第33話 梅雨の時期に天気デッキは使うな

「二宮氏って……もしかして委員長のことかな?」


「左様でござる! 彼女はとても勉強が出来ると有名なのでござるよ!」


「そうなんだー。知らなかったよ!」


 なるほど……確かに委員長は頭が良い筈。それは俺も薄々感じていた。だから彼女を勉強会に引き込めたら、この会は非常に意味を持った物に変わるだろう。


 ただ……問題が1つあるんだよな。


 俺はみんなに向かってこう問いかけた。


「でもそれって……誰が誘うんだ?」


「んーと……あいのーん」


「何でだよ! 普通、委員長と同性のお前だろ!」


「だって私、委員長とあんまり話したことないんもん。緊張するよ!」


「嘘っ、お前にそんな感情があったの!?」


 まさか高円寺の口から緊張なんて単語が出てくるとは……ここ最近の1番の驚きなんですけど。


 それで……俺と高円寺のくだらない争いを繰り広げていたらヒナノが。


「えっと……そしたらさ、みんなでお願いしに行くのはどうかな?」


 と、俺と高円寺の両方を見ながら優しく言った。そしたらまぁ当然の如く……とろけた顔に変わった俺達は。


「うんうん、絶対それがいいよね!」


「ああ。ヒナノの考えは最高だ」


 と完全に納得するのだった。


「おお……雨宮氏の力は絶大ですな……! まるでどこかの国のお姫様みたいでござる……!」


 ボソッと言った草刈の言葉は、かなり的を得ていたように思えた。


 ──


 次の日の放課後。草刈の出した合図で俺達は、帰りの用意をしている委員長を取り囲むのだった。


「今ですぞ! フォーメーション、カテナチオ!」


「おう!」


「必殺タクティクスだね!」


「わざわざこれをやる必要あるのかなぁ……?」


 そして上手く委員長の周囲を取り囲んで……動けない状態を作り上げることに成功した。


「……何だ?」


 委員長は特別怒っている様子はないが、明らかに俺達を不審に思っているようだ。


 だからここは……本題に入る前に警戒心を解くべきだろう。ここで俺の使う会話デッキは……


「委員長! 今日もいい天気ですね!」 


 天気デッキだ。長らくtear1に君臨する……誰に対しても通用し、誰でも簡単に回すことが出来る最高のデッキだ。これなら委員長も心を開いてくれる筈……


「藍野……よく外を見ろ。今日は雨だ。何ならまだ梅雨は開けていないんだが」


「えっ……?」


 言われて外を見ると、普通に雨がザーザー降っていた。嘘だろ……こんな簡単なデッキすらプレイミスするなんて……!? ここまで会話が下手なのか俺は……!


 クソっ……それならもう。当たって砕けろだ!!


「えっと……委員長! 俺達と勉強会やりませんか!?」


「……勉強会? 普通、勉強は1人でやるものだぞ」


 確かにそうかもしれないけど、それは出来る人の話だろう……!? 俺達は……違うんだよ!!


 それで俺だけじゃ失敗してしまうと判断したのか、ヒナノも説得の手伝いをしてくれた。


「聞いてよ委員長……私たちだけじゃ全く分からなくて、全然進まないんだよ!」


「雨宮……? お前達知り合いだったのか?」


 委員長はどうでもいいことに驚いているらしい……いや、そんなのはいいから。


 そして高円寺も手を貸す。


「ちょっと委員長! アナタ賢いのなら……ウチらに手を貸してよ! クラスの平均点が上がるよ!」


「えっと……済まない。お前誰だ?」


「ヒドイ!」


 そりゃ不登校児の名前は分からんよな。 そして最後に、後ろに立っていた草刈も手伝ってくれた。


「まぁまぁ二宮氏。彼らはかなり困っているみたいでござる。少しくらい手伝ってあげたらどうでござるか?」


「草刈まで……お前達、そんなに私が必要なのか?」


「……」


 ……絶対ここ大事だ。ここをどう答えるかで、手伝ってくれるかどうかが決まる……


「うん! 正確には委員長の頭……」


「おい馬鹿!」


 俺は反射的に高円寺の口を抑える。どっ、どうだ! これは間に合ったか……!?


「……普通に聞こえたが」


「……」


「……」


 あっ……終わった。完全に終わった、何なら絶対に嫌われた……と思ってたのだが。委員長は腕を組み……こう言った。


「……まぁいい。そこまで言うのなら、手伝ってやろう。その勉強会というヤツをな」


 何故か委員長は承諾してくれたらしい。気が変わらない内に、俺は深くお辞儀をしながら感謝をした。


「あっ、ありがとう委員長! とっても助かるよ!」


「別にそんな頭を下げるな。そこまでされるようなことは言ってないから」


「…………ねぇねぇ、何かこの人偉そうじゃない?」


「高円寺!!!」


「ひっ、ひぇっー!」

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