第20話 触るな……ッ!!
それから俺は1週間、2週間と毎日文化祭の手伝いを続けていった。
最初は指示を出すのにも一苦労で、上手く伝わらなかったり作業が進まなかったりもしたけど……それでも草刈や委員長……そして皆の力も沢山借りて、何とか諦めずに続けていったんだ。
そしたら自分でも驚く程、クオリティの高いお化け屋敷がどんどんと出来上がってきて。それを見る度に、一種の感動のようなものを覚えたんだ。
そして驚くべきことに……俺は作業が楽しいとも感じるようになったんだ。
もちろんヒナノが居るのも理由の1つだけど……分からない所や難しい所を、俺に聞きに来てくれる人もいて。
反対に俺が頼ることもあって……少しだけだけどみんなと打ち解けたから、作業が楽しくなったんだと思う。
とにかく……ここ数日は、とても充実した時間を過ごすことが出来たんだ。
──
そんなワケで、今日も俺は朝早くから学校に向かっていた。もちろん朝の時間でも制作を進める為である。
「……あー。流石に早過ぎたか?」
その独り言は、土砂降りの雨音にかき消された。何か雨の日って独り言多くなるよね……俺だけ?
「……ふぅ。到着」
そして校内に辿り着いた俺は、昇降口の傘立てに傘を入れ、上履きを履き……やけに濡れた階段をトントンと駆け上がった。
そして廊下を歩いている時に……1年5組の教室だけ、光が漏れているのに気が付いた。
「ん?」
……もう誰か来ているのか?
別に今日は誰にも相談していないし、朝に来いと指示を出した覚えもない。
なら……自主的に誰かが来たのか。まぁ来る分には何も問題はないし、むしろ感謝したいくらいだ。
誰が来たのかを早く確かめたくなった俺は、急ぎ足で教室の扉を開いた。
………………瞬間。絶句した。
「────ッ!!?」
丁寧に塗装したお化け屋敷内の背景は、趣味の悪いスプレーでぐちゃぐちゃに汚され。用意していたお化けの衣装は、切り裂かれたのかズタボロに破れていて。
草刈と一緒に作った生首も……俺の指示で作らせたおもちゃの剣も……宣伝用の持ち運べる看板も。
全て。諸共。破壊されていた。
「………………どうして?」
どうして…………また起こってしまうんだ。
あの時だってそうだ。やっと実力が認められて、マジックの世界で有名になり出した頃に、道具に細工されて……俺の未来をぶち壊されたんだ。
俺の全てが上手くいっている時に────決まって誰かが邪魔してくるんだ。
「だっ…………誰が。こんなことを…………?」
全身から力が抜けていくのが感じる。足が動かなくて……目の前の壊された道具類を、ただ呆然と見詰めるしか出来なかった。
「ははははっ! おい、ちゃんと撮れてるか?」
「バッチリだよ、坂下」
……犯人の正体はすぐに分かった。声の方を振り向くと。
「よぉ藍野……今どんな気持ちだ? 聞かせてくれよ?」
「最高の顔だね……もっと見せてよ!」
ヒナノをイジっていた、カス2匹が立っていた。その内の1匹はスマホを構えて、俺を撮影しているらしい。
それを見て……不思議とさっきより俺は結構落ち着くことが出来た。
道具をめちゃくちゃにした犯人が、準備を手伝っていた内の誰かじゃなくて……カスだったことが完全に判明したからだろう。
「……」
しかし……これは俺だけの問題ではない。これはクラスの皆が一生懸命に作った出し物だ。
こんなに道具を滅茶苦茶にされて……このまま黙っているつもりなど……毛頭ない。
「……どういうつもりだ。お前ら」
「ははっ、お前普通に喋れたんだ。ウケるね」
「質問に答えろ」
「別にー? ただ陰キャチー牛の藍野くんがー、生意気で気に食わなかっただけだよ?」
きっとコイツらは出し物を挙げている時、俺に注意されたのが相当気に食わなかったのだろう。
……別に俺を嫌おうがどうだっていい。何なら嫌いなヤツから嫌われるのなら、俺だって本望だ。
ただ……それが道具を壊していい理由になんかになる訳がねぇんだよ。
「……俺が気に入らないのなら、俺を殴ったりすればいいだろ。どうしてクラスの出し物に手を出した」
「それがお前に1番効くと思ったからなぁ!」
「……」
……どうやらカスはカスらしく、人を痛め付けるプロらしい。タチの悪いことに……それは正解だ。
正直……これがただの自分の作品だったら、ここまで俺は怒っていないと思う。
放課後まで残った皆が一生懸命作った作品を、こんなゴミ共に全てぶっ壊されたから……俺は許せないのだ。
……しかし。どうしてコイツらはこんなリスクのあることをやったんだ。こんなのをやった後にどうなるかなんて、カスでも予想くらい出来るだろ。
「てもお前ら……こんなことしてお前らタダで済むと思っているのか? 」
「うん。だって壊したのオレらじゃないし」
「壊したのはお前だよ、藍野!」
「…………は?」
余りに頭のおかしい言葉に、俺は酷く困惑する。
「だってお前を信用する奴なんかいねーだろ?」
「それにオレらはアリバイを作ってんだよ! 部活の朝練に参加していたというアリバイがなァ!」
まさか……コイツら。これらをぶっ壊した犯人を、俺に擦り付けようとしているのか。そしてアリバイ工作もきっちり行っていると……なんて小癪な。
「だからァ……この道具をぜーんぶ壊したのは、お前なんだよ藍野ォ!!」
「……」
流石の俺もキレそうになってきた。しかし……こんな見え見えの挑発に乗っては駄目だ。
きっと……俺を信じてくれる人が。ヒナノなら。草刈なら。委員長なら。俺を信じてくれる…………
「そんで藍野ォ、お前ってマジシャンなんだろ?」
「────ッ!?」
予想外の言葉に俺は思わず反応してしまう。何故だ……!? どうしてコイツらがそのことを……!?
「へへっ……ネットで調べると出てきたから、俺らビックリしたんだぜ?」
「ちゃんと見させてもらったよ? 藍野の輝かしい……過去の栄光をねぇ!」
「……」
全身が大きく震える。動悸が激しくなる。上手く息を吸えず、呼吸が苦しくなる。
ヤバい。駄目だ。落ち着け。落ち着け。俺。正気になれ。焦るな……焦るな……
「……で、机にもこんなの入れちゃってさ……お前、馬鹿なんじゃねぇの?」
言ってヤツはトランプのケースを見せた。
「────ハッ!!!!!」
あれはマジック用のトランプじゃない……ヒナノと場所を交換する為に俺が買った、大事な大事なトランプだ。
そんな大切な物が……今1番殺したいヤツの手に握られているのに気付いた俺は……本当に頭がおかしくなりそうだった。
怒りなんて感情……そんなもの、遥かに超えていたんだ。そして……何かが壊れた。
今まで理性によって抑えられていた憎悪とも呼べない何かが……完全に溢れ出してきたんだ。
「……………………わるな」
「あ?」
「それにッ……触るなァっ!!!!!!!」
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