15.ハッピーエンドってそんなに衝撃?
数日ぶりに部屋の外から出てきたハルは真っ先に図書館にいるショコラの方に向かった。
「ショコラさん! ちょっと書いたんで読んで下さい」
「マジか! もうできたのか! おう、ちょっと読ませてくれい!」
ハルはショコラに原稿を渡し、彼女の隣に座った。ショコラはハルから貰った原稿を読み始め、しばらく原稿をめくる音と側にそれを置く音以外はしなかった。
全ての原稿を読み終え、原稿を置くとショコラはふーっと息を吐き、天を仰いだ。
そして両肘をつき、顔を下げる。中々感想を言わないショコラにハルは不安になった。
「ショコラさん? どうしました? やっぱりダメでしたか…」
「お前天才か!?」
「ショコラさん!?」
しばらくの間そのままの体勢でいたショコラだが急に飛び上がり、ハルの方を向く。その目はキラキラと輝いており、嬉しそうだった。
「いいか、私はこれまでオマエの買ってきた本で冒険譚を読んできたが、主人公が死んで仲間が敵をとるというや仲間が裏切り全て殺されるという物のが多かった! だが、オマエのは違う! 主人公は生きてるし、仲間も裏切らない! 特にラスト、魔王を倒すときに今まで助けてくれた人の思いで強くなるシーンは見てて熱くなったぞ!」
「…そりゃあどうも…」
褒められて嬉しいハルだが、ここまで熱く語られるとは思わず、少し遠慮した物言いになった。しかし、いい作品を読んで興奮が冷めないショコラは呆然とするハルの両肩を掴み、揺すりながら続ける。
「いやーしかしオマエは天才だな! こんな素晴らしい作品を書けるなんて! 何で今まで書こうとしなかったんだー?」
「…ショコラさん…ちょっと…苦しい…」
「ああ、すまんすまん。ちょっと興奮しすぎたようだ」
ショコラから解放されたハルは少しよろめき、近くの机に寄りかかった。
ショコラはハルに背を向けていたが、振り向き、提案した。
「なぁ、これ売りに出さないか?」
「はぁ? 何でいきなり?」
「私としてはこの物語を世に出したい! フィクションを読んでこんなにも清々しい気持ちになったのは初めてだ!」
「はぁ…そりゃ…何より…」
ショコラの過剰にも受け取れる褒め言葉を聞き流しながらハルは(この世界のフィクションに努力・友情・勝利って概念無いのかな…)と心の中で思っていた。
「まぁ、世に広めるなら別に良いですけど、世間は受け入れてくれますかね」
「何、問題ないだろ。私がいるだろ?」
「味方がいるのは確かに心強いですけど、一人だけじゃあちょっと…」
未だ机に寄りかかりながら不安そうに言うハルに、ショコラは話す。
「じゃあ屋敷の皆に読んで貰うのはどうよ。これで半数以上面白いといったら、本屋に持ってくぞ、それなら良いよな」
「まぁ確かに、この屋敷に住んでる皆さん私の買ってくる本を読んでますからね。それなら納得できます」
「よし、決まり! じゃあ早速…うん? クロエ、どうした?」
図書館の扉の方を見ると、クロエが遠慮がちに覗いていた。クロエは少し気まずそうに二人を見ており、入るのを躊躇っているようだった。
ショコラが手招きでクロエを呼び、それにクロエはゆっくりながら応じた。ある程度近づいたところでクロエは少し不安げに話した。
「あの…何を話されていたのです?」
「とりあえず、これを読んで欲しいんだ」
ショコラはクロエに先ほど読んでいた原稿を渡す。クロエはその原稿を見ながらショコラに言った。
「これって…フィクションですか? しかも冒険物の」
「ああ、そうだぜ。ただ今までの冒険物とはかなり違ってくるんだ。まぁ読んでみろよ」
「分かりました…。」
クロエは原稿に目を落とす。ゆっくりとしたスピードだったが、時折「まぁ」とか「凄い…」と言った感想が聞こえてきた。
ある程度の時間が経ち、クロエも全てのページを読み終えた。そして一息ついた後、ハルに近づき、手を握った。その表情はとても嬉しそうだ。
「ハルさん! 私感動いたしましたわ!」
「え? どういう事?」
「私、今までこういう物は悲劇的結末を迎える物が多かったの! でも、ハルさんのは大団円で見てるこっちも嬉しくなってきましたわ!」
「あ…ありがとう…そう言われると何か照れるね…」
クロエから目を反らしたハルだが、その顔は紅潮しており、嬉しそうだった。
その様子を椅子に座ってみていたショコラが言った。
「よーし、これで二人目だな! とりあえずそろそろルビィがご飯の支度を終わる頃だし、今日の夕食時にこの原稿を持っていって、皆に読んで貰おうぜ!」
「はい! こんな面白い物読まないなんて勿体ないですからね!」
「そ…そう?」
興奮気味になって、食堂へと急ぐショコラとクロエを追い掛け、ハルは図書館から出た。
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