第22話 俺とヒナノを繋ぐ物

 ──その後のことはあまり記憶にない。確か生徒指導室とか言う……学校生活をマトモに過ごしていたら絶対に入らないであろう場所へ連れて行かれたのは覚えているけど。


 それで座っていると……担任と、偉そうなハゲた人がやって来て。そして何か知らんけど親も来て。怒られて。親ギャンギャン泣いて。


 それでも……俺は何処か他人事みたいな感じで、ずっと話を聞いていたんだ。


 多分……起こった出来事が、自分がやったことだと思えなかったんだと思う。


 もちろん、椅子を投げたり殴ったりしたのは覚えているけど……それでもやっぱりあの時自分は、自分でないような気でしかいられなかったんだ。


 それで結局……俺は『2週間停学』を言い渡された。


 停学など今まで経験したことが無いので、これが短いのか長いのかよく分からない。まぁ……退学にならないだけ良かった、と思った方がいいのかな。


 しかし……気になることが1つ。俺の停学中に『文化祭』が開催されるということだ。


 停学だから当然、参加するのは許されないのだ。


 どうせお化け屋敷は壊されて出来ないだろうし。それにきっと俺が台無しにしたと思っている。だから行けないのは逆に良かった……と心に言い聞かせても……やっぱりヒナノのことを考えてしまう。


 ヒナノ……あいつお化け役を買って出たよな。お化け屋敷がもし出来たのなら、ちゃんと出来たんだろうか。


 仕事が終わったら……もしかしたら文化祭でこっそり一緒に行動出来たりしたんじゃないかって。


 まぁ……そんなたらればの話をしたって仕方ないんだけどね。


 ──


 次の日から俺は外に出なくなった。学校に行けないのなら、外に出る理由がないからな。


「……はぁ」


 しかし……暇だな。家じゃ勉強する気にもなれないし……こんなに退屈だと、気分が暗くなって、余計なことばかり考えてしまう。


 ……まさかそれが停学の狙いなのか?


「なら……遊ぶか」


 教師共の思い通りになってたまるか、と俺はベッドから立ち上がり、部屋にあるゲーム機の電源ボタンを押した……瞬間。


 机に置いていたスマホが震え出した。


「……何だ?」


 俺のスマホは基本通知をオフにしている。だからコレが振動する時は、ライーンのメッセージが来る時位なんだ…………え。まさか。


 俺は急いでスマホを手に取り、確認する。差出人は……ヒナノ。雨宮陽菜乃だった。


 そういや確か連絡先交換していたんだっけ。でも何だかんだ屋上で話すから、今まで1度もスマホ上ではやり取りしたことなかったんだよな。


 そんなヒナノからの初めてのメッセージが……俺の停学中に来るとはな。こんな状況じゃなけりゃ絶対喜んだだろうに。


 俺を心配……してくれてんのかな。それとも罵倒でもされんのかな。


 少し怖くなりながらも、俺はメッセージを開いた。


「……」


 見るとそこには『大丈夫?』と一言。


 俺はしばらくメッセージと向き合ったが…………返事を入力することが出来なかった。ヒナノに返す言葉が見つからなかったのだ。


 こんな馬鹿で滅茶苦茶なことをしてしまった俺に対して、優しい言葉をかけてくれるのが……逆にとても辛かったのだ。


「……ごめんな。ヒナノ」


 俺はスマホの電源を切り、投げ捨て……ゲームのコントローラーを手に取った。


 ──


 それから毎日のようにヒナノからメッセージが届いた。内容は「元気?」だの「暇だよー」だの一言の他愛のないものだった。


 もちろん嬉しかった。元気だって出た。けれど……俺は1つも返事をしなかった。


 いや……出来なかったって言った方が良いかもしれない。そんな生き埋めにされるような……走れない夢の中のような……どうしようもない日々が続いた。


 ──


 そして迎えてしまった文化祭当日。今日もヒナノからメッセージが届いていた。


「……ん?」


 しかし今日は文章ではなく、1枚の画像だった。詳細が気になってしまった俺は、急いでアプリを開く……そこに表示されたのは。


「……!」


 トランプの『ハートのエース』だった。


 ……何だ? まさか……ヒナノは。屋上に来いとでも言いたいのか?


 ヒナノはまだ俺が停学中だってことは分かっている筈。それなのにこれを送って来たのだ……何か会って伝えたいことでもあるのか?


 でも俺は停学中だ。バレたら最悪退学だって有り得る。こんな危険なことはしない方がいいってことは、充分に理解している。


 それでも……ヒナノは俺を呼んでいる。今も待っているかもしれないんだ。


 ここで俺が行かなかったら……一生後悔することになるかもしれない。そんなのは……絶対に嫌だ。


「…………行こう」


 そう決意した俺は、久しぶりにパジャマ以外の洋服に着替え……家の外へと飛び出した。

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