第5話 これもマジックなの!?

 ──


 雨宮にマジックを見せて以降、俺に話しかけてくれることが多くなった。


 それは非常に嬉しいことではあるが、雨宮の求めているのは『俺』ではなく『俺のマジック』なのだろうけどな。まぁそれでも……


「おはよっ! 藍野くんっ!」


 それを分かっていても、雨宮の笑顔を見ると、こちらまで元気になってしまうなぁ。


「……おはよう」


「そうだ! 昨日の刑事ドラマ見た?」


「いや……見てない」


「えー! 神回だったのにー! 犯人が探偵の相方だったんだよー!?」


 しかし……俺とは違い、雨宮はこのクラスの超絶人気者だ。天と地くらい差がある組み合わせだから、傍から見れば相当違和感があるだろう。


 だから非常に目立つ……それに気づいた奴が近づいてくる……どうして仲良くなったかを聞いてくる……マジックの事がバレる……クラスのおもちゃになる……俺の人生が終わる。


 あぁ……ダメだ。どう足掻いても、最悪の連想ゲームの結果しか思い浮かばねぇ。


 だから今の俺がやるべきことは……!


「ん、またボーッとして、どしたの! 藍野君!」


「……あっ、雨宮。放課後時間あるか?」


「あるよ!」


「じゃあ……帰りのホームルーム後に屋上に来てくれないか?」


 そう。雨宮に『俺がマジシャンであること』を黙ってもらうようにお願いをすることだ。


「えっ、屋上?」


 雨宮は困惑した声を出す。


 まぁそうなるのも無理もない。なにせ屋上へと続く扉には鍵がかかっており、普通は入れないのだからな。


 しかし……俺はそれを突破する術を持っている。だからこそ俺は屋上を選んだんだ。


「ああ。そこで……待っててくれ」


 少しだけ雨宮は考えるような仕草をした後に。


「……うん、分かったよ藍野君!」


 元気よく頷いたのだった。


 ──


 放課後。


 雨宮が教室を出たのを確認し、少し時間を置いてから俺は後を追った。徹底しているからな。


 そして階段を上って行き、ついに俺は最上階の1つ前の階に辿り着いた。


 最後の屋上へと繋がる階段はロープで塞がれており『立ち入り禁止』のプレートが貼られている。


 だが俺はそんなのお構い無しに、よいしょとロープを飛び超えて、また階段をカツカツ上っていく。


 そして……


「あー藍野君!」


 1番上の階段に腰掛けている雨宮の姿を発見した。


 この位置からだと、スカートの中が見えそうだ……ま、まぁ俺は紳士ですからね。見ませんけどね。ね。ね。


「藍野君! 来たのはいいけど、鍵がかかって屋上行けないよ? どうするの?」


「あっ……ああ。すぐに開けるから待ってて」


 平静を装いつつ、俺は階段を駆け上がり……ポケットからプラスチックで出来たクリップを取り出した。


「なにそれ?」


「クリップだよ。コレをこうして……」


 俺はそのクリップに力を込めて、真っ直ぐに伸ばした。そしてそれを上手い具合に丸めて、鍵っぽく変形させて……


「よし、出来た」


 完成したクリップを鍵穴に差し込み……回す!


『カチャ』


 扉の開く音が聞こえた……成功だ。


「えっ、スゴっ!!」


 まぁこの鍵が古くて安っぽい作りだから、こんなクリップだけで簡単に開くんだけどね。でも……こんなに驚いてくれるのは気分がいいや。


「ホントに凄いよ藍野君! 天才だね!」


「……ありがとう」


「あっ……もしかして、これもマジックなの!?」










「…………いや、ピッキング」

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