第21話 何やってんだろ。俺。

 俺は近くに置いてあった椅子を、ヤツら目掛けて投げ飛ばした。無論手加減などは考えていない。完全に相手を怪我させる……いや、完全に殺す勢いだった。


「うおっ!?」


「うわっ!?」


 ヤツらは間一髪、俺の椅子を避けた……しかし俺のこの行動は予想はしていなかったのだろう。酷く焦り、動揺しているみたいだった。


 ……そんなの、知ったことではないが。


 俺はもう一度、椅子を手に取り……両手で椅子をブン投げた。


「だりゃァっっっ!!!」


 しかし……また俺の椅子は狙いが外れ、今度はヤツらの背後にあった窓ガラスに命中した。


「おいおいマジかよ!!」


「ヤベェってコイツ!!」


 当然、音を立てて窓ガラスは割れた……クソ。今になって、自分の運動能力の低さを恨むことになるとはな。


「おっ、おい馬鹿!!こんなことしてタダで済むと思ってんのか!? お前退学だぞ!?」


「……」


 カスAが言う。何だ。今更俺の心配をしてくれてんのか。それともただの命乞いか……まぁどっちにしたって。


 ────攻撃の手は止めるつもりはないけど。


「……」


「チッ……クソが!!」


「舐めんな、陰キャがッ!!」


 流石にヤバいと思ったのか、2人も椅子を持って応戦してくる。


 ……2対1は分が悪い。正直マトモにやり合っても、勝ち目は薄い。そんなの分かっている。


 だからここは……1人狙いをする必要がある。リーダー格の片方を集中攻撃するんだ……カスA、お前だ。


 俺はヤツらが投げてくる椅子を、机を盾にして進んで行き、転がっていたスプレー缶を手に取った。


 よし、コレなら……いける!


「だあぁああっっっ!!!!」


 奇声で相手を一瞬だけ怯ませる……その隙に机の上を伝って、ヤツらに近付いて行った。


「なっ……!?」


 そしてジャンプしながら、ヤツの顔面に向かってスプレーを噴射する。


「うわあああっっ!!!!」


「……」


 視力を奪った所に……1発。2発。3発……何度も。ヤツのみぞおちに拳を打ち込んだ。


「ああっ……痛てぇ!! 痛てぇって!!」


「……」


 しかし……意外なことに。殴り続けても、悲痛な叫び声を聞いても特別スッキリとすることはなかった。むしろ殴る度に拳が痛んで、嫌な気分になったんだ。


「……やっ、やめろってっ…………!!」


「……」


 あぁ……そっか。コイツらを殴っても……別に道具が戻って来る訳じゃないんだ。







 なら俺は………………何をやっているんだ?


 子供が飽きたおもちゃを投げ出すように……俺はカスAの身体を横に投げ落とした。


「……はぁ」


「あっ……ああ……!!」


 ああ。そういやもう1匹居たな……


「うっ、うわああーっ!!!!」


 手を出す前に、逃げられてしまった。まぁいいや…………それで。これからどうしよう。


 改めて俺は……教室を眺めて見た。


 ぐしゃぐしゃに荒れた机と椅子。割れた窓ガラス。もう跡形も無い準備していた道具。そして倒れ込んだカスと……トランプの箱。


 もしかして俺は……とんでもないことをしてしまったんじゃないか。コイツらよりも、もっと最悪な……カスみたいな行為を。


 ……そしてそれから。大きな足音と共に。


「おいっ!! 何をやっているお前達!!」


 学年主任の体育教師が、教室に入って来た。窓ガラスの割れた音で気が付いたのか、カスBが呼んだのか……知ったことではないけど。


「……」


 そして俺は観念したかのように……両手を上げるのだった。

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