第40話 アイツらの力を借りよう
もう少しで夏休みに入る。だけどその前に……大事なイベントが残っていることに、俺は気が付いたのだ。
俺はメッセージ交換アプリ、ライーンを開く。そこで俺が見つけたのは……『誕生日の近い友達』という欄だ。そこを開くと……ヒナノのアイコンが!!
どうやらヒナノの誕生日は7月14日らしい。
現代はこうやってこっそりと誕生日を知れるからいいな……いや、直接聞くのが1番なんだけど。
最近はヒナノに驚かされっぱなしだったからさ、今回くらいは俺がビックリさせてやりたいなって。
それでまぁ考えるのは……サプライズ誕生日プレゼントだよな。それが驚くし、なにより嬉しいと思うだろう。
ただここで問題になってくるのは……プレゼントを何にするかということだろう。
ヒナノと仲良くなってから、そこそこ時間は経ったが……好きな物とか良く知らないし。それにサプライズだから聞くわけにもいかないからな。
うーん……ダメだ。1人じゃ何も思い付かない。こうなったら……アイツらの力を借りよう。
そう決めた俺は昼休みが来るのを待ったのだった。
──
昼休み。
「よっ、あいのーん。そっちから誘ってくるなんて珍しいね。もしかして乗り換える気?」
「……どういう意味だお前」
とりあえず高円寺を廊下に呼び出してみたが……もう失敗だったかもしれん。帰ってもらおうかな。
「ウソウソ。あいのーんがヒナヒナにぞっこんなのは、ちゃんと分かってるからさ」
「……」
そしてやっぱり……俺がヒナノのことが好きということを知っているらしい。何でだよ。一応誰にも言ってないんだよ?
「……高円寺。相談があるんだが」
「あっ、もしかしてヒナヒナの誕生日のこと?」
「……ああ」
それにここまでお見通しされてるとはな……それなら話は早いや。
「何を渡したらいいかなって思ってさ……それで高円寺に聞いてみたんだ」
「そっかそっかー。あいのーんはあいのーんなりに、結構悩んでいるんだね」
「……」
なりにって何だよ。
そして高円寺はあっけらかんと言う。
「別にそこまで悩まなくていいんだよ。喜びそうな物をあげればいいんだからさ」
「喜びそうな物って……それじゃあ高円寺は何か渡すつもりなのか?」
気になったので聞いてみた。そしたら高円寺はコテっと首を傾げて。
「ウチ? ウチは……何かお菓子とか。美味しい食べ物をヒナヒナにあげようかなーって考えてるけど」
「お菓子?」
「うん。女の子って甘いもの大好きなんだよ?」
「ん? それは……人によるだろ。だいたい、男だって甘いものは好きな人はいてだな……」
そこまで言うと高円寺は嫌そうな顔をして、俺の顔の前に手を出てきた。これ以上喋るな、とでも言いたいのか。
「あーあ……別にブサイクでもないあいのーんが、全くモテない理由が分かったよ」
「えぇ……何でだ?」
俺は事実を述べただけなんだが……?
「まぁ……とにかく。あいのーんはヒナヒナのこと好きなんでしょ? それならそれに相応する物をあげるべきだよ」
「相応する物? それって……」
「流石にそれは自分で考えてよ。ウチの言った通りの買って、喜んで貰えなかったーだなんて言われても困るもん」
「絶対にそんなこと言わないけどな……」
そして高円寺は手を振って、俺から去って行く。
「じゃ、ウチはもう早退するから。頑張ってね?」
「あっ、ああ……」
こんな健康的な早退、初めて見た。
──
まだ昼休みの時間はあるから、他の人にも話を聞いてみよう。そう考えた俺は教室に戻って来た。そしたら……
「あっ」
自分の席でラノベを読んでいる、草刈の姿を発見した。これは絶対暇だよな……よし。
俺は前から声をかけた。
「草刈君」
「おっ、藍野氏。何用でござるか?」
「少し相談事があるんだけど……ちょっと聞いてくれないかな」
「ん、我で良いのなら歓迎しますぞ?」
と言った草刈は、アニメキャラが描かれた栞を挟んでラノベを閉じた。
「ありがとう。実は……」
ここで俺は言葉が止まった。プレゼントを贈る相手を……つまりヒナノに渡すということを、草刈に言った方がいいのだろうか。
……いや、やめとくか。ここまで言うと草刈にバレて、色々と面倒なことになりそうだからな。
「藍野氏?」
