俺はそっちの方を振り向いてみた……そしたら。


「……うげぇ」


「こっちこっちー!」


 マジ高の陸上部であろうメンバーが集まっている場所の真ん中で、囲まれるように高円寺が座っていた。


 そして俺を見た陸上部メンバーは「いぇーい!」「フゥー!」とメガホンをバンバン叩いて歓迎してくれている……ように見えた……うん。見えただけだ。


 運動部特有のこういうノリは……俺は本当にキツいんだ。1人で見ていいかな? 駄目? なら帰っていい?


「はやく来てよー!」


「……」


 俺はめちゃくちゃ嫌な顔をして、高円寺の方に向かった。陸上部の皆さんの前を通るのも何か申し訳ないし……というかマジで何でここに座ってんだよ。迷惑だろ!?


「高円寺……これはなに?」


「見れば分かるでしょ、マジ高陸上部の皆さんです! 『友達の応援に来た』って言ったら、快く歓迎してくれました!」


 そしてまたメガホンバンバンが。もう止めて? そのノリを過剰摂取すると、俺らは陰キャは死んでしまうんだ。


「……そうか。誰か知り合いでもいたの?」


「いや? さっき知り合ったばかりだけど?」


「…………そうか」


 それで高円寺のお化けコミュ力よ。何でこんなスグに仲良くなれんのよ。怖いよ。


「ほら、あいのーんも隣座って!」


「……ああ」


 ここで断る勇気もないし、逃げる勇気もない。大人しく……言われるがままに俺は座った。


「……」


 まぁ……落ち着くわけがないんだよな。


「高円寺……ヒナノはいつ出るか知っているのか?」


「分かんない!」


「えぇ……それじゃあプログラム表でもあるのかな。買いに行かなくちゃ……」


「あっ、待って待ってあいのーん。こういう時は借りればいいんだよ」


「えっ?」


 そしたら高円寺は隣の女子陸上部員に。


「ねぇねぇそこのかわい子ちゃん! プログラム表貸してくれない?」


 と声をかけてプログラム表を要求した……何でそんなチャラ男みたいなこと出来んの? メンタルどうなってんの?


「ふふふ、あなた面白いねー!」


 そしてその部員は、高円寺にプログラム表を渡すのだった……いやー。やっぱり世の中って、コミュ力が強いヤツが勝つんだな。


 何となくそう思ったよ。


 そして高円寺はプログラム表を開き……俺もそれを見せてもらった。


「ええっと……どこどこ? ヒナヒナどこどこ?」


「静かに探してくれ……」


 ……しかし。俺も高円寺も中々ヒナノの名前を見つけられずにいた。おかしいな……?


「高円寺。もしかして違うページなんじゃないか?」


「えっ? まぁ……探してみようか?」


 言った高円寺はページを前に戻して、午前中に行われる方の種目を眺めていった。


 えっとヒナノ……ヒナノ……


「あっ、見つけた!」


「えっ、どこどこ?」


「ここ!」


 俺は見つけた『雨宮陽菜乃』の文字を押さえて、それを上へ上へとスライドしていくと……驚きの種目が現れた。


「ええっ!? 100メートル走!?」


「えっ嘘っ!? ヒナヒナ短距離走出るの!?」


 驚きつつも俺らはその開始時刻を確認する……って。これ。


「ええっ!? 1番最初にやるの!?」


「ええーっ!!? だってヒナヒナお昼過ぎからあるって……ええっ!?」


「いや、間違ってる可能性も……いや。やっぱり合ってる……!?」


「えっ……えぇー!?」


 多分……今の俺達は、耳を塞ぎたくなるくらい、周りに迷惑をかけていたと思う。でも……叫ばずにはいられなかったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る