18.屋敷内に咲く薔薇と百合

 「うわっあ! クロエいつ来たの!?」

不敵に微笑むクロエに気づき、ハルは驚いて後ろに飛び跳ねた。

そんなハルにクロエは先ほどより若干気持ち悪い笑顔を見せながら言った。

 「どうです? 私の中で最高傑作なんですよ」


 ハル自身、読書の一環としてこういう物を読んだりしていた。大体友達に勧められたものを読んでいた。彼女自体は読むことに特に抵抗はなかったか、腐女子と言われるほどハマったかと言うとそうでも無い。


まさか異世界でBLを見ることになるとは思わず、ハルはクロエの肩に手を置き、少し呼吸を整えてから言った。

 「ク、クロエ……作品としての出来は素晴らしいわ。恋愛もの書かせたら最高なほどに」

 「ハルさん、ありがとうございます!」

 「ところで、これを世に出そうと考えてる?」

 「うーん……ハルさんが褒めてくれるなら出そうかなと」

 「うん、ちょっと待ってね。別に私はこう言うの嫌いって訳じゃ無いけど世の中にはそういうのを嫌悪する人もいるの」

 「と言うと」

 「異性愛は大体目の当たりにするから特に問題ないけど、同性愛はタブーだったりするでしょ。ハマる人はハマるけど、そうで無い人を考えると世に出すのはまだ早いかな…」

ハルはクロエを説得するように聞かせた。


 「そうですか……」

としょんぼり落ち込むクロエ。そんな彼女を見て、ハルは罪悪感に苛まれ、慌ててある提案をした。

 「で、でも屋敷の皆に見せるのはありなんじゃないかしら? もしかしたら趣味が合うかもしれないし……」

 「ホントですか!? じゃあ早速今夜皆さんに見せますね!」

ハルの一言で明るい表情になったクロエ。ハルは少し安堵したようにふーっと息を吐いた。



 そしてその日の夕食後、全員が図書館に集まったのを見てから、ハルは言った。

 「ゴメンね、夕食後にどうしても見て貰いたい物があって……クロエ」

 「はい、こちらに」

クロエはハルに自分が書いた原稿を渡し、皆に見せた。

 「これ一応クロエの新作だけどちょっとした事情で世には出せないの。でも面白かったから読んで欲しいと思って」

ハルの『世には出せない』の言葉に首をかしげたメンバーだが、とりあえず読んでみようと言うことになった。


 しばらく図書室はハルとクロエ以外の住民が原稿をパラパラと捲る音しか無かったが、ショコラが顔あげると徐々に全員同じ体勢になった。

 その顔は様々で嬉しそうだったり、ちょっと引いているような顔だったり、真剣な顔をしていた。


 「クロエ」

最初に声を出したのはショコラだった。

 「私としては面白かった。同性愛という禁忌を文章にするという発想。目の付け所が素晴らしい。後いつものことだが文章が綺麗だ」

 「ホントですか、ショコラさんありがとうございます!」

 「ただハマったかどうかと聞くとそうでもないな」

とバッサリ言われ、クロエは落ち込んだ。しかし、ここで援護する者が現れたのだ。

 「クロエ……あなた最高じゃない!」

 「そうですよ! 男性同士だからの苦悩……正直、男女恋愛よりも好きよ私は」

 「あ……ありがとうございます!」

レイラとルビィは立ち上がり、クロエの方に行って彼女の手を握った。

お気に召した二人の反応が嬉しかったのか、クロエも笑顔になる。

その様子を見てハルは「また面倒くさくなってくるなこれ……」と机に突っ伏した。


 しかし、盛り上がっている3人をよそにセレネが物申した。

 「正直、私はここまで好きになれませんでしたね……お嬢様、こちらと同じ内容で女性同士のものはございませんか?」

そのあまりの発言に場は凍り付きハルは(あんたはそっち系か!)と心の中で突っ込んだ。

だが、クロエは取り乱すことなく、どこからか一束の原稿を取り出した。


 「実は女性同士の恋愛ものも書いていたのよ。皆様読んでみます?」

と不敵に微笑んだクロエを見てハルは(まさかこっちもいけたとは……)と更に気落ちした。GLもハルは読んだけどあまりハマらなかった者である。


 さてまた長い間彼女たちが原稿を捲る音しかしなかったが、全員読み終えた。

すると、突然二人が立ち上がった。


 「お嬢様、男性同士だけで無く、女性同士も書けるとは! さすがとしか言いようがございませんわ!」

 「クロエ様! 私男性同士はあまり好みでは無かったのですが女性同士の恋愛ものなぜかすんなりと受け入れることができましたの!」

と、今度はサフィとセレネの二人が騒がしくなった。


 それと同時に頭を抱えたハルは懇願の眼差しをクレセとショコラに向けた。ショコラの方はすぐに目を背けたが、クレセはハルの方を見た。

ハルはすがるように彼女に聞いた。



 「クレセ、あなたはどう思った?」

 「うーん……あたいはよく分かんなかったなぁ。あまり恋愛ものとか読まないし……」

 「クレセ! あなたはそのままのあなたでいて頂戴ね!」

 「う……うん……何か知らんけど分かったぞ」

ハルは号泣しながらクレセに抱きついたため、クレセは怪訝な顔をしながらも頷いた。 



 「ところでクロエ、これ出版するの?」

 「と、考えていましたが同性愛とかの考えがあまり世に広まってないのでどうかとハルさんが言ってまして」

 「え!? でも考えると一理あるわね……」

 「だったら、図書館にもスペースを作って、趣味の合うもの同士で読んだり書いたりするならいいんじゃないか? そうだろ、ハル」

 「もう勝手にして……」

ハルは机に突っ伏し、気の抜けた状態で返事をした。



 さて、ハルの行動で始まった屋敷内小説執筆活動は、予想外の方向へと花開いてゆき、ますます書くことが盛んになったのだった。



 ……しかし、一方でこんなことも起こった。


 「はぁ!? オレ様キャラが攻めでしょうが!」

 「何言ってんの!? そう言う奴ほど泣かせたくなるでしょ!?」



 「妹キャラは攻めです」

 「見損なった……絶対受け一択なのに……」

 

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