「あっ、ごめん。実はさ俺、とある人に誕生日プレゼントを贈ろうと思ってて。でも何を渡せばいいか分かんなくて」
「ああ、それで我に相談をしたのでござるか……というかその方ってもしかして。前に言っていた、藍野氏の想い人のことでござるか?」
「え? えっと……そうだよ」
そう答えると、露骨にテンションを上げた草刈は。
「ほほーう。それで距離を思いっきり近付けようとする作戦でござるな?」
そう言いながらメガネをクイクイさせた。
いや……別にそんなやましい気持ちでプレゼントをあげる訳じゃないんだけど……ただ。俺はヒナノに日頃の感謝を伝えたいだけなんだよな。
まぁ……驚かしたいってのも少しあるけど。
「いや、作戦とかそんなんじゃなくてね……とってもお世話になっている……というか。生きがいになってる人だからさ。こんな日くらいしかチャンスがないから、お礼がしたいんだ」
「生きがいとは……中々でござるな」
自分でもそう思うよ。
「それで何がいいかな?」
「そうでござるなぁ……ケーキはどうでござるか?」
「ケーキ?」
意外な答えに俺は少し驚く……そういや高円寺も、女の子は甘いものが好きな言ってたよな。
やっぱり食べ物が正解なのか?
「えっと……一応、その理由を聞いていい?」
「そうですな。我のやっている、とあるソシャゲがあるのですが」
「ん?」
「その女の子達の好感度を上げるには……一緒に冒険するよりも……ミックスケーキをバカ食いする方が、圧倒的に効率が良いのでござるよ!」
「……」
……あっ。忘れてた。そういや草刈はこういう奴だったわ。とても良い奴なんだけど……リアルとゲームを混同させてしまう癖がある奴なんだ。
「ええっと……草刈君。一応言うよ?」
「はぁ」
「ゲームと現実は……全く違うんだよッ……!」
──
まだ時間が余っているので……最後に。あの人にも聞いておこう。
俺は教室で勉強をしている委員長に声をかけた。
「委員長、今日も勉強してるんだね」
「藍野か。テストが終わったからといって気を抜いていると、また大変な目に合うぞ」
「はは。高円寺に聞かせてやりたいね」
俺は学んだ。委員長には勉強デッキが有効だということを。まぁ使い過ぎると、委員長と地獄の勉強会ルートが開きそうな気しかしないので、多用はしないが。
「それで委員長。少し相談したいことがあるんだけど……いいかな?」
「ああ。別に構わないぞ。藍野は文化祭の時、私の相談に乗ってくれたからな」
「そんなこともあったね」
もう随分と前の出来事のように思うなぁ……そういや、あの時初めて委員長と話したんだっけ。
「それで。相談とは何だ?」
委員長は勉強の手を止めて、こっちを向く。
「うん、実はね。とある人に誕生日プレゼントを贈ろうと思っているんだけど……何を渡せばいいかなって」
「何だ。そんなのは簡単じゃないか」
「えっ?」
委員長の自信満々の声に驚いてしまう。まさか誕生日プレゼントの正解を知っていると言うのか……!?
俺は期待して委員長の答えを待った……そしたら。
「図書カードだ。図書カードならどんな本にも変えられる……素晴らしい物じゃないか? これを欲しがらない人などいないだろうな」
「あっ……うん。そうだね……」
そう来たか。
確かに図書カードは素晴らしい物だ。俺だって貰ったらとても喜ぶだろう。しかし……何か。何か味気なくないか?
それって親戚のおばちゃんがくれるヤツじゃん? それだと俺じゃなくてもいいんだよな……
「図書カードはな、凄いんだ。参考書だって買えるし小説だって買える……」
しかし委員長は図書カードの素晴らしさを熱弁している……いや分かるって。図書カードをどうやって使うかくらいは知ってるって。
「……」
言えたらいいのになぁ……
「……そう言う訳だ。図書カードはいいぞ」
「あっ、そうですね……とっても参考になりました」
「ふふふ、そうだろう……それじゃあな。頑張れよ」
「あっ、ありがとう……」
応援してくれたのは嬉しいけど……ただ、手に入ったのは、委員長は図書カードを愛してやまない、ということだけだった……
委員長の誕生日には図書カード贈りますね……
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