第35話 藍野、キレた!

 それを聞いて俺は呆れ返る。


「おいおい高円寺……この中でトップを取れるとでも思っているのかよ?」


「あははっ、そんなまさかー。ただ、勉強が楽しくなるかなーって思っただけで!」


「……」


 いや……勉強ってのは普通、褒美とかを全く期待しないでやるものだからな……誰かコイツを止めてくれよ。


 そう思って、隣にいた委員長を見ると。


「ん? 私は別に構わないが」


「えっ?」


「少なくともお前達には、負ける気はしないからな」


 委員長は自信たっぷりにそう言った。


 まぁ……そうだよな。教えてもらって完全に分かったことだが、委員長はこの中で1番……それも特出して頭が良い。だから委員長にしてみれば、この勝負は受けるだけ得なのだ。


 じゃあそれならと草刈を見てみると。


「むむっ、高円寺氏。お願いごととは……一体どのレベルまで良いのでござるか?」


 めっちゃ乗り気だった。おいこの暴走機関車を誰か止めてくれよ。


「えっとー、常識の範囲内なら何でもいいよ!」


「本当でござるか!?」


 何だ常識内の何でもいいって。常識って人によってかなり違うからね!?


 こうなったら……最後の頼み、ヒナノに止めてもらおう。ヒナノの言うことなら、高円寺も聞かざるを得ない……!!


 チラッとヒナノの方を見ると……少しだけ顔を赤くしたヒナノは、顔に手を当てて。ボーッとしていた。


 えっ、どうした!? 風邪でも引いたのか!?


「なぁヒナノ、大丈夫か?」


 そしたらヒナノは我に返ったのか、目をぱちくりさせ……ブンブンと手と首を横に振った。


「え、えっと! だっ、大丈夫! 私は大丈夫だから!」


「本当か? 無理はするなよ?」


「うん……シュン君、ありがと」


「あっ、ああ……」


 うーん……ヒナノはそう言っているけど、調子が悪そうなのは確かだ。そっとしておいた方が良いだろう……


 ……とか何とか思ってたら。そんなのお構い無しに、高円寺はヒナノにも話しかけるのだった。


「ねぇ、ヒナヒナはどう思う?」


「えっ、えっと……私はいいと、思うよ?」


 ────聞いて俺は目ん玉が飛び出る。


「えっ、ヒナノ!? こんなの、委員長なんかに勝ち目ないからさ、絶対やめた方が……!」


 そこまで言った所で、高円寺のヤローの邪魔が入ってしまった。


「ふふーん。これであいのーん以外は全員参加するみたいだけど……あいのーんはどうするの? 別にやめても……良いんだけどね?」


「……お前なぁ」


「それとも……ウチに負けるのが怖いのかな?」


「……ああん!?」


 舐めやがって。ここまで……高円寺なんかに煽られて。これ以上黙ってられるかよっ!!


 藍野、キレた!


「俺もやってやるよ! 必死に勉強して……お前らを負かせてやらぁ!」


「おー。言うねー。じゃ、あいのーんも参加で」


 ……この時は勢いで言っただけで、「委員長に勝てる訳ない」と気が付いた瞬間にすぐに冷めると……この時の俺はそう信じて疑わなかったのだ。


 ──


 次の日の勉強会。早速ルール変更を訴える、不届き者が1名現れた。もちろんそいつの名前は……高円寺だ。


「ねぇみんな! 全教科の合計点で争うのはやっぱりやめない!? ルールを変えようよ!!」


 ……俺は思いっきり聞こえるくらいのため息を吐きながら、高円寺に向かって言う。


「もうルール変更かよ。つーかお前もちゃっかり勝利狙ってんじゃねぇか」


「やるなら勝ちたいもん!!」


「はぁ……」


 どんなルールにした所で、草刈や委員長に勝てる訳ないと思うんだがな……そしたら草刈が。


「まぁまぁ藍野氏。ひとまず、どんなルールにするかを聞いてみるでござるよ」


「どうせ1番低い点数が勝ちとか言い出すぞ、コイツ」


 それを聞いた高円寺は机をバンバン叩く。何? 俺、物に当たる人嫌いなんだけど……


「もーあいのーん! ウチがそんな邪悪なルールにする訳ないじゃん!」


「はぁ……じゃあ何だよ?」


「1教科だけの勝負にするの! そしてその教科は……『現代文』! 」


 えぇ……? 何で俺の苦手な文系を。


「高円寺。どうして現文なんだ?」


 委員長が疑問に思ったのか、そうやって高円寺に聞いた。そしたら高円寺の回答が……


「それはね! 運要素が強いから!」


 ……やっぱり馬鹿だ。そりゃ他の科目に比べたら、多少の運要素は出てくるだろうが……それでも学力は覆せないだろ!


 とか思ってると。


「いいと思うよ心美ちゃん! 私も賛成するよ!」


「えぇっ!?」


 まさかのヒナノが高円寺に賛同していた。嘘だろ……? まさかヒナノまで同じ考えなのか……!? やめてくれよ……!!


 そして草刈を見ると……


「我も賛成ですぞ。文系は得意でごさるからな!」


 委員長……


「まぁ別に私も構わない。現文だろうと、お前達に負ける気はしないからな」


 えぇ……何? 何このデジャブは。さっき見たよ?


「ふふーん。残りはあいのーん1人だけど……」


「……やりゃいいんだろ」


「よし、決定ー! これでウチにもワンチャンあるよねっ!」


「……」


 ……少なくとも、高円寺には絶対に勝とう。そう心に誓った俺だった。

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