第五章「農業はスローだけどハードである」
19.農業を始める前に読書
丘の周りの草原も生い茂るように成長していくこの季節。
まだ春と夏の間で幾分か快適なこの時期だが、屋敷の住民はそんなことを全く気にせず何時ものように自分たちのやりたいことをやっていた。
この屋敷の住民で薬師でもあるレイラはハルが転移魔法で持ってきたかつての住居で今は研究所に籠もりながら今日もポーションや新しい薬を開発していた。
「レイラ様、こちらの調合完了しました」
「ありがとう、サフィ、じゃあ次これよろしくね」
「畏まりました」
今やすっかりレイラの助手となったサフィにテキパキと指示を出し、別の薬を作り始める。
しかし、ある程度仕事をこなしたところでレイラは悩ましげに溜息をつき、呟いた。
「……薬草が足りないわね」
「あれほどたくさんのポーションとか作るとなるとやはり薬草が不足しますね」
「そうよね……普通の薬草なら1日ですぐ生えるけど希少価値が高いものはそう言うわけにもいかないもの」
レイラは研究所周りの薬草畑を見る。薬草はたくさん生えていたが、一方でレイラが新たに開発した『体力魔力同時回復ポーション』の薬草の方はまだ成長途中ものが多かった。
「うーん……畑の面積を増やすしかないわね、これは」
「まあ確かに草原の面積はかなりのものですし、ショコラ様やハル様に交渉してみますか?」
「そうね……ちょっと聞いてくるわ、サフィ、ついて来て」
「分かりました」
そう言い、2人はショコラやハルがいそうな図書館へと向かっていった。
「あー……日差しが高くなったな、そろそろ夏か」
「嫌ですよ、夏なんて暑苦しいだけですから」
「お前はホント相変わらずだよな……」
何時もの会話をしながらハルは本を読み、ショコラは何やら書いていた。どうやらあの一件以来ショコラ達以外にも結末がハッピーエンドの物を書く人が増えたらしく、ハルはそう言う本を読むのが楽しみになっていた。
ショコラも執筆の楽しさに目覚めたのか最近は暇さえあれば本ばかり書いている。ハルはショコラが書く本も楽しみにしているのだ。
二人が何も変わらない日常を過ごしていると、急にドアが開きレイラとサフィが息を切らしたように入ってきた。突然の訪問者に二人はびっくりした。
「どうしたレイラ。サフィまで慌てたように入ってきて……」
「何か出たんですか?」
「いえ、そうでは無く。少しお願いしたいことが……」
「お願いしたいこと?」
2人は顔を見合わせ、レイラの話を聞くことにした。
「なるほどね、必要薬草が増えたから畑が必要だと」
「はい、ですので草原の一部を畑にしたいと思ってまして」
「確かにいいかもしれないわね。今のところ殺風景だし、畑とかあれば少しは草原の見栄えもよくなるかもしれないから」
「いいんですか、ショコラさん。草原全体を畑にするなんて」
「このぐらいなら問題も無いだろ」
「そうですけど……」
嬉々としてレイラの提案を受け入れるショコラにハルは心配になった。
「でもショコラさん。畑の土と草原の土って違いますよ? 同じ薬草でも種類によって土の種類も変わってきますし……」
「魔法で生成できない訳じゃ無いだろ?」
「まぁ出来ますよ。後は整地とかも色々あるし……」
「あー……そっか、ってそれも魔法で何とかなるだろ」
「そんなテキトーな……なりますけど」
とますます心配してきたハルだったが、ここで新たな人物が入ってきた。
「ただいま、失礼します。ショコラ様、ハル様ちょっと頼み事があるのですが」
「ん? ルビィにセレネじゃないか、どうした」
「先程までセレネさんとクレセさんと買い出しに行ってたんです」
「8人もいるとご飯の量も必然的に多くなりますから」
「はい、それにお金もかかりますし……」
「で、相談した結果、野菜を作ろうと提案しました」
「え!? マジで」
「ショコラ様?」
「なぜ、驚くのです?」
ショコラがびっくりした反応をしたので、2人は驚いた。
ショコラはよく分かってない2人に先ほどのレイラのことを説明した。
「はぁ、そんなことが」
「レイラ様も同じ事を」
「そう。そこで畑を作ろうとしたわけだけど、何か作りたいってある?」
「そうですね……まぁよく使うにんじんやタマネギとか後は夏に取れるキュウリとかトマトとかを」
「なるほどね。でも何も知らずに始めるわけにはいかないでしょ」
「それはごもっともです」
「と言うわけで、とりあえずここにある本を全員熟読しなさい。この辺は農業に関する本だから絶対読むべきよ。私も読むけど」
「分かりました」
ハルは本棚から何冊かの本を取り出し、4人の目の前で出す。
住民達はそれぞれ必要な本を手に取り、図書館や自室へと戻っていった。
そしてハルとショコラは畑に必要な物を調べるために図書館に残り、その本を手当たりに次第に読んでいったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます